今でこそ軽自動車用エンジンは全て直列3気筒ですが、1990年代にはホンダを除く各メーカーがこぞって軽自動車用直列4気筒エンジンを開発していました。中でも新規格軽自動車時代にリニューアルして登場し、現在でもチューニングベースとしてスズキK6AやF6Aに並ぶ人気を誇る名機が、ダイハツJB-DETと、その特殊なモータースポーツ版と言えるJC-DETです。
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軽自動車用4気筒エンジンブームの中で登場した前身、JB-JL / JB-EL
現在では全て直3(直列3気筒)となっている軽自動車用エンジンに、初の直4(直列4気筒)エンジンが登場したのはいつの事だったのでしょうか。
その歴史は意外と古く、360cc時代初期の1962年にはOHVながらオールアルミ製で「白いエンジン」と呼ばれたマツダ キャロル用のDA型が登場。
翌1963年にはホンダ初の4輪車、軽トラックのT360がDOHCのAK250E型を搭載しましたが、いずれも1代限りでした。
次に軽自動車用直4が復活したのは550cc時代末期の1989年。
スバル レックス用のEN05(後に660cc化してEN07)でしたが、それ以降他メーカーも660cc直4エンジンを続々と登場させます。
【660cc旧規格時代の軽自動車用直4エンジン】
・スズキ F6B(搭載車種:セルボモード)
・ダイハツ JB-JL / JB-EL(搭載車種:L500系ミラ、L600系ムーヴ)
・スバル EN07(搭載車種:旧規格時代はレックス、ヴィヴィオ、サンバー)
・三菱 4A30(搭載車種:旧規格時代はミニカ、ミニカトッポ、ブラボー、パジェロミニ)
直4オンリーだったスバルのみ高性能のDOHC16バルブ・スーパーチャージャーから実用エンジンのSOHC8バルブ仕様まで揃えましたが、他は三菱 パジェロミニを除きいずれも一部上級グレードのみに搭載。
ダイハツも660cc旧規格時代には、直4のJB系エンジンを以下車種のスポーツ仕様・競技ベース仕様・上級仕様グレードに搭載していました。
【ダイハツ JB-JL・直4DOHC16バルブICターボ】
・L502S / L512S ミラTR-XXアヴァンツァートR / R4
・L502S / L512S ミラTR-XX X2 / X4(競技ベース車)
・L602S / L612S ムーヴSR-XX
・L602S / L612S ムーヴエアロダウンカスタムXX
【ダイハツ JB-EL・直4DOHC16バルブ NA】
・L502SミラTR / CR(スポーツグレード3ドア / 同5ドア)
・L502SミラモデルノTX / CX(上級グレード3ドア / 同5ドア)
※この頃のダイハツ軽自動車は型式名3桁の真ん中が「0」だと2WDで「1」だと4WD、末尾が「0」だと直3エンジンで「2」だと直4エンジン。
新規格軽自動車時代、最上級にして最強エンジンとしてJB-DET登場
1998年10月に軽自動車は2017年現在まで続く新規格に移行、衝突安全性向上の為ほとんどの場合はモデルチェンジに伴い車体が一回り大きくなりました。
それにより各社の直4への対応は分かれましたが、ダイハツでは直3のEFエンジンに対し、振動や静粛性の面で優れていた他は、低回転トルクが細いなど大きなメリットの無かったNAの直4を廃止。
軽自動車用直4エンジンはDOHC16バルブターボに1本化し、小改良を加えたJB-DETが登場しました。
(※ただし、”JB-DE”と言えるJB-DETのNA版も試作はされたと言われています。)
登場した当初、搭載されたのは以下の2車種でした。
・L802S オプティエアロダウンビークス
・L902S ムーヴSR-XX / エアロダウンカスタム
主力モデルだったミラにはJB-DETは搭載されず、代わって独立トランクを持ちボディ剛性の高い4ドアハードトップ化でスポーツ要素を高めたL800系オプティがその後を担います。
ただし、新規格移行後にスズキがアルトワークスを短期間で廃止。
三菱もミニカ ダンガンを作らず、スバルに至ってはセミトールワゴンのプレオしか軽乗用車を作らなかったことでもわかるように、軽ホットハッチはこの時期既に廃れていました。
