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2018年6月現在も、ダイハツ ミライースとともに昔ながらのベーシックな軽乗用車を作り続けるスズキ。その原点は名車スバル360より以前、1955年に発売された軽乗用車のスズライトSFセダンでしたが、当時はまだ軽が求められる時代でも無く、その後はバンなどの商用車メーカーとして時を過ごします。そして満を持して『フロンテ』と名付けた軽乗用車でスズキが市場に帰ってきたのは、1962年のことでした。

初代スズキ スズライト・フロンテ / 出典:http://www.imcdb.org/vehicle_93412-Suzuki-Suzulight-Fronte-TLA-FE-1962.html
FFで試行錯誤していた時代のスズキ軽乗用車、初代スズライト・フロンテ

初代スズキ スズライト・フロンテ / © 1998-2018 TOYOTA MOTOR CORPORATION.
事実上、西ドイツ製マイクロカー『ロイトLP400』をリバースエンジニアリングして日本の軽自動車規格に合わせたような車、スズライトSFセダンを1955年に発売したスズキでしたが、3年後に登場するスバル360と比べればまだ未成熟と言って良い1台でした。
現在の基準から言えば、幹線道路ですら悪路と言って良いほどだった当時の日本の道路事情には全く適合しないサスペンションとエンジンに対して重すぎるボディ。
スペース効率には優れるものの耐久性が不十分のFFレイアウトなど、いかに他社より先んじ、現在でも軽自動車メーカーとして残る礎になったとはいえ、当時としては『現れては消えていく有象無象の自動車メーカー』に名を連ねても不思議では無かったほど。
しかし、スズキは時期尚早と判断した軽乗用車こそ1957年に一旦手を引き、2代目のTL型スズライトでは当初ライトバンなど軽商用車に集中しますが、スズライトSSで得た教訓から地道な改良を続けていました。
そしてスバル360やマツダ R360クーペの開拓した軽乗用車市場に再参入するべく、1962年3月に発売されたのがTLA型スズライト・フロンテです。
和製ミニ&和製ミニ・クラブマン?なFF車

初代スズキ スズライト・フロンテ / 出典:https://www.classiccarcatalogue.com/SUZUKI%201962.html
初代スズライト・フロンテの大きな特徴であるFF(フロントエンジン・前輪駆動)こそスズライトSFセダン以来の踏襲、つまりロイトLP400の延長線上にあるメカニズムでしたが、1962年のフロンテ発売当時は、まだ国産FF車はほとんどありませんでした。
大抵のメーカーは重量やスペースでハンデになるものの、保守的で堅実なFR(フロントエンジン・後輪駆動)か、冷却や騒音、スペース効率とハンデは大きいものの、重量面で有利なRR(リアエンジン・後輪駆動)を採用していた時代です。
それだけでなく、貨物車としての仕様も考えれば積載時のトラクションに勝る後輪駆動の有利性は明らかでしたが、FF車には乗用にせよ商用にせよ、低床フロアが可能だったというメリットもあり、駆動系の耐久性さえクリアできれば魅力もありました。
そのメリットを重視したのも理由の1つですが、実際にはスズキ(当時は鈴木自動車工業)が所有する工作機械の制約もあり、同年デビューの三菱 ミニカや後のダイハツ フェローのようにFRレイアウトを採用できないのも大きな理由だったようです。
しかし、初代フロンテデビュー時にはデザインも含めて初代スズライトSFセダンより近代化が進み、エンジンもマイナーチェンジ版のFEA型(1963年3月)で『セルミックス』と呼ばれるガソリンとエンジンオイルの自動混合を採用。
FEA-II型(1965年10月)ではエンジン内部にエンジンオイルを直接噴射する『CCI』が搭載されました。
デザインもTLA型ではイギリスの名車BMC ミニ(1959年発売)に酷似していましたが、ベース車であり共通デザインのTL型スズライト(ライトバン)はミニがデビューする以前から開発されていたので、コピーというわけでもありません。
さらに不思議なことには、FEA-II型が登場した頃には大きな丸目2灯ヘッドライトに横長の大きなグリルでしたが、その4年後に発売されたミニのフェイスリフト版、ミニ・クラブマンの方がフロンテに似ていました。
当時ミニを生産していたブリティッシュ・レイランドと、スズキの間で何らかの交流か共通点は定かではありませんが、互いに意図せず似たデザインになっていたとしたら面白い話です。
激闘日本グランプリ!スバル360やマツダ キャロルとのガチンコ対決!

第1回日本グランプリでスバル360(手前)とデッドヒートを繰り広げる初代フロンテ / 出典:http://www.imcdb.org/vehicle_93412-Suzuki-Suzulight-Fronte-TLA-FE-1962.html
1963年、完成したばかりの鈴鹿サーキットで開催された『第1回日本グランプリ自動車レース』(C-Iクラス)と翌年の第2回(T-Iクラス)、その軽自動車クラスで初代フロンテはライバルと激しい戦いを繰り広げました。
とはいえ、レースに耐え得るような軽自動車を作っていたのはスバルとマツダ、スズキくらいだったので、この3社による対決です。
そして1963年の第1回レースでは、スバル360が当時のヒット作であったため自信満々で挑みましたが、結果は何とフロンテの1-2フィニッシュで惨敗して茫然自失(スバル360は最高3位、マツダ R360クーペは最高9位)。
翌1964年の第2回レースで今度はスバル360が1-2フィニッシュを決めて雪辱を果たしましたが、前年のウィナー望月 修も片山 義美が駆るマツダ キャロルを振り切り、3位表彰台に入るなど健闘を見せました。
日本グランプリでの軽自動車対決はこの2回きりでしたが、後に中山サーキットなどでの軽自動車レースは盛り上がることになります。
主なスペックと中古車相場

初代スズキ スズライト・フロンテ / 出典:https://www.classiccarcatalogue.com/SUZUKI%201962.html
スズキ FEA-II スズライト フロンテ 1967年式
全長×全幅×全高(mm):2,995×1,295×1,380
ホイールベース(mm):2,050
車両重量(kg):500
エンジン仕様・型式:空冷2ストローク直列2気筒
総排気量(cc):360
最高出力:15kw(21ps)/5,500rpm(※グロス値)
最大トルク:31N・m(3.2kgm)/3,700rpm(同上)
トランスミッション:3MT
駆動方式:FF
中古車相場:皆無
まとめ

初代スズキ スズライト・フロンテ / 出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BA%E3%82%AD%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%86
国産FF車の先駆的存在だった初代スズライト・フロンテでしたが、スズライトSFセダン以来続いたこのメカニズムは、フロンテによる軽乗用車市場再参入を見届けたかのように、この代で一旦最後となります。
そして次の代からは、スバル360やキャロルなどライバルと同じRR方式になり、フロンテが再びFF車になるのは1970年代末を待たねばなりません。
360cc時代のフロンテとしては1代限りとなったFF車でしたが、日本グランプリでの活躍のおかげで鮮烈な印象を残しました。
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