10月29・30日に鈴鹿サーキットで開催された2016全日本スーパーフォーミュラ選手権の最終戦。史上まれに見る12人ものドライバーがタイトル獲得の可能性を残して開幕した1戦は、Race2のファイナルラップまで誰が王座に輝くのか分からないほどの白熱したバトル。その激戦を制したのは、国本雄資(P.MU/CEURMO・INGING)。今シーズンもチャンピオン経験者やヨーロッパの強豪ドライバーがいる中、なぜ彼がチャンピオンを掴むことができたのか?その答えは単なる偶然ではなく、様々な要素が重なって、ある意味「必然的」に迎えた結果だったのだ。

Photo by Tomohiro Yoshita

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貴重なボーナスポイントをかけた予選で惜敗

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29日の予選日。国本を始めチームメイトの石浦宏明も含めたセルモ・インギング勢は、一つの不安を抱えていた。それは「マシンセッティング」だ。

今シーズンはどのコースに行っても安定した速さを見せてきたが、前回の第6戦SUGOは原因不明の大苦戦を強いられ、国本はQ1で脱落。決勝も全くいいところがなくノーポイントで終わってしまった。

金曜日の専有走行はウエットコンディションとなり、正確な勢力図は見えなかったが土曜フリー走行ではセッション中盤にトップタイムを記録するなど、強いセルモ・インギングが復活。その流れで予選に臨んだ。

今回はQ1の順位がRace1のグリッドとなり、Q3までの総合結果がRace2のグリッド。つまり2連続でポールポジションを獲得できれば、ボーナスが2ポイントもらえるのだ。

国本もトップを目指して全力でアタックするが、Q10.3秒足りず2番手。最終Q3でも0.2秒差で3番手。しかも両方とも負けた相手はチームメイトの石浦だった。

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予選を終えた国本は「Q1、Q2、Q3ともにベストな走りができたし、クルマも完璧で気持ちよくアタックできましたが、それ以上に石浦さんが速かったので…」と悔しい表情。

一番印象的だったのはチャンピオン獲得への思いを語った時のことだった。

「絶対チャンピオン取りたいです。そのために1年間がんばってきたので、本当に強い気持ちで戦いたいです」と、その表情から思いが全て伝わってくるような気迫。この1戦にかける思いは並々ならぬものだということが感じられた。

この時点で石浦は2ポイントを獲得。ランキング首位の関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)も13番手に沈み、いつの間にか石浦有利の流れになりつつあったが、“このままじゃ終わらない”という雰囲気が漂った予選後の記者会見だった。

 

一瞬で流れが変わったRace1スタート

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迎えた決勝日。鈴鹿サーキットは朝から青空が広がり、訪れたファンにとってはまさにレース観戦日和。そしてチャンピオン決定の舞台にふさわしいコンディションとなった。

注目のセルモ・インギング同士のフロントロー対決。彼らがスーパーフォーミュラで並んで最前列からスタートするのは初めて。Race1はピットストップ義務なしの19周スプリントレース。レース中の追い抜きはほぼ不可能ということを考えると、このスタートが一番の勝負どころと言えた。

予選でのダブルポールポジションで一気に流れを引き寄せた石浦だったが、グリッド上で見る限り国本の方がリラックスしているというよりも肩に余計な力が入っていない様子。筆者がグリッドを回った時の印象だったが、この時点で流れが変わり始めているように感じた。

そしてスタート。抜群のダッシュを決めたのは、国本の方だった。

トップで1コーナーを通過すると、1周目から後続を引き離し始める。2番手に上がったアンドレ・ロッテラー(VANTELIN TEAM TOM’S)が背後に迫ってきても、全く隙を与えない力強い走りを披露。そのままトップチェッカーを受け、今季2勝目をマーク。一気に8ポイントを稼ぎランキングトップに浮上した。

これで国本以外の3人は優勝が絶対条件となるなど、流れは一気に彼の方に傾いていった。

 

予想外に苦しんだRace2も冷静のポイント圏内を走行、そして歓喜の瞬間へ

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全ての決着がつくRace2。国本は3番手スタート。そのままのポジションを守れば初タイトルとなるのだが、やはり国内トップフォーミュラはそんなに甘くはなかった。

スタートでは上手くダッシュがつかず6番手まで後退。一方逆転タイトルに望みをつないでいる石浦、ロッテラーがトップ争いに加わる。しかしRace1で稼いだ8ポイントが効いており、彼らは優勝しないと逆転のチャンスが出てこない。

終始我慢のレース展開となったが、逆に焦ってミスをして、万が一リタイアになってしまえばさらにチャンピオン獲得の可能性が薄れてしまう。国本は着実に周回を重ね、周りのアクシデントなども冷静に回避。6位でチェッカーを受け、見事初のチャンピオンを決めた。

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パルクフェルメに帰ってきた国本は、満面の笑み。1年間の苦労と努力が報われた瞬間だった。

次のページでは、初チャンピオンを獲得した国本。彼のコメントや立川監督のコメントから、今年の彼はなぜ強かったのか?について迫っていく。