最新スポーツカーのニュースは車好きの私たちの心をときめかせます。伝統あるマシンの新型、あるいは再来であればなおさら。しかし、代替わりしながらも伝統的に長年絶えず作られ続けているスポーツカーは本当に少なく、マツダ ロードスターが数少ない例外となれたのは、初代NAロードスターが世界の自動車史に大きな影響を与えた名車だからこそでしょう。
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ロードスター前夜、LWSプロジェクト始動
1976年、マツダの研究開発幹部が海外の日本車専門家へ「マツダが作るべき次世代車」について問いかけた時、返ってきた答えはこうでした。
「かつて人気のあったイギリスの古典的なスポーツカー、それも安価なロードスターモデルこそが、必要とされているのでは無いか?」
当時、オイルショック以降の経営危機から立て直し最中だったマツダに余裕は無く、この話は一旦その場限りで終わってしまいます。
しかし、初代RX-7(SA22C・1978年)と5代目ファミリア(初のFFファミリアBD型・1980年)のヒットで一息ついた1981年、関係者はかつて夢見た安価なスポーツカーの事を思い出しました。
そこから「LWS(ライトウェイトスポーツ)プロジェクト」が始動します。
FRか?FFか?MRか?日米コンペ合戦
今となっては意外なことですが、その当初LWSは「FRスポーツ」と決まっていませんでした。
カリフォルニアのチームはFR(フロントエンジン・後輪駆動)、日本のチームはFF(フロントエンジン・前輪駆動)またはMR(リアミッドシップエンジン・後輪駆動)を提案していたのです。
当時はフィアット X1/9の成功で、FF車をベースにエンジンを後ろに移せば本格的ミッドシップスポーツが安価に実現可能とされ、日本でも初代トヨタ MR2(AW11・1984年)がデビューしていました。
そこで初期案決定はFR推しのカリフォルニアとMR推しの日本の間で競作となり、ペーパーデザインからクレイモデルでの比較を経た1984年8月、カリフォルニア案のコードネーム「デュオ101」が勝利したのです。
イギリスのIDA社で作られた試作車「V705」は、カリフォルニア州サンタバーバラでマーケティングを兼ねた公道走行テストで熱心な自動車マニアの目を引き、「何だその車は?売ってくれ!」と迫られるという、S30フェアレディZ試作車と似たようなエピソードが生まれました。
有志による「リバーサイドホテル」での開発
1986年1月、LWSプロジェクトはマツダ経営陣から正式な承認を受けました。
そう、ここまでの開発は有志による手弁当によるプロジェクトだったのです。
突然発表された突拍子も無いコンセプトが人気車へ成長する影には、しばしばこのような「夢見る人々」の情熱があり、LWSもその例外ではありませんでした。
その1人が、後に初代ロードスターの途中から開発主査となり、ミスターロドスターと呼ばれることになる貴島 孝雄 氏。
終業後に通称「リバーサイドホテル」と呼ばれた小さな設計室でサスペンションの図面を引く同氏でしたが、当時の担当はタイタンなどトラックでした。
しかし同氏によれば、時には過荷重での耐久力を求められるトラックも、限界を超える走行性能を求められるスポーツカーも根っこは同じだそうで、LWSの開発にも張り切って打ち込んだようです。
試験車両を自らテストコースで走り込んではガードレールに刺さっていたという逸話を聞いた事がある方もいるのではないでしょうか。
なお、その頃のマツダは2代目RX-7(FC3S / FC3C・1985年)が既にデビューしており、生産の手間を考えるとこれ以上のFRスポーツは不要不急と社内でも逆風を受けましたが、それでもLWSは関係者の努力によって完成しました。
MX-5ミアータ、日本名「ユーノス ロードスター」誕生
1989年5月、アメリカで「マツダ MX-5ミアータ」がデビュー。
なお、当時の日本ではマツダが販売網拡大のため5チャンネル体制(※)を始めていました。
そこでMX-6(マツダ店)やRX-7(アンフィニ店)、AZ-3(オートザム店)など他チャンネルで販売するスポーツクーペとは別に、ヨーロピアンスタイルの車を揃えるユーノス店のピュアスポーツカー、ユーノス ロードスターとして同年9月に日本でもデビューしたのです。
ちなみに海外名のサブネーム、ミアータは「贈り物」や「報酬」という意味で、現在でも海外では「MX-5」の名で販売されていますが、2代目NBまでは「MX-5ミアータ」とサブネームつきだったので、NCやNDでもミアータと呼ぶ人がいるようです。
