1台で数十億円かかるとも言われているF1マシン。いったいどのようにして作られているのか、知っていますか?優秀なエンジニアやデザイナー、開発者たちが長い年月をかけて製作。細部までこだわり抜いて1mmの予断をも許さず作り上げていく最先端レーシングマシンなのです。今回はそんな製作の過程を覗いてみたいと思います。

©Red Bull Content Pool

F1マシンに求められるものとは?

©Pirelli

世界でもトップクラスの優秀なエンジニアたちの技術と、特殊で軽量かつ丈夫な素材で作られるF1マシンは常に最先端のテクノロジーが結集された最も先進的なクルマと言っても過言ではありません。

空気の流れを効率的にする空力から、大きなパワーを生み出すためのエンジン、またそれをタイヤに伝えるための駆動系など、どれをとっても最高峰の技術が用いられているのです。

そのためレースでは0.1秒が勝負の分かれ目となるので、小さなパーツひとつにしても毎回のようにアップデートが重ねられています。

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近年は速さだけでなく、環境保護に合わせてF1でもハイブリッド化が進んでいて、燃料が持っているエネルギーを如何に効率良く発揮させるかという部分も重要視されています。

また、レース中の思わぬアクシデントからドライバーを守るための安全性能など、これらは市販車においても流用出来る技術が多く生み出されてきました。

そんな色々な側面を考慮しつつ、0.1秒でも速く走るためにF1マシンには多くの技術者が情熱を注いで日々開発に取り組んでいるのです。

それでは、もう少し細かくF1マシンの製造過程を見ていきましょう。

 

チームの1年を左右する!?開発で最も重要なマシンデザイン

©Mercedes AMG

F1マシンの製作はマシンが完成するおよそ2年前から始まっていると言われており、マシン規定のなかで開発の方向性を探るための話し合いがスタートします。

ここはマシン開発において最も重要な部分であり、マシンの方向性を誤ってしまうと他チームに大きな遅れをとってしまいます。また、ライバルに情報が漏れないように開発は極秘で行われているのです。

そしてマシン開発の方向性が決まると、チームの技術責任者であるテクニカルディレクター主導のもと、マシンの設計図が描かれます。この時点でマシンの形状やコンセプトが決まるため、ここでマシンの出来栄えが決定するという重要な作業となっています。

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近年はコンピューターを用いてマシン設計を行うのが一般的となっており、マシン全体の設計だけでなく小さな部品1つにしても同じように一つずつ入念に作り上げられていくのです。

また、F1マシンの開発においては空力やパワーユニットといった様々な分野がありますが、それら全ての指揮を執るのがテクニカルディレクターの役割であり、この人物の働きぶりがチームの成績を大きく左右する重要なポストと言われています。

レースに勝つためにはドライバーのテクニックだけでなく、マシン開発に携わる技術者たちもライバルとの競争を制する必要があるため、有名なテクニカルディレクターとなるとドライバー以上の高給を得る人も存在するのです。

そういった開発競争がF1マシンを進化させるだけでなく、市販の自動車にもその技術が流用され、発展を遂げてきたのです。

 

完成までに何度も改良を重ねるF1マシン

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そうして開発の方向性が定まると、ようやくマシンの外観を作り出す作業が始まります。まずは、実際のマシンの60%の大きさのモデルが出来上がるのです。

なぜ実際よりも小さいのかと言うと、これは風洞と呼ばれる空気の流れを測定する施設で使用されるために作られるものだからです。

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この風洞は実際に走行を行わなくてもマシンの空気の流れを読み取ることができ、いわばマシンの走行中のシュミレーションを行う事が可能なのです。

実際に原寸大のマシンを作るのはこれよりもっと後の話で、マシンの形状が適切かどうかを見定めるため、風洞で算出されたデータを元に欠点を見つけては改良型が作成され、何度もテストが繰り返されます。

では、走行の出番がないドライバーたちは一体何をしているのでしょうか。

近年のF1では実際に走行できるテストの回数が制限されているため、決められた期間以外は走行することができません。そんな時期は、ドライビングシュミレーターを使ってテストを繰り返し、マシンの開発を行っているのです。

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このドライビングシュミレーターというのは、コンピューターにマシンの情報を入力すると画面上でマシンが走行するというもので、グランツーリスモなどのレースゲームを想像して頂くと分かりやすいかもしれません。

ドライバーはこれを使って新型マシンの評価を行うだけでなく、実戦に向けてのセットアップなどをメカニックたちと相談しながら、マシンが完成する前からレースのシュミレーションを行っているのです。

 

ひとつひとつが手作り!職人たちの技術も活かされる

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シュミレーションを何度も繰り返して、いよいよ実際のマシンが製作されるのですが、ここからは職人たちの技術が生かされる分野に入ります。

