ホンダの北米ブランド「アキュラ」から、「アキュラ Type S コンセプト」が発表されました。公式ティザー写真では、国産車とは一味違うスパルタンな香りが漂います。しかしトヨタの「レクサス」や 日産の「インフィニティ」に比べ、今いち身近ではないホンダの「アキュラ」。一体どんなブランドなのでしょうか?今回はアキュラを代表する車種を追いながら、その歴史を辿っていきましょう。

出典:https://acuranews.com/acura-automobiles/releases/a-new-era-of-performance-acura-type-s-concept-to-debut-at-monterey-car-week

アキュラ…って聞いたことある?

アキュラは、ホンダが1986年から北米で展開してきた高級車ブランドで、米国ホンダ主導で立ち上がり、現地で生産されて販売も現地のみというネイティブな生い立ちを持っています。

また、比較的富裕層の顧客向けに、プレミアムな自動車をラインナップしてきました。

出典:https://www.honda.co.jp/LEGEND/webcatalog/type/type/

残念ながら日本未導入のブランドですが、そのダイナミックなデザインの虜となるファンが世界中に存在し、現行レジェンドの「ダイヤモンドペンタゴングリル」は、アキュラの標準デザインとなっています。

今や米国では当然のように認知されているアキュラですが、常に順風満帆だった訳ではなく、多くの苦難ともぶつかって来ました。

それでは、アキュラの歴史を名車共に振り返っていきます。

ジャパニーズ・ラグジュアリーセダン、北米ヘ上陸ス

出展:https://www.honda.co.jp/hondafan/meisha/

アキュラブランドとして最初に北米へ投入された車種は、現在も続くホンダのフラッグシップサルーン「レジェンド」でした。

レジェンドはアキュラブランド第1号車であると同時に、ホンダ初の高級車にもあたります。

1986年のデビュー当時は、まさにバブル真っ只中。

そのため、開発には惜しみ無い労力と費用が投入されました。

レジェンド開発秘話(一部抜粋)

・「ラグジュアリー」の何たるかを学ぶ為、開発者を世界中の高級ホテルに宿泊させる。

・英ローバー社から足回りのセッティング、木材パネルの使い方まで指導を受ける。

・皇室向け木材家具を提供する「天童木工」製木目パネルを使用した内装。

・当時日本最大のプレス成形機、NASA製構造解析ソフトウェア等、贅沢な生産設備導入。……などなど。

このように、最上級の生産環境を得たレジェンドには「技術のホンダ」に恥じぬ様々な最新技術が搭載されました。

また、今や一般的な運転席SRSエアバックを日本で初めて導入し、世界で初めてFF車へトラクションコントロールを導入したクルマでもあります。

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Acura_Legend

コンセプト、材料、設備、全てにおいて妥協なき「最上級」を目指した事実は、まさに「神は細部に宿る」という言葉が相応しいでしょう。

当時、黄金期を迎えていたF1ドライバーの中嶋悟やアイルトン・セナにCMで搭乗してもらった影響もあり、北米で着実な売れ行きを記録します。

そして「レジェンド」は高級ブランド「アキュラ」を立脚させ、華々しいデビューを果たしたのです。

オフロードSUVもあり〼

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Isuzu_Trooper#Acura_SLX

1986年、「レジェンド」を皮切りに順調なスタートを切ったアキュラは、顧客満足度No.1の称号を5年連続で獲得します。

ところが、90年代中頃には「デザインが保守的」と評され、売上が低迷し始めました。

そこでアキュラは先進性をアピールする為、「レジェンド」を「RL」といった風に、様々な車種をアルファベットリネームするなど対策を打つことに。

そんな売り上げ低迷を打開する一手として投入されたのが、「SLX」でした。

既にいすゞ ウィザードのホンダ版OEM『パスポート』がホンダブランドで導入されており、アキュラでも同様のSUVを加えてラインナップを拡充したい思いがあったのです。