日本では後に型式名から「NA」と呼ばれるようになりますが、デビュー当時はユーノス店の代名詞として「ユーノス」と呼ぶことが多く、古い自動車ファンの中にはNAロードスターを今でもユーノスと呼ぶ人もいるかもしれません。
(※マツダ・アンフィニ・ユーノス・オートザム・オートラマのディーラー5系列体制。バブル崩壊などが原因で失敗し、現在はマツダ店とマツダアンフィニ店に集約)
和の心を持ったスポーツカーデザイン
「ときめき」をデザインコンセプトに日米欧数箇所のデザイン拠点が結集して練られたデザインでしたが、結果的には日本発の新時代スポーツカーであることを強調し、以下のように「和」のデザインテイストが多く盛り込まれました。
・能面の「小面」をモチーフとしたフロントマスク
・同じく能面の「若女」を横から見た姿をモチーフとして、光の映り込みまで計算された、うねるようなサイドライン
・茶室の「くぐり戸」と同じような緊張感を感じて欲しいと考えられたアウタードアハンドル
・江戸時代の両替商が使った「分銅」をモチーフとしたリアコンビランプユニット
・「畳表」の模様をイメージしたシート表面
意外なのは、これら「日本の伝統を記号化した」デザインの基本が、日本ではなくアメリカの拠点から出されたことです。
西洋への憧れがある日本に対し、東洋のエキゾチックな雰囲気を求めたアメリカという違いだったのでしょうか。
なお、中でもリアコンビランプはデザイン機能両面から高く評価され、ニューヨーク近代美術館(※)に永久収蔵されています。
(※同美術館HPによると現在は一般公開していないようです)
スペック至上主義から決別し「人馬一体」へ
わずかな例外を除き現行モデルまで一貫する特徴は、カタログスペックを全くと言っていいほど追求しない点です。
例えば初期型のエンジンはファミリア用1.6リッター直列4気筒DOHCのB6-ZEでしたが、最高出力わずか120馬力。
しかし、現実的なドライブで求められるのは、中間加速やコントロール性であり、カタログスペックは高く高回転までよく回るものの、中回転でスカスカなエンジンでは無いとされました。
変わって採用したのは以下のメカニズムです。
・スロットルレスポンスやシフトフィールのダイレクト感が強い、ミッションケースとデフケースを結合した「PPF(パワープラントフレーム)」。
・エンジンをフロントミッドシップに搭載したほか、ブレーキキャリパーすら前後方向で内側配置するなど、重量物の大半を徹底的にホイールベース内に収める。
・路面への追従性が高い四輪ダブルウィッシュボーンサスペンションをマツダ初採用。
・PPFのほか、高い位置にあるボンネットやシリンダーヘッドカバーをアルミ製として軽量化および重心降下。
これで完成したのは車重わずか940kg、ドライバーが意のままに操る「人馬一体」が可能な、素晴らしい軽量FRスポーツカーでした。
初代ロータス エランの焼き直しか、新時代スポーツか?当初の賛否両論
しかし、NAロードスターに全く批判が無かったわけではありません。
それは意外にも、元々目指していた「昔の英国風スポーツカー」を愛するファンからで、1960年代の名車、初代ロータス エランの焼き直しだと言われてしまうのです。
確かに格納式ヘッドライト(※)で基本的にオープンボディの軽量FRスポーツ、と言えば両者は酷似しています。
しかし、当のロータスが同時期に開発していた2代目エラン(1990年)は高価なFFスポーツであり、初代エランの再来が本家ではなくマツダによって成されたことで、批判的な意見は急速に鎮火していきました。
結果的に2代目エランは人気が低迷し、NAロードスターこそが新時代のスポーツカーとして正解とされ、各国の自動車メーカーは続々と後に続きました。
(※ただし、リトラクタブル式のNAロードスターに対し、初代エランはポップアップ式)
マイナーチェンジで1.8リッター化
それでもなおNAロードスターに更なるパワーを求める声は国内外から多数寄せられ、1993年のマイナーチェンジでは同じくファミリア用ながら、1.8リッターDOHCのBP-ZEエンジンに換装されました(1.8リッターシリーズ1)。
しかし最高出力は130馬力とわずかに向上したのみで、排気量アップの恩恵はむしろ低中速トルクの向上に向けられています。
その分ファイナルギアが4.3から高速巡航にも対応する4.1へとハイギアード化されましたが、結局「加速が鈍い」と批判され、1995年のマイナーチェンジでファイナルギアは戻されました(1.8リッターシリーズ2)。
なお、初期の1.6リッターはリアエンブレムの「Roadster」の文字色が黒、1.8リッターシリーズ2は赤、同シリーズ2は緑と別なため識別可能となっています。
「2つ目のマツダ」を目指したM2のスペシャルロードスター