そこで2001年頃にはグレードが整理され、JB-DET搭載車も以下のように変わります。
・L902S / L912S ムーヴエアロRS-XX
・L902S / L912S ムーヴエアロダウンカスタム
・L952S / L962S MAX RS
ミラに代わって主力となった軽トールワゴン、ムーヴとニューフェイスのセミトールワゴン、MAXの最上級スポーティグレードにJB-DETが搭載され、MAX RSには電子制御4WDであるサイバー4WD設定(L962S)により、ムーヴの4WD(L912S)にも搭載されるようになりました。
ただし、軽4WD乗用車にJB-DETが搭載されたのは2001年10月のムーヴ一部改良と同11月のMAXから、2005年12月にMAXが販売終了するまでの4年間と短期間に過ぎません。
名機JB-DETの名を不動にした名車、初代コペン登場
ここまでのJB-DETは「主力車種の上級グレード用高性能エンジン」というポジションでしたが、現在に至る名機としての評価が定まったのは2002年6月、初代コペンが登場した時です。
ツインスクロールターボ化で低回転でのピックアップおよび最大トルク向上を果たしたJB-DETは、自主規制下の軽自動車用エンジンとしては最高のスペックを発揮しました。
【ダイハツ L880Kコペン用JB-DET スペック】
エンジン本体仕様:水冷直列4気筒DOHC16バルブEFI
排気量:659cc
ターボチャージャー仕様:インタークーラー付きツインスクロールターボ
ターボチャージャー型式:IHI RHF3(前期LA-L880K:VQ44型・後期ABA-L880K:VQ50型)
ボア(内径)×ストローク(行程):61.0mm×56.4mm
圧縮比:8.2
最高出力:64馬力 / 6,000rpm
最大トルク:11.2kgm / 3,200rpm
その後の軽自動車用エンジンは高効率・低燃費の環境対策エンジンとなり、ターボエンジンも小排気量も重い車体を効率よく走らせるための「ダウンサイジングターボ」的なものに変わりました。
その結果、日本自動車工業会に未加盟のメーカー(例:セブン160を販売しているケータハムなど)以外は自主規制値の64馬力超えのアピールが事実上できないことや、今後はEV時代に入る可能性が高いことから、コペン用JB-DETを超えるスポーツ向けエンジンが登場する可能性は限りなく低いと言えます。
JB-DETの実験機的役割も兼ねた競技用713ccターボ・JC-DET
JB-DETには、JC-DETという特殊な派生型がありました。
正確には最初に紹介したJB-JLを改良したのがJC-DETであり、その開発実績がJB-DETにも反映されているため、「JB-DETの先行開発型」と言えます。
新規格軽自動車が登場する8か月前、1998年2月にストーリアX4(クロスフォー)に搭載されてデビューしたJC-DETは、以下のようなスペックを持っていました。
【ダイハツJC-DET スペック】
エンジン本体仕様:水冷直列4気筒DOHC16バルブEFI
排気量:713cc
ターボチャージャー仕様:インタークーラー付きブースト調整アクチュエーター式ターボ
ターボチャージャー型式:IHI RHF4(VQ40型)
最大ブースト:(※1)2.5k(GF-M112S) / 1.55k(GH-M112S)
ボア(内径)×ストローク(行程):61.0mm×61.0mm
圧縮比:8.0
最高出力:120馬力 / 7,200rpm(※2)
最大トルク:13.0kgm / 4,800rpm(※2)
※1 ただし、ECUの燃調マップが存在するのは1.7kまでのため、それ以上は純正ECUのままだとエンジンブローする。
※2 いずれもカタログ値。参考までに、ブーストの工場出荷値は1.2k±0.2。
登場時のリッターあたり出力168.3馬力は当時のレシプロエンジンとして世界最高で、1.3リッタークラス用のタービン、それも高回転型のためタービンが十分に威力を発揮する4,500回転付近までは全く走らないという、極端な「超どっかんターボエンジン」でした。
