6月11・12日、三重県の鈴鹿サーキットで2016スーパー耐久第3戦「鈴鹿“S耐”サバイバル」が開催された。今回は初の試みで夜にチェッカーを迎える方式の4時間レース。ナイトセッションになってから様々なドラマが生まれる1戦となった。
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レインか?スリックか?スタート直前に雨が降り出す
公式予選は初夏を思わせる陽気で行われ、今季2連勝中と絶好調の#24スリーボンド日産自動車大学校GT-Rがポールポジションを獲得した。
しかし決勝日は一転して朝から雨模様。S耐の決勝前はドライコンディションだったが、前者がグリッドについた頃になるとポツポツと雨が降り出す。
天気予報でもレーススタート時から雨になると言われていたため、各チームが急いでレインタイヤを用意した。
とは言うものの路面はまだウエットになりきっていない。スタートタイヤをどちらにするか、各陣営ともギリギリまで悩み、早くもグリッドは緊迫感に包まれていた。
結局、大半のマシンがスリックタイヤのままでスタート。ST-Xクラスは24号車が先行。これに#3ENDLESS・ADVAN・GT-R、#89HubAuto Ferrari 488GT3が追う展開。今回も日産GT-R勢が先行する序盤戦となった。
フェラーリ488GT3が本領発揮!ウエットコンディションで分かれた明暗
最初のスティントは雨の降り始めということもあり上位争いは小康状態。しかし1時間を経過すると雨も本降りになりスリックタイヤでの走行が難しくなってくる。
28周目にピットイン。通常はドライバー交替をするがスタートから乗っていた平峰一貴がそのまま続投。レインタイヤに履き替え第2スティントに突入した。
一方、2位の3号車は翌29周目に1回目のピット。こちらはYUKE TANIGUCHIが乗り込んだ。
しばらくは24号車と3号車の争いだったが、雨量が増え始めると3番手を走行していた89号車フェラーリが見違えるほどの速さを見せる。
33周目に3号車をかわすと37周目のダンロップコーナーで24号車をパスしトップに浮上を果たした。
ここから89号車はGT-R勢を圧倒。1周あたり約3~4秒ずつ引き離していき、44周目には18秒差まで大量リードを築いた。
開幕2戦は不運なアクシデントなどで本来のパフォーマンスが発揮されていなかったフェラーリ488GT3。雨での相性も良かったようで、まさに「水を得た魚」のようにトップを快走しチームとしても初の優勝への期待が膨らみつつ後半戦に突入していった。
それとは逆にドライでは絶好調だった24号車は雨になると苦戦。同じGT-R勢の3号車に加え#5Mach MAKERS GTNET GT-Rにも抜かれてしまい4番手と我慢のレースを強いられてしまった。
初優勝が見えていた89号車にまさかのペナルティに見舞われる
レース全体の折り返しを過ぎた60周目に89号車がピットイン。ここまで2スティント連続で頑張った坂本祐也に代わり、Aドライバーのモーリス・チェンがコックピットへ。
エースドライバーの吉本大樹はナイトセッションとなる最終スティントにとっておくという作戦だ。
ところが、思いもよらない事態が発生。この2回目のピットストップ時にピットロードのスピード違反を犯してしまいドライブスルーペナルティを課せられてしまう。
これでトップから陥落。初優勝の夢が遠ざかってしまった。
日没となりナイトセッションへ、優勝争いは3号車と5号車の一騎打ちに
スタートから3時間を経過する頃には、日没を迎え、サーキットはすっかり真っ暗に。ここで鈴鹿サーキットならでは「LIGHT ON」ボードが登場する。
これはナイトセッションに突入するため、全車ヘッドライトを点灯させなさいという意味を持っている。
現在では夜まで走行するレースが減ってしまい、唯一のナイトチェッカーだった鈴鹿8耐での名シーンの一つとして定着している。
今回のS耐では夜までレースが行われるため、このボードを使用。それと同時にST-Xクラスは優勝をかけためまぐるしい戦いになっていった。
優勝争いは3号車と5号車の一騎打ちに。この時点で1分以上のリードを築いていた3号車だったが、実はもう一度ピットに入る必要があった。
※ここがポイント※「ST-Xに設けられている乗車制限」
ST-Xクラスに参戦するドライバーは「プラチナドライバー」と「ジェントルマンドライバー」に区分されている。
F1やル・マン24時間に参戦経験があるドライバーやSUPER GTのGT500参戦経験、もしくはGT300でチャンピオン経験のあるドライバーを「プラチナドライバー」。ST-Xでは1チームにつき1人登録が可能。それ以外が「ジェントルマンドライバー」だ。
さらに両ドライバーともに乗車時間の制限が設けられているのも特徴。
プラチナドライバーはレース全体の合計40%(鈴鹿4時間では96分)を超えてはいけない。一方でジェントルマンドライバーはレース全体の20%(鈴鹿4時間では48分)以上を走らなければいけないというルールがある。
実はトップを走る3号車は2時間を経過をしたところでプラチナドライバーの峰尾恭輔が乗車。中盤スティントを走り続けていたが、計算上はゴールまで残り30分のところで上限がきてしまう。
仮に燃料やタイヤが保ったとしても、ドライバー交替のためにピットインしなければならないのだ。
峰尾は時間いっぱいまで走りきって残り30分でピットイン。スタートドライバーを務めた山内英輝が再び乗り込んだ。
なんとかトップで戻れたものの、5号車がすぐ真後ろまで接近。彼らは各ドライバーの制限に引っかからないようにスケジュールを組み2ストップ作戦を敢行。
序盤は少し遅れをとっていたが、最後の最後でその分を帳消しにしてきたのだ。
すでにナイトセッションに突入し、雨も降り続ける難しいコンディション。勢いで勝っていたのは5号車だった。
アンカーの藤波清斗が少しずつ差を詰め93周目にオーバーテイク。ゴールまで残り18分というところでトップが交替するという、耐久レースならではの「戦略での逆転」だった。
このままいけば、5号車が今季初優勝。藤波のペースもよくポジションの変動はないかと思われた。しかし、最後の最後で「もう一つの逆転」が待ち構えていた。
残り5分でまさかのガス欠、優勝は3号車ENDLESS GT-Rの手に
チェッカーまで残り5分。順調にトップを走っていた5号車が突然スローダウン。なんとガス欠に見舞われしまったのだ。
なんとかピットまで戻ろうと走行を続けたが、西ストレートでストップ。「レースは最後まで何が起こるか分からない」ということを改めて感じさせられた瞬間だった。
これでトップは再び3号車に。山内は力強く走り続け101周でゴール。待望の今季初優勝を飾った。2位には89号車のフェラーり、24号車の日産自動車大学校GT-Rが続いた。
まとめ
これで2016年のスーパー耐久は早くも前半3戦が終了。ランキングトップは24号車のままだが、今回優勝した3号車GT-R、さらに雨では速さをみせた89号車フェラーリと後半戦に向けて注目のチームも出てきたレースだった。
次回は9月3・4日の富士スピードウェイ9時間耐久レース。SUPER GTと比べても全く劣ることがない激戦から目が離せない。