大きくマシンのデザインが変わった2017年。特に復活を果たしたサメの背ビレに似た空力パーツ”シャークフィン”は一際大きな存在感を放ち、見た目について議論が巻き起こりました。これまで、F1マシンにはこのように生物を真似て生み出された技術が存在します。そこで今回はまるで動物の形をしているF1のデバイスに注目しました。
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生物からヒントを得て生まれたF1の技術たち
とにかく速く走るために日々研究を重ねるF1の技術者たちは、他チームを出し抜くために誰にも思いつく事ができないような、斬新な発想を探しています。
毎戦のように持ち込まれる新しい技術は緻密な計算に基づいて投入されていますが、時にそうした技術は自然で暮らす生物にヒントを得て生み出されるものあるのです。
これはバイオミミクリー(生物模倣技術)と呼ばれ、水中を速く泳げる魚や大空を飛ぶ鳥の形状を真似て、開発に生かすという考え方を指します。
これまでに登場したF1マシンにもこうした考え方が生かされており、時にマシンのデザインに大きな影響を与える物も作り出されてきました。
では、生物を真似てまで速さを求めた技術は、これまでにどのようなものが生み出されたのでしょうか?
早速、近年流行した物の中からご紹介していこうと思います。
水中のあの生き物を参考に作られた”おさかなちゃん”
まず最初にご紹介するのはトヨタが行っていたF1活動において開発された、エアロスタビライジングフィンです。
このエアロスタビライジングフィンは通称”おさかなちゃん”と呼ばれ、現在は市販車までその技術が流用されており、私たちの身近なところで効果を発揮している空力パーツでもあります。
では、そのエアロスタビライジングフィンとは、一体どのようなものなのでしょうか。
このフィンの最大の目的は空気抵抗を抑えつつ、クルマの操作性を高めるダウンフォースを生み出すことにあります。
このフィンを搭載することによって発生する乱気流が渦を作り出し、それが車体に沿って流れる空気の剥離を抑える効果を発揮。
それにより空気抵抗が減り、速度が増すにつれて渦が車体の安定性を高めるという仕組みになっているのです。
また、パーツ自体は小さいながらもその効果は大きく時速50km程から効果が現れる他にも、クルマの風切り音を減らすという市販車にも活かせる二次的なメリットも。
レーシングカーの場合、ダウンフォースを生み出すのであればウィングを搭載すれば良いのですが、なるべく空気抵抗を受けずにダウンフォースを稼ぎたいという相反する2つの目論見の実現を目指しました。
そこでトヨタの技術者は、水中を高速で泳ぐカジキにヒントを得てこの空力パーツを開発。
それが由来となって”おさかなちゃん”という名前で呼ばれることになったのです。
これは空気抵抗を生みづらく、レーシングカーでも効果を発揮するうえ、燃費性能を落とすことなくダウンフォースを稼げるため現在では市販車にも広く用いられています。
また、このフィンは車体のサイド部分に取り付けられることが多く、取り付け位置によって効果が変化します。
例えば、レーシングカーでは空力性能を重視するので車底やウィングの後方に取り付けられることが多いのですが、市販車の場合にはサイドミラーやテールランプなどクルマのサイド部分に装備されていることが多く、燃費性能を考慮して取り付けられています。
2017年に復活し、わずか1年で姿を消す”シャークフィン”
今季、大幅に変貌を遂げたF1マシンの中でも話題に上がることの多かったシャークフィン。
リアウィング前方に取り付けられ、その形がサメの背びれに似ていることからこの名が付いたこのパーツも、F1で取り入れられたバイオミミクリーの1つです。
2008年に流行したこのシャークフィンは2010年にF1で流行した”Fダクト”の原型とも言え、近年のF1マシンに大きな影響を与えました。
今年も注目を集めたこのパーツには、一体どのような効果があるのでしょうか?