搭載したのがリッターカーのストーリアだったため軽自動車の排気量にこだわる必要も無く、当時の国内モータースポーツ1,000cc未満のクラスに出場できる限界までストロークアップした結果、713ccという中途半端な排気量になっています。
その為、純粋に競技のことしか考えていない特殊なマシンとなり、ストーリアX4専用でモータースポーツに参加している人かマニアしか購入せず、生産台数も800台以下でした。
終焉と、その後もチューニングベースとして活きるJB-DET
ここまで紹介したように、JB-DETは主力車種の上級グレード用、あるいはFFオープンスポーツ用という特殊なポジションのエンジンでした。
前者としては2006年10月にL150系ムーヴがL175系にモデルチェンジするまでムーヴカスタムRS(L152S)で使われ、後者は2012年8月に初代コペン(L880K)が生産終了するまで搭載され続けています。
しかし、ダイハツは軽自動車用エンジン全てを新世代の直3エンジン「KF」に集約する事を決め、JB-DETは初代コペンと共に廃止されました。
これをもって、1994年9月にL502S / 512Sミラとともに、登場したダイハツ直4エンジン18年の歴史は幕を閉じます。
しかし、JB-DETの役割はまだまだ終わっていません。
前項で紹介したJC-DETにより、スペシャルパーツを組めば最高出力は軽く160馬力を超えるという潜在的なパフォーマンスの高さや、ミッションやデフにサードパーティ製を含むスペシャルパーツが豊富なこともあり、チューニングベースとして今も多用されているのです。
その方向性も豪快な最高出力狙い(モータースポーツワークス仕様では200馬力に達したという説あり)から、実戦的な低中速ピックアップ重視までさまざま。
チューニングベースとして優れた(軽自動車用としては)多気筒エンジン、それも鉄製ということもあり、「軽のRB26DETT」と呼ばれることもある程!
新車で搭載された車は少ないものの旧規格車や新世代のKFエンジン搭載車も含め、後からエンジンスワップで搭載した例も多く、時にはフルコン制御で200万以上のコストをかけてスワップするほどJB-DETに惚れ込んだユーザーも存在します。
スズキのF6AやK6Aと同様、「最強の軽自動車用内燃機関」として、今後も軽スポーツユーザーに愛されていくに違いありません。
【JB-DET・主なチューニング例】
・ピストン流用ボアアップ:F6A(822cc化)やKF-DET(760cc化)が流用可能(K6A用ピストンはほぼ不可)、サードパーティ製ボアアップキットもあり
・JB-DET改JC-DET化:JC-DETのパーツを組み込み713cc化
・タービン換装:RHF4やより大型タービン換装で高出力化・またはRHF3でも別なVQシリーズ等に換装して特性変更
・ブーストアップ:JC-DET用ヘッドガスケットなどハード強化で1.2k以上へ
・シングルスクロール化:コペン用JB-DETのツインスクロールターボをシングルスクロール化して、高回転向けへ特性変更
・超ハイパワー化:JC-DET用やそれ以上のスペシャルパーツを燃料系や点火系も含めて組み込み、サブコンやフルコン制御で高ブースト対応として170馬力以上の領域へ
まとめ
かつてモータースポーツで活躍したミラX2やX4にも使われたJB-JLをベースとし、対アルトワークス用決戦マシン・ストーリアX4用のJC-DETを経て新規格軽自動車用高性能エンジンとして登場。
初代コペン用として長年搭載されていたこともあり、軽自動車用4気筒エンジンとしては最高の人気を誇るのがJB-DETです。
現在の環境志向エンジンとは異なる爽快感や、チューニングベースとしての底知れぬ実力により、スズキのF6A、K6Aと並ぶ90年代から2000年代にかけての名作エンジンのひとつに数え上げられています。
バブル時代の名残で開発されたJB-JL / JB-ELが1,000ccへの排気量アップまで考慮されていたという説もある贅沢なエンジンだったた事もありますが、軽自動車チューニングエンジンの好みで「3気党」に対する「4気党」を産む原動力ともなりました。
今後もRB26DETTや2JZ-GTEの軽自動車版として、活躍を続けて欲しい1基です。
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