なお、1991年には「2つ目のマツダ」を目指したという少量限定バージョンブランド「M2」がマツダ子会社として発足し、ロードスターでは以下のモデルが販売されました。
・M2 1001(1991年12月):シビエ製フォグランプを組み込んだM2専用フロントノーズやアルミ製4点式ロールバーを装着、B6-ZEに専用パーツを組み込み10馬力アップした300台限定スポーツモデル。
・M2 1002(1992年11月):1001と別形状のM2専用フロントノーズや専用内外装に換装し、エンジンチューンは無しの100台限定エレガントモデル(予定は限定300台)
・M2 1028(1994年2月):純正オプションより軽量の専用FRPハードトップを標準装備、アルミ製のトランクリッドや10点式ロールバー装着や内外装もカスタマイズ、BP-ZEも10馬力アップの300台限定モデル。
上記3台のうち1001と1002はM2所在地であるM2ビル(※)でしか購入も納車もできませんでしたが、1028は全国のユーノス店で購入できました。
他に試作止まりになったものもあり、代表的なものは以下の試作M2モデルです。
・M2 1006:ルーチェ用3リッターV6DOHCエンジン(ルーチェ搭載時で200馬力)を搭載、大きく盛り上がったボンネットやワイドフェンダーで和製コブラを狙ったモデル。
後に「ガレージベリー」とロードスター専門ショップ「ハンドレットワン」が共同で外装のレプリカキットを販売したと言われている。
・M2 1008:NB時代のロードスタークーペを先取りしたような、クローズドボディのクーペモデル。
なお、大きな夢を描いて開発されていたM2ですが、マツダが極度の経営危機にあった1995年に閉鎖されてしまったのは残念でした。
M2ビルは現在も世田谷区碇に健在ですが、2002年にオートザム店も経営していた冠婚葬祭業の株式会社メモリードに売却され、2003年以降は「東京メモリードホール」という斎場になっています。
モータースポーツでの活躍
「人馬一体」による、速さより楽しさを追求したNAロードスターは、確かに競技やレースなど純粋な勝ち負けを競うという点で当時の1.6~1.8リッター車に対抗はできず、活躍の場は限られました。
それでもわずかな例外はあり、また他車との基本スペックの違いを気にしなくても良いワンメイクレースでは、現在に至るまで活躍しています。
GT300で唸る13Bターボ!「KAGEISEN」に痺れたあの頃
ロータリーNAろど☆すたといえばGT300の科芸専#幻のレーシングカーについて語る pic.twitter.com/ToZFU2KAU5
— 乱入おじさん難民喪失までのカウントダウン (@K3VEM101A) August 19, 2015
NAロードスターがその販売期間中、メジャーなモータースポーツに参戦した数少ない例がJGTC(全日本GT選手権)GT300クラスに出場していた「東京科芸専:REロードスター」。
「科芸専」こと東京科学技術専門学校(※)で製作されたGT300マシンをプロレーサーに託し、1997~1998年に参戦していました。
13Bターボに換装、エンジンルーム内レイアウトの関係で左ハンドルだった事が特徴で、排気管から派手にアフターファーヤーを吹きながら走る姿にファンも多かったものです。
※2005年に東京モータースポーツカレッジへ変わった後、2013年に破産し現存しません。
広島で生まれた男じゃけん!とNA6CEをD1GPで遅咲きさせた男
FRスポーツである以上ドリフトとも無縁では…と言いたいところですが、意外にもD1GPでは中々使用されず、デビューしたのは何と2015年。
かつてトヨタKP61スターレットやダイハツ シャルマンといった変わり種マシンばかり使う事で有名だった岩井 照宜選手が地元である広島愛から広島製スポーツカーである、NAロードスターをD1GPデビューさせました。
もはや旧車の域となった初期型NA6CEに13Bターボを搭載。
トラストT88タービンを組んで、480馬力を叩き出す化物NAロードスターの登場です。
2016年第4戦では単走優勝するも浮き沈みが激しいようですが、2017年も引き続き参戦しており今後の活躍に注目したい1台です。
岩井 照宜 選手(D1GP)
D1GP選手紹介ページ:http://www.d1gp.co.jp/05_driv/driver/teruyoshi-iwai-e.html
基本はコレ!ロードスターカップ
日本全国でロードスターのワンメイクレースが開催されていますが、NAロードスターが今でも参戦できるJAF公認レースとなると、富士スピードウェイで年4戦開催中の「ロードスターカップ」がです。