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Isuzu_Trooper#Acura_SLX

SLXは『いすゞ ビッグホーン』のOEM車で、V型6気筒を搭載したパワフルな車でした。
ところが鳴り物入りで登場したSLXは、大失敗を喫することとなります。

不運にも、米国コンシュマーレポート誌で行われたテストで、背の高さから横転の危険性があると指摘されてしまうのです。

最終的にOEM元のいすゞが記事を相手に裁判に打ち勝ち、安全性を証明しましたが、既に受けてしまった売上への深刻な影響を今更食い止めることはできませんでした。

RSX 〜スポーティクーペ市場への挑戦〜

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%83%BBRSX

2002年、アキュラは北米で通算200万台の販売を達成します。
さらに、メキシコや中国での販売にも漕ぎ着けるなど、国際的に飛躍する契機となりました。

そして高級志向のアキュラブランドは、目論見通りプレミアムなセダンやSUVを主力車種として、グローバルでも確固たる地位を築いたのです。

その一方で、シビックやインテグラといった廉価車種もスペック志向の強い若者から高い支持を受けていました。

そのためアキュラは、これらのカテゴリを自身の高級ラインナップへ加えるべく、インテグラのプラットフォーム刷新に合わせ「RSX」と名付けてリリースします。

そしてシビックやインテグラを「信頼性はあるが庶民的」と見る高級志向なアキュラユーザーへアピールしたのです。

また、前モデルのインテグラでは4ドア仕様も併売されていましたが、売上の8割がクーペモデルだったこともあり、RSXは2ドアクーペのみの設定としました。

このことからもRSXは、アキュラブランド内でも極めて限定的な層に向けた車種だということがわかります。

photo by Kay_Cee

そんなRSXはリリース初年で売上目標の3万台を達成し、その後もコンスタントに2万台前後のセールスをキープしました。

しかし、購買層は前モデルと変わらずパフォーマンス志向の強い若者がメインで、ブランドイメージの一柱としてはそぐわないままで、内装やデザインのチープさをカバーすることはできなかったようです。

そして2006年、購買層が類似したシビックSiがホンダブランドで発表されると、顧客層の区分けをホンダとアキュラで明確化するために、RSXは販売中止となりました。

以降、アキュラのクーペラインナップは消失することとなります。

TLX 〜アキュラセダンの集大成〜

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/アキュラ・TLX

2010年代に入ると、長年主戦力となっていたセダンラインナップの売り上げが低迷します。

そして、TL(ホンダ インスパイア)やTSX(ホンダ アコード)の導入で、車種統合を通したセグメント整理、大幅な燃費改善の達成、先進制御システムを導入したにも関わらず「高パフォーマンス・ラグジュアリーセダン」のポジションリーダーになることができなかったのです。

というのもこの時期、北米市場後発組のレクサスがES、インフィニティがQ50といった、同市場における強力なライバルメーカー達がニューモデルをリリースしていました。

photo by Carsfera

アキュラは更なる車種の集中化とセグメントの明確化で競争の激しいこのクラスを勝ち抜くべく「TL」「TSX」を統合し、「TLX」を2014年のデトロイトモーターショーで発表。

そこからなんとたった2ヶ月の早さで、市販車を発売したのです。

そして、競合車種に対して遅れまいと意気込み、なんとしてでも追いつくべく販売を開始した「TLX」は、セダン市場におけるアキュラの地位を回復させることに成功。

レクサス ESやインフィニティ Q50と正面から勝負できるステージに、戻ってくることができました。

TLXを最後に車種の削減は止まり、2016年に中国市場専門SUV「CDX」がデビューすると、セダンは「RLX/TLX/ILX」、SUVは「MDX/RDX/CDX」というように、「大/中/小」の3車種を揃える非常にわかりやすいラインナップとなっています。

 

まとめ

出典:https://acuranews.com/acura-automobiles/releases/acura-type-s-concept-debuts-in-monterey-brand-s-precision-crafted-performance-takes-shape/photos/acura-type-s-concept-14?la=1

日本では、あまり馴染みのないアキュラブランドですが、それは北米市場に根ざした地産地消の車作りを進めたが故です。

日本とはまた違った高級志向が求められる北米で、あくまで北米の為の車種を作り続けてきた為、もはやホンダ車のアザーブランドではなく、アメ車というカテゴリに属したブランドと言っても過言ではありません。

米国特有の訴訟問題と戦い、陳腐化するモデルをその度刷新して統廃合を進めながらどうにか生き残ってきたアキュラの歴史を垣間見ることができたかと思います。

12年ぶりの導入となった「Type S コンセプト」も、アキュラらしいラグジュアリー性を維持した新たな挑戦となることでしょう。

これからも、海の向こう側で進化していくアキュラに期待せずにはいられません。

Motorzではメールマガジンを配信しています。

編集部の裏話が聞けたり、最新の自動車パーツ情報が入手できるかも!?

配信を希望する方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みください!