日本で初めて市販にこぎつけたスーパーカー、NSX。それまで大衆車が大半を占めていた日本車メーカーにとって、トヨタ セルシオなど高級車とともに新しい扉を開いた1台ですが、どのように開発され、どのように活躍した車だったのでしょうか。現在のリフレッシュプランまで含めご紹介します。

©鈴鹿サーキット

 

NSXのルーツとなる1984年、ホンダはどんな車を作っていたか

出典:http://www.honda.co.jp/sportscar/sportscar/ballade_sports_cr-x/

初代NSXのルーツは1984年までさかのぼりますが、その頃ホンダはどんな車を作っていたのでしょうか?

・2代目プレリュード(ラグジュアリークーペ)

・2代目アコード / 初代ビガー(ミドルクラスセダン / ハッチバック)

クイント(小型ハッチバック・インテグラの前身)

・3代目シビック / 2代目バラード(小型セダン / ハッチバック)

バラードスポーツCR-X(小型スポーツハッチバック・初代CR-X)

・初代シティ(コンパクトハッチバック)

・初代アクティ(軽1BOX / 軽トラ)

上記のように、1972年にデビューした初代シビックの成功後、徐々にラインナップを増やしていた時期で、まだシビックを中心としたコンパクト~ミドルクラスまでの大衆車がメインの時代。

国産車メーカーの序列としてはトヨタ・日産・三菱の「当時の御三家」とマツダに続き、いすゞやスバルよりはやや上といったところでしょうか。

後に傘下に収めかけた英ローバーグループと提携するなど話題はありましたが、まだまだ車種ラインナップは乏しく、後のNSXにいくらかでも近い車種はプレリュードくらいだった、そんな時期。

しかし、そもそも四輪車市場へ参入前にF1へ参入していたホンダ(第1期ホンダF1)は、今何を作っていようが将来どうするかは自由!とばかりに、さまざまな可能性を研究していました。

 

フォルクスワーゲン EA266と似たコンセプトの初代シティ改造「UMR」実験車

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/フォルクスワーゲン・ゴルフ

1984年とはその意味で非常に重要な時期で、後にホンダの代名詞ともなる可変バルブ機構「VTEC」へと繋がる次世代エンジン開発も、この年に始まっています。

他にも自由な発想で研究が進められており、UMR(アンダーフロアー・ミッドシップエンジン・リアドライブ)と呼ばれる新しい駆動形式も、初代シティをUMR化した改造車でテストが始まりました。

UMRは、「後席下にエンジンを配置して車体中央に動力系をコンパクトにまとめ、居住性と操縦性を両立」というコンセプト。

同様のコンセプトは1965年、「ビートル」ことフォルクスワーゲン タイプ1の後継車、EA266(上画像)でも試みられましたが、後席の騒音やメンテナンス性などデメリットが大きい反面、大衆車として優越性を見出しにくいと評価されて開発中止、代わりに初代ゴルフが生まれました。

UMRも同様の経緯で商品化には直接つながらなかったものの、そのハンドリングの爽快感から「これでスポーツカーを作ったら面白いのでは」と、別のコンセプトに発展していきます。

 

第2期F1と、ホンダ車の架け橋

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/ウィリアムズ・FW09

こうしてUMR実験車に続き、漫画「よろしくメカドック」を彷彿とさせるような、初代CR-Xベースのリアミッドシップエンジン実験車が走り出します。

一方、1993年にはスピリットやウィリアムズへのエンジン供給という形で第2期ホンダF1プロジェクトが始まっていました。

1984年にはウィリアムズFW09が初優勝を果たしますが、前述のように当時のホンダには「F1で活躍しても、それをアピールして販売台数に貢献させるべき市販車が無い」という状況です。

第1期F1の頃にはS500~800という市販スポーツカーもあって「スポーツカーのホンダ」というイメージ形成に一役買っていましたが、1980年代のホンダにはその受け皿が無く、F1と市販ホンダ車に乗るユーザーを繋ぐ「架け橋」が求められていました。

 

天の川チャートと「人間性の優先」

出典:http://www.honda.co.jp/50years-history/challenge/1990thensx/page02.html

そこで、単にUMRのスポーツカー化ではなく、まず「ホンダを象徴するスポーツカー像」を模索、「動力性能(パワーウェイトレシオ)」を縦軸、「曲がる・止まる性能(ホイールベースウェイトレシオ)」を横軸とした「天の川チャート」(上画像)が生まれました。

