クローズドボディ(ハコ車)で戦われるSUPER GTなどのレースと、オープンボディで戦われるフォーミュラカーなどのレース。密閉された車室内とむき出しのドライバーズシートでは環境が全く異なり、ヘルメットに求められる要素も違います。この2つの主な違いはどんなところにあるのでしょうか?
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不可欠な安全装備、ヘルメット。JAFによる定義は?
レースなど、ほとんどのモータースポーツで必要不可欠な装備になっている安全装備、ヘルメット。
日本での公式モータースポーツを統括するJAF(日本自動車連盟)では、以下のように定義されています。
基本的なヘルメットの定義
“装備品は、乗員の保護が最大の目的であり、モータースポーツの安全性をより高め
るため各種の装備が必要となる。
競技運転者は、自らを保護するという認識のもと、モータースポーツに適した装備品を装着する必要がある。
JAF / FIAは、競技用ヘルメット、耐火炎レーシングスーツなど主な装備品について公認しているので、参加する競技に適した装備品を選定すること。”
(JAF国内競技車両規則2017年 第4編付則 「レース競技に参加するドライバーの装備品に関する付則」)
各レースではJAFやFIA(国際自動車連盟)による公認、あるいはレース独自のレギュレーションをさらに付記していることもあるので、ヘルメットの選択には規則書によく目を通す事が肝心です。
乗車する車やレース環境による定義も
このように安全第一、乗員保護最優先となっているヘルメットですが、一方でクローズドボディの車と、オープンボディの車では若干異なる部分もあるのです。
“(1)オープンシーター(フォーミュラカー、スポーツカー等)
フルフェイス型ヘルメットを着用すること。(ただし、競技会特別規則で特別の定めがある場合を除く。)
(2)クローズドカー(ツーリングカー、スポーツカー等)
フルフェイス型ヘルメットの着用を推奨する。(ただし、競技会特別規則で特別の定めがある場合を除く。)
(3)競技中に燃料補給を伴う競技
フルフェイス型ヘルメットを着用すること。(ただし、競技会特別規則で特別の定めがある場合を除く。)”
(JAF国内競技車両規則2017年 第4編付則 「レース競技に参加するドライバーの装備品に関する付則」3.競技用ヘルメット 2)車両形式、競技形式などによるヘルメット種別の適用)
乗員がむき出しのオープンシーター(オープンボディ)では小石や部品、タイヤの破片なども飛んできますし、燃料補給を伴う場合は火災の危険も大きいので、衝撃だけでなく防火能力も高いフルフェイスを「着用すること」(義務)とされており、乗員保護を考えれば当然の義務だと思います。
一方、クローズドカー(クローズドボディ)では推奨となっていますが、クラッシュ時の火災リスクや破壊された車内で部品などが顔に当たるリスクを考えれば、実際にはフルフェイスをかぶることがほとんどではないでしょうか。
レース以外のジムカーナ競技などでも、転倒した車両のガラスなどが降り注ぐことがありますし、安全性優先ならばフルフェイスに越したことはないと思います。
このように、若干のニュアンスは異なりますが、JAFではいずれのボディ形式でもレースでフルフェイス型ヘルメットの着用を義務化、あるいは推奨すると定義しています。
GTとフォーミュラ、ヘルメットの機能的違いは?
両者の共通点
例として、日本におけるクローズドボディ車レースの頂点「SUPER GT」と 、同じくフォーミュラカーの頂点「SUPER FORMULA」のヘルメットでの共通点と相違点をご紹介したいと思います。
まず共通点ですが、どちらもフルフェイスヘルメットであり、基本的なヘルメット形状は変わりません。
双方無線用のケーブルと、熱中症対策のドリンク供給用チューブがついており、SUPER GTでは各ドライバーに経口補水液OS-1が供給されているそうです。
また、現在はいかなる公認レースでも頭部だけでなく首も保護するHANS(写真では首の左右の黒い帯のようなもの)の着用が義務付けられており、HANSの装着が可能な公認ヘルメットが必須となっています。
SUPER GT用は熱中症リスク対策やカラーリングに工夫
次にそれぞれの特徴で、まずSUPER GTから。
クローズドボディという運転環境による特徴が出てきます。
ドライバークーリング
ドライバーがむき出しのフォーミュラカーより熱がこもるため、夏場を中心に熱中症リスクが非常に高いクローズドボディ車では、いかにドライバーを冷やすかが課題となってきます。
GT300でエアコンがよく効くのはFIA-GT3車両、逆に効かないのは86MCなどマザーシャシー車両などという話が出るほど深刻で、それゆえヘルメットにもドライバー冷却のための工夫がなされています。
上部に装着された透明なカバーがあるヘルメットでは、エアコンからのダクトを装着してダイレクトに冷風で頭部を冷やせる仕組みとなっています。
エアコンを使わないチームもあり、放熱性で頑張る!
パワーダウンを嫌ってエアコンを切っているチームもありますが、その場合でもヘルメットに熱気放出用の穴が開いています。
必要最低限の放熱性はあると考えて良いでしょう。
ファンヘ配慮した、クローズドボディならではのカラーリング
もう一点、どうしても車内がフォーミュラカーより暗くて見えにくいGTマシンでは、目立つためにヘルメットの色やカラーパターンに工夫をして、なるべく目立つようにしているそうです。
これはレースを見に来たファンへの配慮でもあるそうなので、今後観戦の際にヘルメットも注意して見てみると良いかもしれません。
SUPER FOMULA用は飛来物対策や空力メイン
続いてSUPER FOMURAのヘルメットでは、ドライバーがマシンからむき出しとなっているので、それ自体危険度がより大きいことと、マシンの空力に影響を与えることで、大きな相違点があります。
コース上の飛来物に備える!安全面
まず、ドライバーの視界確保に重要なヘルメットの「窓」バイザーの強度が高く、小石が飛んできたくらいでは割れないそうです。
レース中は他車のタイヤが小石や部品などコース上の小さな落下物を巻き上げることもあり、タイヤカスも飛んでくるので、ヒビひとつ入らないことは重要です。
また、割れないまでもゴミや汚れが付着することもあるので、「捨てバイザー」と呼ばれるバイザーから剥がして捨てるフィルムも、GT用ヘルメットにはありません。
マシンポテンシャルにも大きな影響を与える空力面
フォーミュラ用のヘルメットを見ると、顎のあたりや頭頂前部、後部に突起のようなものがあります。
これはアゴのチンスポイラーや後頭部のディフューザーなどによってヘルメットを空力的に安定させているもので、球形のヘルメットはそれだけで気流を乱しドラッグ(抵抗)になるので、空力的にはマシンの一部と言っても構いません。
ヘルメットをかぶった首を傾けただけでもマシンの挙動に乱れが出る時もあるので、逆にドライバーの頭が振られ、運転中の疲労度が増すこともあるのです。
それらはクローズドボディのGTにはもちろん無いものですが、フォーミュラカーでは大きく影響が出る部分なので、ヘルメットを安定させるスタビライザー効果を狙って、それぞれ工夫を凝らしているというわけです。
なお、過去のF1ではドライバーの後ろ上方のエンジン用エアインテークへの影響を考慮した整流が試みられたこともありました。
まとめ
運転する環境が異なれば、ヘルメットの役割も大きく異なります。
特に日常的にヘルメットをかぶる二輪のライダーたちには常識的な話かもしれませんが、四輪のハンドルしか握らない一般ドライバーでは、なかなか想像がつかない話かもしれません。
自ら走る人はヘルメット選びの、観戦する人は今後の見どころのひとつとして、参考にしてみてくださいね!
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