名車の条件とは何でしょうか?たくさん売れれば、あるいはモータースポーツなどで輝かしい実績を残せばいいのでしょうか?たとえ売れず、実績も無く、燃費は最悪の場合リッター1km/L台などと「時代錯誤の恐竜」と言われつつ、「だが、それがいい」と好きな人にはとことん愛される車もあります。今回はそんな名車と珍車、そして迷車とも言える一面を持ち合わせながらも、3ローターターボをうならせ突っ走る、ユーノス・コスモのお話。
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世界初!「正当な権利で作られた市販3ローターエンジン車」ユーノス コスモ
1990年4月に発売されたユーノス コスモはその生い立ちやブランド、メカニズムが非常に複雑で評価の難しい車でした。
まずマツダにおける「コスモ」という車名では4代目となりますが、マツダ公式サイトでは初のロータリーエンジン車「コスモスポーツ(1967年発売)」は別枠と解釈しているようで、その次の「コスモAP / コスモL(1975年発売)」を初代としており、ユーノス コスモは3代目という扱いとなっています(「マツダの名車たち コスモ編初代AP~3代目」)。
さらにマツダはバブル時代にトヨタ並の販売店5チャンネル体制を展開し、マツダブランドへの再統合を経て今に至っていますが、そのひとつである『ユーノス』のフラッグシップモデルとして、ユーノス コスモは誕生しました。
この大型高級ラグジュアリークーペ最大の特徴が「市販車用としては世界初」と言われていた3ローターエンジン20B(2ローターの13B搭載グレードもあり)の搭載。
ただし、基本特許を持つヴァンケル博士に無断で開発した旧ソ連 / ロシアのアフトヴァース(VAZ)がロータリーエンジンを開発しており、世界初の3ローターエンジン車も1980年代には存在していたことが、旧ソ連崩壊後(1991年)に明らかになっています。
そのため、ユーノス コスモの看板たる3ローターエンジン20Bは「正当な権利で作られた世界初の市販量産車用3ローターエンジン」という、少々ややこしい看板になってしまいました。
また、1999年6月まで販売はされていたものの生産は1995年で終了しており、5年間での生産台数はわずか9,000台足らず。
うち20B搭載車は約4割と言われています。
乗り手を選ぶものの、確かにあったユーノス コスモの魅力
「街中で渋滞にハマると燃費は2km/Lを切る」とまで言われた20B搭載車の激悪燃費ばかりがクローズアップされますが、そもそもユーノス コスモは大型高級ラグジュアリー・クーペであり、燃料代について悩む人向けの車ではありませんでした。
発売当時、BNR32スカイラインGT-Rが445万円だった時代に20B搭載車は廉価グレード20BタイプSでも420万円。
本物のウッドパネルや革を多用した高級内装の20BタイプEで465万円、それに世界初のGPSカーナビを搭載した20BタイプE CCSで530万円もしたのです。
現在の価値基準で言えば1,000万円オーバーで、しかも当時の生産コストは2,000万円と「作れば作るほど赤字」とも言われていたので、これでもバーゲンプライス。
何より「マツダロータリーのイメージリーダーでありフラッグシップを大事にするマツダの漢気」に惚れたユーザーにとって、20B搭載コスモは、まさにステータスシンボルだったと言えました。
【マツダ唯一の市販車用3ローターエンジン・20Bの特徴】
・4本出しマフラー(13B搭載型は2本出し)
・本当の実力は333馬力、自主規制で280馬力に抑えたものの、大トルクで爆発的加速。
・シーケンシャルツインターボのタービン音はそれなりに車内に入ってくるものの、エンジン上に500円玉を載せても倒れないと言われた低振動。
・燃費は1,500回転以下で2km/L前後に落ちるため街中の渋滞では85Lタンク(13B搭載型は72L)でも心元無いものの、高速巡行では余裕ある走りでカタログ燃費の6.1km/Lを超えることも。
・ロータリー専用車らしく低いボンネットの下ではインタークーラー(空冷)、ラジエーター、オイルクーラーと重なってその奥にエンジンとターボが押し込められ、熱がこもりやすかった。
・ミッションは13B搭載型も含め4ATのみで、RX-7用MTに換装するチューニングもあるが、耐久性にはやはり不安がある模様。
基本的にはデザイン優先でスポーツ走行向きの排熱などはあまり考慮されていない印象で、低速域での燃費の悪さもあって「高速長距離を優雅にクルージング」するのに特化した車だと言えます。
マツダとしては珍しい「直線番長」でしたが、モデル末期にサスペンションを固めたタイプSXが13B、20B搭載車双方に追加されました。
【内外装での特徴】
・余計な膨らみなどが無い滑らかなボディに、ブラックアウトして細く見せたAピラー、対照的に太いCピラーによって「前に押し出すような」力強さが表現されている。