NAロードスター生産終了後の2002年から始まったシリーズですが、NA / NBレースとNC NDレースに分かれており、エアロパーツなどかなり広い範囲の改造が認められているので、迫力あるマシンの走りが見られます。
ロードスターカップ
開催地:富士スピードウェイ
主催:DO-ENGINEERING
いつかはMotrozも?メディア対抗ロードスター4時間耐久レース
ロードスターによるモータースポーツと言えば忘れられないのが、毎年恒例「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」。
NAロードスターがデビューした1989年からマツダの特別協賛を得て、各メディアが熱いバトルを繰り広げています。
マシンはマツダが準備しており手を加えられる部分は皆無。
某DIYメカニック誌が簡易チューンを試そうとしたら車検でNGになるほど徹底したイコールコンディションで、腕に自信のあるような無いような編集部員と、お世話になっている応援プロドライバーが交代でステアリングを握ります。
単なるお遊びレースかと思えばドラマ性も高く、JGTCの事故で太田哲也選手が重症を負った1998年のメディア4耐では同選手を応援していた某誌チームが優勝、号泣しながら同選手に電話で勝利を報告する名場面もありました。
参戦するのはメディアばかりとは限らず、2016年にはマツダ・トヨタ・日産・STI・ホンダの5社連合チーム「TEAM JAPAN」が参戦。
メーカーの垣根を越えて、自動車産業とモータースポーツ振興のために熱い走りを見せています。
毎年9月頃に筑波サーキットで開催されますが、いつかは是非Motorzとしても参戦したいです!
第28回メディア対抗ロードスター4時間耐久レース
主催:ブレインズモータースポーツクラブ(JAF公認クラブ)
開催日:2017年9月2日(日)
特設ページURL:http://www.media4tai.com/
準備は着々と!マツダによるレストアプロジェクトも進行中!
未だに人気の高いNAロードスターではありますが、さすがに生産終了から20年近くが経っているだけあり、純正部品の欠品など維持が難しくなっています。
ディーラーに相談しても、お手上げと言われ、泣く泣く愛車を手放さなくてはいけない…というユーザーが、オートサロンなどのマツダブースで説明員に愚痴をこぼす光景も見られました。
しかし「マツダならでは」なのがそこからで、その場で集まった説明員がそのユーザーのNAロードスターを何とかできないか、真剣に井戸端会議を始めたそうです。
その気持ちだけでもありがたい話ですが、何と2016年8月の「オートモビルカウンシル」にて、マツダ自らがNAロードスターのレストアサービス開始を宣言!
続報は少ないのですが準備は着々と進んでいたようで、2017年5月に開催されたロードスターオーナーの祭典「軽井沢ミーティング2017」にて、マツダ純正レストアのトライアル車両が公開されています。
発表時には2017年後半開始が目処と言われていましたが、サプライヤー(部品製造業者)の協力も必要なので、多少待つ場合もあるでしょう。
それでもNAロードスターをこよなく愛する皆さんへの愛車に乗り続ける為の希望はそこまで見えています!
NAロードスター代表的なスペック
マツダ NA6C ロードスター (ベースグレード) 1989年式
全長×全幅×全高(mm):3,970×1,675×1,235
ホイールベース(mm):2,265
車両重量(kg):940
エンジン仕様・型式:B6-ZE 直列4気筒DOHC 16バルブ
総排気量(cc):1,597cc
最高出力:120ps/6,500rpm
最大トルク:14.0kgm/5,500rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FR
中古車相場:25万~248.4万円
まとめ
世界中の自動車メーカーの目を覚まし、「ライトウェイトオープンスポーツ」が続々と登場するキッカケとなった名車、NAロードスター。
しかし、その真に偉大なところはデビュー時から現在のNDロードスターに至るまで不変の「カタログスペックを追求しない、安価な小型軽量ライトウェイトオープンスポーツ」というコンセプトです。
同じようなスポーツカーはその後たくさん生まれましたが、そのほとんどはロードスターの後に生まれたにも関わらず、ほとんど消えてしまいました。
代を重ねて、2016年4月には累計生産台数100万台を突破したマツダ ロードスター。
その原点を作り上げた情熱は未だ衰えず、再生すらしようとしているマツダの心意気には、拍手喝采を送らせていただきます!
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