日本で初めて成功した4輪軽自動車、スバル360(1958年発売)以前にも、夢を求めていくつかの4輪軽自動車が開発・販売されていました。それらを作ったメーカーの多くは自動車メーカーであることをやめ、あるいは消えて無くなってしまった会社もあります。その中で、唯一自動車メーカーとして生き残っているのがスズキで、1955年に『スズライトSF』を発売しています。
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東海地方で織機メーカーから自動車産業に参入した会社と言えば?
戦前に織機メーカーとして東海地方で創業し、やがて自動車産業にも参入していった会社とだけ書けば、「なんだトヨタの話か。」と思われるかもしれませんが、実はスズキも同じ道を辿っています。
それも現在の愛知県刈谷市でトヨタの母体(本家)、豊田自動織機が創業したのは1926年なのに対し、スズキの前身、鈴木式織機製作所が現在の静岡県浜松市南区で創業したのは1909年なので、実はスズキの方が老舗。
ただし自動車産業へ参入しようと思った時期は遅く、企業規模の違いもあってかオースチン セブンを研究して試作車を完成させたのは1939年で、戦争により翌年には一旦開発を断念する事になったため、トヨタのように戦前からの自動車産業参入はなりませんでした。
しかし戦後2輪車から自動車業界へ参入すると、創業者の悲願だった4輪車への参入に取り掛かります。
そして1954年1月の開発開始時に3人いた技術者は全員運転免許すら持っていない有様でしたが、どのみち昔飛行機だってパイロット免許を持っていない人が設計していたわけなので、たぶん問題はありません。
さらに同年4月には運転免許を持っているという理由で採用・配属された新卒社員も入社し、何とか体制を整えました。
ゼロからのスタート。破天荒な超特急開発、浜名湖を一周したら「いざ東京へ!」
ともかくなるべく早く簡単に、社内にある工作機械で作れるものをというわけで西ドイツのマイクロカー、ロイト LP400をコピーして、寸法や排気量を軽自動車規格に合わせた試作車は半年ほどの特急作業で完成します。
その後、軽自動車規格の改正により排気量を240ccから360ccに拡大して耐久テストを行い、浜名湖一周に成功したので行けるだろうと試作車2台で東京の梁瀬自動車(現・ヤナセ)に旅立つも、1台が箱根でオーバーヒートして到着が深夜になるトラブルもありました。
現在の視点で考えれば無茶苦茶な開発体制でしたが、それでもとにかく問題を解決してボディバリエーションも増やし、1955年7月にスズライトSF(SFはSuzuki Four-wheel carの略)は発売されたのです。
なお、3年後に発売されて大成功するスバル360のユーザー第1号は松下幸之助(現・パナソニックの創業者)だったことはよく知られていますが、スズライトSFのユーザー第1号は地元静岡県は御前崎の女医さんだったそうです。
いきなりFF、それも4つのボディタイプ
自動車市場に躍り出たスズライトSFは、驚いたことに横置きフロントエンジン・前輪駆動のFF車でした。
日本で初期の横置きエンジンFF車といえば、軽自動車なら1967年のN360、小型車なら1972年の初代シビックとホンダが先鞭をつけていますが、そのはるか前にスズライトSFが実現していたのです。
しかしこれはスズキの先見の明というより『参考にしたロイト LP400がそうだったから』というもので、それもなぜロイトかといえば工作機械の都合上、参考のために購入した自動車で同じようなものを作れそうだったのがロイトだけだったため。
もちろん、”前輪だけで駆動も操舵も行う”という現代では一般的なFF車です。
それも左右のドライブシャフト長が異なる横置きエンジン車では、ドライブシャフトのジョイントの加工精度や耐久性の確保に苦労することになりますが、発売できたので結果オーライでした。
また、スプリングはロイトのリーフスプリングからコイルスプリングに変わっていますが、これも2輪車メーカーのスズキではリーフスプリングを扱ったことが無いからという単純な理由から(さすがに当時の日本の道路事情に耐え切れず、発売から1年ほどでリーフスプリングに変えましたが)。
とにかく『無いものは無いで仕方ないから、あるもので何とかできるものを作る』に専念した結果であり、そこでアレコレと言い訳せずに商品化にまでこぎつけたのは立派なもの。
ボディタイプはセダン(スズライトSS)、ライトバン(同SL)、ピックアップトラック(同SP)の3タイプに加え、すぐにデリバリーバン(同SD)も加えた4タイプでしたが、いかに当時のスクーター(軽2輪)と同じ軽自動車免許で乗れるとはいえ、まだ需要が無い時代です。
販売網の整備も進んでいない中で販売台数が伸び悩み、1957年5月にはライトバンのスズライトSLのみへと一旦車種整理を受けました。
その後スズキが再び軽乗用車へ戻ってくるのは、1962年の初代スズライト・フロンテからになります。
主なスペックと中古車相場
スズキ スズライトSS(セダン) 1955年式
全長×全幅×全高(mm):2,990×1,295×1,400
ホイールベース(mm):2,000
車両重量(kg):520
エンジン仕様・型式:空冷直列2気筒2ストローク
総排気量(cc):359
最高出力:12kw(16ps)/4,200rpm(※グロス値)
最大トルク:31N・m(3.2kgm)/3,200rpm(※同上)
トランスミッション:3MT
駆動方式:FF
中古車相場:皆無
まとめ
スズライトSFシリーズの開発エピソードをチェックしていると、メーカー側の強引な開発もさることながら、当時の運輸省(現在の国土交通省)はずいぶん大らかだったんだなと思わされます。
それ以前にも、たま自動車(後の富士精密~プリンス自動車工業を経て日産に合併)がプリンス・セダンの試作車を作った8日後に運輸省の認証試験を受け、その約2週間後(つまり試作車完成から1ヶ月経っていない)には発売してしまうという突貫作業がありました。
ここまでくると、当時のメーカーとしては「それ作ってしまえ、認可されればこっちのものだ!」、運輸省も「とにかく作って持ってくるだけでも大したものだから、認可してしまえ!」というノリでは無かったのか?と思わせられるほど。
後に自動車産業の敷居がとてつもなく高くなり、新規参入に苦労したメーカーからすればうらやましくて仕方のない時代だったかもしれませんが、参入が簡単すぎるがゆえに潰れて消えるのも早い時代でもありました。
そんな時代に、曲がりなりにも商品になるものを作り続けて今や国際的な企業に成長したスズキは、今でも狂乱の時代を生き残ったがゆえのタフなメーカーだと感じます。
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