これを基に、理想の実現に向けた議論が繰り返されます。

・運動性能だけ追求すると、速いかもしれないが卑屈で運転しにくいガマングルマになる。

・そんな車は人間性を優先するホンダのコンセプトと相容れない。

・「人間と車の性能が高次元でバランスされたスポーツカー」という新しい価値観をホンダが提供することに意味がある。

・しかし、そのために必要な車内スペースや装備を確保すると重くなる。

・重くなるとパワフルなエンジンを要してさらに重くなる。

・ならば軽いボディを作ろう!

こうした議論は初期試作車の製作と並行して進められ、とにかくボディを軽量化しよう、それには鉄より軽いアルミ合金を採用してはどうか、と考えられました。

 

「新幹線だってアルミ製じゃないか」世界初のオールアルミモノコックボディ

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/新幹線200系電車

当時はオールアルミボディを使った量産車など無く、アルミ合金以上の軽量化が可能な自動車用ハイテン(高張力鋼)も無かった時代でしたから、理想実現にはアルミ合金が不可欠です。

そこでホンダの技術者の脳裏をよぎったのは1982年に開業した東北・上越新幹線。

東海道・山陽新幹線を走っていた0系 / 100系新幹線は基本的に鋼製車体でしたが、より過酷な環境で走るため構造が複雑、鋼製では重量過大となる東北・上越新幹線ではアルミ車体の200系新幹線が採用されていました。

「新幹線をアルミ製にできるなら自動車でもできるだろう。問題があれば改善していけばいい。」

出典:http://www.honda.co.jp/50years-history/challenge/1990thensx/page03.html

こうしてホンダの要望を受けた材料メーカー各社の努力で、どうにか自動車モノコック用アルミ合金と、その加工法が確立していきます。

1986年にはオールアルミボディのCR-X実験車が完成、「世界初のアルミモノコックボディ量産スポーツカー」の開発が確定しました。

 

アイルトン・セナのアドバイスで剛性アップ!最後の熟成へ

出典:http://www.honda.co.jp/50years-history/challenge/1990thensx/page04.html

オールアルミ版CR-Xによる実験を経て、いよいよ商品化に漕ぎ出した初期開発車両も、いよいよ走り出します。

当初考えられていた2リッター直4エンジンを搭載した軽量スポーツカーは、主要市場となるであろう北米を考慮してレジェンド用3リッターV6エンジンに変更、これをDOHC VTEC化した上で搭載していました。

1989年2月にはシカゴ・オートショーで「NS-X」(NewSportsCarX)として初公開されますが、同じ頃、伝説のF1ドライバー「音速の貴公子」故 アイルトン・セナ氏が鈴鹿サーキットでNSX試作車のステアリングを握ります。

そこでアイルトン・セナ氏から指摘されたのは「量産車のことはよくわからないけど、なんだかボディがヤワいよね?」。とのコメント。

この課題をクリアすべく、当時のホンダエンジニア陣は世界屈指の過酷なサーキット、ニュルブルクリンクサーキット北コースでの走り込みと研究開発を始めます。

各パートの設計担当者を助手席に乗せたテスト走行と、本国の研究所ではフィードバックを反映した設計変更を繰り返し、結果、約50%もの剛性アップを果たしました。

 

スポーツカーの概念を変えた車

出典:http://www.honda.co.jp/sportscar/spirit/05/pfile6/

1989年6月には、日本のみならず世界中のサーキットなどを使った試乗会が行われました。

そこでは多くの人々から、高性能と快適性の両立に対し惜しみない賛辞が送られます。

「このクルマによって、スポーツカーの基準を変えなければならないだろう」

「今までのクルマは過去のものになった」

ホンダHP・語り継ぎたいこと・ホンダのチャレンジングスピリット「NSX / 1990」 アメリカのジャーナリストより。

それまでのスポーツカー、スーパーカーは高性能な反面、ユーザーに高度な運転技術を求め、視界や快適装備などは二の次な「所有して運転してみせるだけでもスゴイと言われる車」ばかりでしたが、NSXは高性能なまま、それを見事に覆してみせたのです。

