かつてマーチでリッターカーのジャンルを席巻した日産ですが、現在の日産コンパクトカーの主力は、三菱との合弁企業で生産する軽自動車と言っても過言ではありません。その始まりとなったのは、旧時代の日産を変えたルノー日産連合で、その旗手であるカルロス・ゴーン氏が決めたスズキからの軽自動車OEM供給と、それにより2002年に発売された初代モコでした。
過去には軽自動車も取り扱っていた日産
2002年4月に発売されたモコが日産初の軽自動車のように見られることもありますが、実際にはもっと過去に軽自動車を取り扱っていたことがありました。
それは、200台のみ生産されて限定的に販売またはリースされたEV、ハイパーミニ(2000年2月)。
そして愛知機械工業を傘下に入れた1962年以降、同社独自の軽自動車『コニー』シリーズを販売する日産コニー店(後のチェリー店)が1970年まで存在しています。
そんな『コニー』シリーズを作っていた愛知機械工業は、企業力の限界で軽自動車メーカーとしては存続できませんでしたが、それなりに優れた車を作っていたのです。
例えば、公道走行用では無かったものの199cc単気筒エンジンを搭載した軽ピックアップ、コニー グッピーをベースにした遊園地用遊具『ダットサン ベビィ』を作り、『こどもの国』(神奈川県)で使われていたこともありました。
しかし、日産がそれ自体のブランドにより軽自動車を常時販売ラインナップに加えたことはなかったのですが、初代モコはまさにゴーン体制で変わりゆく日産を象徴する1台となったのです。
ワゴンRの代わりに供給されたMRワゴン
初代モコのOEM供給元となったのはスズキ MRワゴン(2001年12月発売)で、東京モーターショー1999に初登場した時は後の三菱 i(アイ)のようなミッドシップ・トールワゴンであり、『MRワゴン』のMRは当然ミッドシップ後輪駆動車を意味していました。
しかし、個性派ぞろいの初期新規格軽自動車の中でもミッドシップ乗用車はホンダ Z(2代目)くらいというあまりに異端な存在で、市販時には『エスティマっぽい卵型スタイルのワゴンR軽トールワゴン』へと変わります。
(MRは『マジカル・リラックス』の略ということに変更。)
もちろん、このジャンルには既にワゴンRがあったのでですが、女性向けの柔らかいスタイルに可能性を求め、じっくり育てる方針だったようです。
そして日産からOEM供給の申し出があったのはその市販型MRワゴン開発中のことで、よく知られている逸話としては、日産は当初『ワゴンRを売りたい』と言ってきたのですが、既にマツダにAZ-ワゴンとしてOEM供給を行っていたスズキはOEM同士がバッティングしないよう、そして日産の販売力でワゴンRが事実上日産車となってしまわないようにという配慮もあったのか、折りよく販売間近まで開発の進んでいた新型車を指し、「代わりにMRワゴンでどうでしょう?」と提案したと言われています。
後に軽自動車メーカーが減ったため、スズキ アルトの日産OEM(日産 ピノ)など複数のOEM供給先を持つことは当たり前となりましたが、この時期はまだOEM供給元も販売のバランスに注意しながらの手探りだったようです。
日産に与えた影響
いよいよ2002年4月、MRワゴンから4ヶ月遅れで初代モコは発売されました。
内容としては当時の日産車がデザインアイデンティティとしていた『ウインググリル』を装着して日産車らしいフロントマスクとしたことや、ABSなど日産が販売車種の基準として求める安全装備を標準装備化したことなどを除けば、MRワゴンとほとんど変わりません。
むしろワゴンRと同じ64馬力のハイパワーターボを搭載した『MRワゴンスポーツ』的なエンジンは搭載されず、マイルドチャージの60馬力ターボが採用されるなどシティコミューターに徹し、グレード展開もターボかNA、その廉価版とシンプルなラインナップに!
しかし、そんなラインナップにも関わらずモコの販売台数はMRワゴンを大きく上回り、『OEMの元か先かに関わらず、販売網の充実によって販売シェアの主導権を握る』という、ダイハツ / トヨタと同じ関係がスズキ / 日産の間でも生じたのです。
もっとも、スズキとしても主力のワゴンRは販売台数もシェアも安泰だったのでさほど問題とならず、むしろワゴンRの販売にも影響を与えぬままMRワゴンの開発投資を回収できるなどメリットづくめ。
問題があったとすれば日産の方で、モコやピノ、オッティ(三菱 eKワゴンOEM)など軽自動車が売れるほどそれまでの主力コンパクトカー、マーチの販売台数が減っていき、結局4代目K13以降マーチはタイで生産する安価な新興国向け仕様の輸入販売に切り替わる事に。
長い目で見れば『あくまでトヨタと肩を並べる日本の2大メーカー』を目指した末に経営危機に陥った日産の体質改善には大いに役立ちましたが、初代モコのデビュー当時は「代わりにマーチが売れなくなった。」という悲鳴が聞こえてきたのも事実でした。
主要スペックと中古車相場
日産 MG21S モコ T 2002年式
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,590
ホイールベース(mm):2,360
車両重量(kg):860
エンジン仕様・型式:K6A 水冷直列3気筒DOHC12バルブ ICターボ
総排気量(cc):658
最高出力:60ps/6,000rpm
最大トルク:8.5kgm/3,000rpm
トランスミッション:4AT
駆動方式:FF
中古車相場:0.1万~44.8万円(各型含む)
まとめ
初代モコはデザインや装備の一部を除けば日産のオーダーが反映された部分は少なく、後に三菱との合弁会社NMKVで共同開発された3代目三菱eKシリーズ / 日産デイズほど、日産車らしい部分はありません。
しかし、その関係は最後の3代目まで続き、モコは歴代を通じて『日産がOEM供給を受けるスズキ車』で有り続けたため、初代からの歴代モコには『日産車』という枠で語る部分はあまり無く、むしろ日産変革の大波の1つという『社会現象』だったと言えます。
実際、初代モコの成功で軽自動車販売に自信をつけた日産はそれ以降軽自動車メーカーとして確固たる足場を作り、2017年に三菱をルノー日産連合傘下に収めて以降は、いよいよ日産車(そしてあるいはルノー車)としての軽自動車をデビューさせるとの噂です。
その全ての始まりとなった日産 モコは、もともとはワゴンRの影に隠れたMRワゴンという脇役になるところ、思わぬ出世を果たして歴史にその名を残すことになりました。
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