・全長約4.8m、全幅約1.8mと大柄だがロングノーズ / ショートデッキの古典的スポーツカースタイルで、キャビン(車室)は狭く、リアシートも座面の奥行きはあるものの、足元スペースまで広くは無いく、あくまで2+2クーペ。
・リアシートとトランクの間にある燃料タンクで、トランク容量は狭かった。
・内装には本物の木を使ったウッドパネルや合成では無い本物の革を使用(タイプE)
20Bのインパクトに隠れがちですが、ユーノス コスモ自体も高級ラグジュアリー・クーペに必要な贅沢空間を実現していました。
【世界初のGPSカーナビ、CCS】
・20BタイプS CCSには世界初のGPSカーナビ(三菱電機製)を搭載、エアコンの操作パネルを兼ねた今でいうタッチパネル式のマルチインフォメーション・ディスプレイの元祖でもあり、CCS(カー・コミュニケーション・システム)と呼んでいた。
・両手で抱えられないほど大きいカーナビユニットを積むスペースはトランクにしか無く(「三菱電機 カーナビゲーションの歴史」より)、トランク容量をさらに圧迫。
・CCSのタッチパネルが壊れるとエアコンも操作できなくなるため、部品供給が途絶えると非CCS車から通常のエアコン操作ユニットを移植する共喰い整備が必要。
・まだ現在のように多数の衛星で測位を行うGPS網が構築されていなかったため、CCSでナビゲーションできる時間は限られた。
パイオニアが「世界初の市販GPSカーナビ」発売に数か月先駆け、「世界初のGPSカーナビを搭載した車」だったのもユーノス コスモの魅力でしたが、小型軽量化までは難しかったようで、通常の20BタイプEに対し、20BタイプE CCSは30kgもの重量増。
それでも、宇宙からの導きによって往くべき道を照らすGPSカーナビの搭載は「コスモ」と名乗る車にはふさわしく、当時としては魅力的な装備だったはずです。
ユーノス コスモのモータースポーツでの活躍は?
RX-7やロードスターのようなピュアスポーツ、あるいはデミオのようなエントリースポーツに投入されたモデルとは異なり、ユーノス コスモにはモータースポーツでの実績はほとんどありません。
ごく一部のユーザーがドラッグレースや走行会仕様で走るのが散見される程度で、JGTC(現在のSUPER GT)やN1耐久(現在のスーパー耐久)に投入されることもありませんでした。
そもそもスポーツ向けでは無いかといえば、タイヤやサスペンションに手を入れていけば意外に軽快に走ったとも言われるので、業績悪化に苦しむマツダにそのような余裕が無かっただけかもしれません。
しかし、自慢の3ローター20Bエンジンは元がル・マンでも活躍したレーシングマシン、マツダ757用の13Gをベースになっているだけあり、そのポテンシャルは誰もが気になるところ。
実際にRE雨宮が20BをNA(自然吸気)化&ペリフェラルポート化したものをFD3S型RX-7に投入し、SUPER GTのGT300クラスに参戦しています。
その後もRE雨宮をはじめ20BをFD3Sなどにスワップチューンされたカスタムカーやドリフト車両は多く、ユーノス コスモのモータースポーツ活動は車そのものではなくエンジンが活きた形となりました。
また、マツダスピードから20B用のエキセントリックシャフトなどペリフェラルポートキットが存在し、ユーノス コスモよりどうしても20Bの話になってしまいます。
ユーノス コスモの主なスペックと中古車相場
ユーノス JCESE コスモ 20B タイプE CCS 1990年式
全長×全幅×全高(mm):4,815×1,795×1,305
ホイールベース(mm):2,750
車両重量(kg):1,640
エンジン仕様・型式:20B 水冷直列3ローターICシーケンシャルツインターボ
総排気量(cc):1,962cc(654cc×3)
最高出力:280ps/6,500rpm
最大トルク:41.0kgm/3,000rpm
トランスミッション:4AT
駆動方式:FR
中古車相場:48万~208万円(20Bは159.9万~208万円)
まとめ
現在でも時々ユーノス コスモを見かけることがありますが、やはり気になるのは「20Bか?13Bか?」という部分かと思います。
マフラーで識別可能とはいえ遠くから容易にわかる識別点は少なく、近づいてみて13Bとわかると「レア車中の超レア車でも無かった」と、ちょっと悔しい気分になったものでした。
それだけユーノス コスモ、とりわけ20B搭載型は注目を集める車ではありましたが、登場直後のバブル崩壊で「そんな燃費の悪い車に乗っている人はスゴイ」と感心するばかりで、人気があり憧れはしても、実際に乗ろうとは思えない車No.1だったかもしれません。
それでも1990年代末頃にはハイオクガソリンですら100円しない時代もあったので、あの頃に乗っておけば良かった!実は乗っていた!という人もいるのではないでしょうか。
スーパーカーほど高価では無かったものの、それでも遠くから見るほか無い高値の花。
ユーノス コスモ、その中でも20B搭載車は特にそんな車でした。
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