まさにスーパーカーの歴史の転換点で、同時期デビューのトヨタ セルシオ同様、自動車の歴史に大きな影響を与える事となりました。

 

バブル景気とその崩壊に翻弄されたデビュー

出典:http://www.honda.co.jp/sportscar/spirit/05/pfile6/

1990年8月、満を持して初代NSXデビュー。

その頃、日本では史上空前の好景気「バブル景気」に沸き立っていたこともあり、800万3,000円からという当時としては非常に高額な価格ながら、予想を大きく上回る注文が殺到しました。

これは1日25台という生産能力に対し3年分のバックオーダーに匹敵、急遽増産体制が敷かれます。

いち早くNSXが納車されたユーザーは注目の的となり、中には人集めのため「バイトしてくれるならNSXを貸します!と求人広告を出したラーメン屋」まで現れるほど。

しかし、直後にバブルは崩壊して日本経済は底の見えない不景気に転落、NSXもキャンセルが相次いで「空前の国産スーパーカーブーム」は短期間の空騒ぎで終わるなど、時代に大きく振り回されるデビューとなったのでした。

 

16年ものロングライフと、ホンダ初のタイプR

出典:http://www.honda.co.jp/sportscar/spirit/01/index2.html

バブルによる空騒ぎが収まると、その後のNSXはスーパーカーらしく、地道に少数生産と改良が続けられました。

その間には、1992年(NSXタイプR)と2002年(NSX-R)の2度にわたり、タイプRも設定されます。

エンジンの精度向上によるレスポンスアップや装備簡略化による軽量化がメインでしたが、1992年の初設定時がホンダ初の「タイプR」でした。

1997年にはMT車のエンジンが3.2リッターに変更(II型)、2001年にはリトラクタブルライトを廃止して固定ヘッドライト化(III型)などマイナーチェンジが行われます。

エンジンの低公害型化も進められ、多くの「90年代国産スポーツ」が排ガス規制を乗り切らずに廃止される中、初代NSXは生き残りました。

しかし、それ以降に欧米で施行される排ガス規制対応は新型が妥当だと判断され、2005年で注文受付を終了、2006年1月に最後の1台がラインオフして、約16年の歴史に幕を閉じたのです。

 

またもや景気に振り回された後継車

出典:http://mos.dunlop.co.jp/archives/sgt/race-data/report_sgt_1_20120331_500.html

なお、初代NSX生産終了時点で後継車の開発は進んでおり、ホンダの高級車ブランド「アキュラ」が2008年に日本展開後、2010年にデビューする予定でした。

しかし2008年、リーマンショックで始まった世界大恐慌によりアキュラ日本進出は白紙撤回、NSX後継車もSUPER GT用レーシングカー「HSV-010 GT」としての活躍に留まります。

初代に引き続き景気に翻弄された「幻の2代目」でしたが、2016年に「2代目NSX」で10年ぶりのモデルチェンジを果たしました。

なお、型式は初代NA1 / 2に対し2代目はNC1で、本来HSV-010がそうであったと思われるNB1は「欠番」となっています。

 

モータースポーツでの活躍

©鈴鹿サーキット

ホンダ / アキュラが販売するスポーツカーの頂点に立つNSXは、モータースポーツの世界でも数多く使われており、車の性格上、ほとんどが舗装路での競技ですが、中には意外なところでの活躍もありました。

 

レース

出典:http://www.honda.co.jp/Racing/gallery/1995/01/

当初はレース参戦まで考慮していなかったため、「発売と同時にレースデビュー!」のような出来事は無く、1991年からアメリカでIMSA参戦した程度でレースからちょっと遠い存在でした。

1994年からはル・マン24時間レース等のメジャーレースに参戦を開始し活躍しました。

©鈴鹿サーキット

1996年からJGTC(2005年以降は現在のSUPER GT)へ参戦し、日産 BNR34スカイラインGT-RやZ33フェアレディZ、トヨタ JZA80スープラやレクサスSC430と2009年まで熱いバトルを繰り広げました。

規則上、ミッドシップ車へのハンデもあって常に優位とは言えませんでしたが、JGTC時代にはGT500(2000年)、GT300(2004年)双方でシリーズチャンピオンを獲得しており、SUPER GT時代にも2007年にチャンピオンとなっています。

 