このシャークフィンの主な役割は、F1マシンが持つ大きなリアウィングの機能を安定させることにあります。
マシンの前方で発生した乱気流をこのシャークフィンが整えることで、効率良くリアウィングに気流を流し、安定してリアのダウンフォースを生み出そうという狙いがあるのです。
もし、乱れたままの気流がリアウィングに当たると、安定してダウンフォースを発生させられない上に、グリップ力の増減が大きくなりドライバーの操作性にも難が出てしまいます。
また、この効果はコーナーリング中に大きな力を発揮し、横方向から流れてくる気流を制御しながらも空気抵抗を減らすという2つの役割を担っているのです。
今季はこのシャークフィンの後方にTウィングが装備され、更なる進化を遂げたのですが、見た目が不評だったこともあり今季限りで禁止されることが決定しています。
まるで動物の角!?ドライバーの頭上に搭載された”ホーンウィング”
続いては、2005年に初登場したホーンウィングをご紹介したいと思います。
このホーンウィングは、マクラーレンメルセデスの2005年型マシン”MP4-20″に搭載され、その少し変わった見た目から話題を呼んだ空力パーツでした。
ドライバーの頭上にあるインダクションポットのサイド部分に搭載されたホーンウィングですが、実はこのウィングは他のウィングとは違った役割を持っていたのです。
多くのウィングは、グリップ力の向上を狙いダウンフォースを発生させる事が主な役割となっていますが、このホーンウィングは飛行機の羽と同じ役割を担い、ダウンフォースを生みながらも揚力を発生させるという狙いもありました。
今までF1マシンにおいてこの揚力を有効に使おうという発想はあまり見られませんでしたが、空力の鬼才と呼ばれる天才エンジニア、エイドリアン・ニューウェイは、それまで不要だとされていた揚力を効果的に使う方法を思いついたのです。
彼はこのホーンウィングを用いてマシン後方下部に流れる気流を整え、適切な気流をリアウィングに流すことを狙いました。
すると、リアウィングのダウンフォースが増加し空力性能が向上。
マシン全体のパッケージが優れていたこともあり、MP4-20は凄まじい速さを発揮することが出来たのです。
翌年以降は多くのチームがこのホーンウィングを取り入れ、また搭載位置をフロントノーズに変更するなど幅広い使い方が見られるようになりました。
市販車にも流用される、鳥の羽根を模した空力パーツとは?
続いては鳥の翼に似ている空力パーツ、カナードをご紹介します。
カナードとはフランス語でカモという意味を持ち、2007年にF1に登場するとフェラーリやルノーが先駆けて搭載して以降、多くのチームに広まり徐々に定着していきました。
F1マシンの場合は主にコックピットの前方から左右に伸びるように取り付けられ、オンボード映像が映し出された際に大きな存在感を放っています。
このカナードは空気抵抗を生みにくいにも関わらず大きなダウンフォースを発生させることができ、F1以外のレースカテゴリーでも取り入れられました。
ツーリングカーの場合はマシンのフロント部分やタイヤ周辺に取り付けられ、激しい乱気流が発生するタイヤハウス内の空気を引き抜き、それを整流するという方法で使用されています。
F1では2009年のレギュレーション変更で多くの空力パーツが禁止されると共に姿を消しましたが、現在も流行した当時とは形を変えてF1マシンに搭載されています。
F1では毎年のようにマシンのレギュレーションが変更されており、新たなパーツが発明されては姿を消すことも頻繁にありますが、一時は禁止されてしまったパーツでも、このように復活するケースも少なくありません。
現在ではその見た目から鳥の翼を連想する人はあまり多くないと思いますが、こうして開発の経緯を知るとその呼び名にも納得する事ができるのではないでしょうか。
まとめ
このようにF1の技術者たちはマシンを少しでも速くしたいがために、あらゆる分野から優れた物を取り入れようとしています。
その多くは最先端の開発の賜物と言えるものばかりですが、古くから生き残るために進化を続けてきた生物たちを参考にすることもあるのです。
また、この中でご紹介したエアロスタビライジングフィンとカナードは、役割こそ似ているものの開発の経緯によって呼び名が変わる点も、これらのパーツが生み出された経緯を知る上での面白みの1つでしょう。
今回はその一部をご紹介しましたが、今後もこうして生物を模倣した面白い技術が生まれてくるかもしれませんね!
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