なぜなら、F1マシンのパーツはひとつひとつが手作りであり、市販の自動車のようにライン作業で作られているわけではないからです。

ではまず、F1マシンに多く使用されるカーボンファイバーの製作から見ていきましょう。

F1ではもはや当たり前となっているカーボンファイバーは、軽量ながら、とてつもない強度を持つ素材として普及し、現在ではシャーシやウィング、さらにはブレーキディスクといったマシンの至るところに使用されています。

カーボンファイバーは優れた性能を備えているのですが、動画でも見て頂けたように特殊なオーブンで加熱したり、樹脂を切り離す作業など高度な技術が必要なうえにコストが高いため、まだ市販の自動車に流用するには難しい状況です。

しかし、F1マシンの場合はコストや手間は二の次。とにかく速いマシンを生み出すために、独自でデザインしたマシンやパーツを開発するので、チームが持つ工場内でカーボンを生産する施設を併設するなどして、職人の手によって丁寧に作りあげっられていくのです。

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また、F1マシンには速さだけではなくドライバーを保護するための高い安全性も求められます。

レースでは思わぬ事故が起こる場合も少なくないため、クラッシュを想定した安全性のテストがFIA(国際自動車連盟)によって定められており、これに合格しなければ優れた性能を持っていても実戦に投入することができないというシビアな一面もあるのです。

さらにこれ以外にもF1では、ネジ1本すら自ら製作し、出来上がった後に職人達がひとつひとつの僅かな個体差を選別するという入念な作業も行われ、少しのミスも許されないのです。

これだけでもF1を戦うためにどれだけの費用や手間がかかるのかお分かり頂けたかもしれません。しかも、マシンだけでなくピット作業の際に使用されるシグナルやジャッキまでも独自で製作しており、まさに「速くなるためなら何でもする」という言葉のごとく作りあげられているのです。

 

F1マシンの重量計算は塗装にも及ぶ!?

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パーツが出来上がると後はいよいよ組み立ててマシンは完成…なのですが、まだ気を抜くことができない大切な作業が残っているのです。

それはマシンの塗装。F1の場合は塗装に使われる塗料にまで重量計算が及ぶので、少しでも軽量化する為、塗装前にさらにひと手間をかけています。

それはどうようなものなのでしょうか。

まず、出来上がったカーボンの表面を滑らかにするために、目とめ剤を塗ります。そして、その上からさらに砂やすりを使ってデコボコが完全に無くなるまで表面を磨き上げ、次に下塗りをしていきます。

一般的なクルマは、ここで塗装による厚みが出来てしまうのですが、F1マシンの場合はこうした細かい作業を行うことで極力塗料による厚みを減らして軽量化を狙っているのです。

さらには、色によってインクの重さが違うため配色にも重量計算が及ぶケースもあります。

F1では様々なカラーリングのマシンが見られますが、その配色によっても僅かに塗料の重さが変化します(©Pirelli)

また、大きな注目を浴びるレースの際には、マシン塗装において入念な作業が行われます。

走行中には小さな石などの影響で塗装が剝がれてしまう事がありますが、マシンには大切なスポンサーのロゴが入っているため、傷が付いたまま放っておくことは出来ません。次のセッションには傷が付いた塗装を修復しなければならないのです。

しかし、傷の上から塗装をし直すと元々の重量に新たな塗料が追加されてしまい重量が増えてしまいます。その為、F1マシンの場合は元の塗装を全て取り除いてから、再び同じものを塗り直すという手間のかかる作業が行われるのです。

このように塗装に及んでも速さを追及するという面があるのですが、本来の目的であるスポンサーロゴがはっきり見えるようにキープする事も重要事項なのです。

近年はマシンのコーティングに、光沢のない塗料を採用するチームも多く、これは強い日差しを浴びてもスポンサーロゴがしっかり見えるようにといった配慮からの選択なのです。

こうした過程を見てみると、走る広告塔と呼ばれるF1マシンの塗装には見た目だけではなく、パーツ製作と同じように少しでも速く走るための工夫が随所になされているのです。

 

まとめ

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F1ではたった1台のマシンにこれだけの手間とコストを掛けており、世界最高峰の名に相応しいマシンたちが世界最速の座を争っています。

今回はその一部をご紹介しましたが、これにパワーユニット等を加えると、どれだけ多くの技術と努力が結集されて完成しているのかが見えてきます。

こうして作られた世界最高峰のマシンに乗ることが許されるのは、世界でたった20人のドライバーだけ!

彼らが1000分の1秒でも速く走るために、多くの技術者たちが今日も開発に取り組んでいるのです。

2017シーズンは、マシン規定が大きく変更されたこともあり、ニューマシンの発表は例年以上に大きな注目が集まりそうですが、その際には多くの開発者の技術と情熱が注がれているということも思い出してみて欲しいと思います。

 

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