ジムカーナ

©Motorz

ジムカーナでも初代NSXは遅咲きで、初めて脚光を浴びたのは1999年の全日本ジムカーナ選手権シリーズ。

前年までEK9シビックタイプRでA2クラスを戦っていた山野 哲也 選手がA3クラスに転身、NA1 NSXタイプRを使用したのが最初です。

中古車が安くなっていたとはいえ、当時新車価格900~1,000万円級だったNSXはジムカーナでは異例の高級車で、2003年に日部 利晃選手がN3クラスにポルシェ911カレラRS(964型)を持ち込むまでの最高額車。

そんなスーパーカー、しかもA3クラス主力のDC2インテグラタイプRよりはるかに大柄な車体でジムカーナを制することができるのか?と思われていましたが、結果は見事シリーズ優勝を果たしました。

©Motorz

翌年から同選手はS2000に乗り換えますが、2004年に今度はNA2 NSX-RでN3クラスに出場、同年から2年連続でクラスチャンピオンに輝きます。

以降初代NSXはロータス エキシージやトヨタ SW20 MR2とともに、ジムカーナ競技でリアミッドシップ車の定番車種となりました。

(※上画像は2点とも全日本ジムカーナ2017第2戦SA3クラス)

 

ダートトライアル

ダートトライアルにもNSXは出場。

それも時々珍しい車が出る地方選手権以下では無く、全日本ダートトライアル選手権でレギュラー出場していました。

それが河石 潤 選手の NA1 NSXで、2010年から2013年までN1クラスを戦い、最高位は2010年第7戦コスモスパーク(京都)での4位入賞と、惜しくも表彰台はならず。

「ダートラで土煙を巻き上げ、砂利を飛ばしながらNSXが走る!」というインパクトは強烈でしたが、2013年を最後に86へ乗り換えました。

ただし、シリーズ終了後に地方選手権上位+全日本ドライバーで行われる、JAFカップでは、同選手によるサービスか、今でも年に1度ダートを激走するNSXが見られます。

 

そして今も、リフッシュプランは続く

出典:http://www.honda.co.jp/auto-archive/nsx/2005/special/nsx-press/press33/from_refresh02/index.html

生産終了から11年がたった初代NSXですが、ホンダのみならず国産車の歴史上も大切な車だけあって、今でもホンダ自身で行われているのが「リフレッシュプラン」です。

内外装のみならず、エンジンやサスペンションなどメカニズム面までリフレッシュメニューは多岐に渡りますので、NSXオーナーはメンテナンス予算さえあれば安心してNSXに乗り続けることができます。

日本車でこうしたメーカー自らレストアに近い作業を行うのは珍しい例となっています。

ホンダ「NSX リフレッシュプラン」

基本料金:130,000円(税別)

【内容】

車両総点検、診断、計測、調整、テストコースでの走行検査、他

クリーニングオプション:166,000円(税別)

【内容】

外装ポリッシング、ボディ細部洗浄、ホイールハウスチッピングコート

 

その他各種プラン多数。

 

初代NSXの代表的なスペックと中古車相場

出典:http://www.honda.co.jp/sportscar/spirit/05/pfile6/

ホンダ NA1 NSX タイプR 1992年式

全長×全幅×全高(mm):4,430×1,810×1,160

ホイールベース(mm):2,530

車両重量(kg):1,230

エンジン仕様・型式:C30A V型6気筒DOHC24バルブ VTEC

総排気量:2,977cc

最高出力:280ps/7,300rpm

最大トルク:30.0kgm/5,400pm

トランスミッション:5MT

駆動方式:MR

新車価格:970.7万円(タイプR登場当時)

中古車相場:268万~1,380万円

 

まとめ

国産車初のスーパーカーであり、その後の世界の量産スーパーカーの歴史にも大きな影響を与えた初代ホンダ NSX。

その快適性の高さから、スパルタンなリアルスポーツを望む層からは物足りない、贅沢という意見もありましたが、タイプR追加でそうした声にも応えていきました。

現在の500馬力、600馬力は当たり前というスーパーカーからすれば動力性能面では物足りないかもしれませんが、スポーツカーはパワーだけでは成り立ちません。

走行性能はもちろん、維持のためホンダ自身が今でも努力を続けているところにも、ホンダの魂を感じる1台です。

 

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