10月22・23日に岡山国際サーキットで行われた2016スーパー耐久第5戦で、No.24スリーボンド日産自動車大学校GT-Rが優勝。最終戦を待たずにST-Xクラスシリーズチャンピオンを決めた。このチームは近藤真彦監督率いるKONDO RACINGと日産自動車大学校がコラボし参戦しており、現場ではプロのメカニック・スタッフに混じって学生スタッフも作業に加わり、活動しているという異色のチームだ。そんな彼らが、参戦5年目にしてついにチャンピオン獲得。その快挙を振り返る。
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「若者のクルマ離れに歯止めをかけたい」から動き出した共同プロジェクト
このコラボチームが出来上がったのは、2012年。当時は「若者のクルマ離れ」というのが叫ばれており、実際に現場にも若いメカニックは決して多い状況ではなかった。
そんな世間の流れを少しでもストップさせようとスーパーGTやスーパーフォーミュラで活躍するKONDO RACINGと将来期待の若手たちが集う日産自動車大学校がコラボレーション。
さらに使用するマシンは、当時NISMOが開発したばかりGT-R NISMO GT3での参戦。
全てが初めてだらけの挑戦だった。
参戦当初は、主に富士スピードウェイやツインリンクもてぎ、鈴鹿サーキットのレースでスポット参戦だったが、2015年からフル参戦を表明。栃木校、横浜校、愛知校、京都校、愛媛校がそれぞれのレースを担当してチームをサポートした。
学生たちの担当業務は「チームの現場運営そのもの」
学生たちは「テクニカル」「マネジメント」「広報」の3グループに分かれて現場で活動する。
テクニカルはチームのメカニック業務。実際にマシンの細かい部分のメンテナンス等に関してはKONDO RACINGのプロのメカニックが行うが、ホイールの清掃や、簡単なメンテナンス部分は実際に学生たちが行う。
つまり、ボルト1本でも締め方が緩かったりすると、それがトラブルやアクシデントにつながりレース結果に直結する。
「学生だから…」という言い訳が一切効かない現場なのだ。
それ以外にもスポンサーの方々をおもてなしするマネジメントスタッフや、レースレポート作成の取材、作成を行う広報スタッフなどもおり、やっている業務は普段各チームのスタッフが行っているものと同じことをやっている。
まさに日産自動車大学校の学生たちがいなければチームが成り立たないと言っても過言ではないほど、彼ら彼女らの存在というのが大きいチームなのだ。
参戦5年目、ついに悲願達成
フル参戦2年目となる2016シーズン。アップグレードし、すでにスーパーGTをはじめ各カテゴリーで最強っぷりを発揮している最新モデルのGT-R GT3を導入。
ドライバーの布陣は内田優大、藤井誠暢、平峰一貴の3人だ。
5年目ともなると、学生たちの動きにも機敏になっており、明らかに参戦1年目とは違うなという雰囲気がパドックにいても感じられるほど。
その勢いはレースにもつながり、開幕戦のもてぎ5時間耐久を見事勝利。
続く第2戦SUGOでは度重なるセーフティカーで予期せぬ混戦となったが、平峰が冷静かつアグレッシブな走りを見せ開幕2連勝。
第3戦鈴鹿はライバルの快進撃に屈したが、雨という難しいコンディションで大きなミスもなく3位表彰台を獲得した。
シリーズ最長となる9時間耐久レースとなった第4戦富士では、アクシデントやトラブル、ペナルティなど相次ぐ荒れた展開の中、24号車はほぼトラブルフリーで9時間を走りきり見事優勝。
早くもチャンピオンに王手とかけて、第5戦の舞台となる岡山国際サーキットへやってきた。
今年は、各チームともレベルの高い布陣、戦闘力の高いマシンを揃えてきているST-Xクラス。
ポールポジションを獲得するのも至難の技なのだが、その中で24号車はいきなり他を圧倒しポールポジションを獲得。
決勝は序盤から藤井が逃げ、中盤担当の内田もアドバンテージを広げていく王者にふさわしい走りを披露。
そしてアンカーの平峰がきっちりリードを守りきり優勝。今季4勝目を飾るとともに悲願のシリーズチャンピオンを勝ち取った。
エース藤井の目にも涙「背負っているものがすごく大きかったので…」
レース後、歓喜にあふれる24号車のピット。その中で、これまでの5年間。
ずっとエースドライバーとしてチームと学生たちを引っ張ってきた藤井は珍しく涙を見せていた。
「今までレースで優勝しても泣いたことは一度もなかったんですが、今回は初めて涙が出ました。ここまで関わっている人数が多いし、(学生たちも)卒業生を入れたら数千人いるので、背負っているものがすごく大きかったので…」と、5年間のプロジェクトであった出来事を一つ一つ振り返るように語ってくれた。
「2012年にこのプロジェクトが始まって、同時にGT-RのGT3もデビューしました。自分もNISMOの契約ドライバーとして、このチームに関わって、最初はスポット参戦でしたが、昨年からフル参戦になって、シリーズ3位でした。この学生と一緒になって戦うというプログラムは他のスーパーGTとかのレースとは全然違うので、そういう中で、学生、学校、チーム、クルマがみんな一緒に同じ方向に向かって成長してこれて、今年は強さを開幕戦から見せられたと思います」
「本当に…5年目にふさわしい結果を今年は出したいと思っていたので、その中でチャンピオンがとれたこと、今回も完璧な形で優勝できたこと。何よりこうやって学生が参加する素晴らしいプログラムを企画してくださった近藤真彦さんの思いが、5年目を迎えて成功という形を作れたので、そこにも感謝しています。今まで関わった学生、スタッフ、本当全部の関係者の人にお礼を言いたいですし、逆に“おめでとう”という気持ちを心から思っています」
「5年間のことを考えたら…やっぱり色んな思いがあって、絶対に成功させたいという思いがあって、すごい重いものがありますね。今まで辛いこともあったし、いいこと悪いこともたくさんありましたけど、その中でプログラムとして確実に形になっていったし、今回はその集大成を見せられたと思います」
ドライバーの中では唯一、プロジェクト立ち上げの時から今までチームに関わり続け、エースとしてチームをけん引してきた藤井。ある意味、一番そばで学生たちが真剣に取り組む姿を見てきたはずだ。
これまで、ここでは語りきれないくらいの失敗や経験もあった中、それでも「必ず成功という形を残したい」という思いがあったからこそ、今年の快進撃につながったのかもしれない。
この1勝、そして今回のシリーズチャンピオンは彼のレースキャリアの中でも特別なものがあったのだろう。
まとめ
学生たちが関わるチームがスーパー耐久の最高峰クラスでチャンピオンを獲得する。正直、5年前の参戦発表を聞いた時、筆者自身もまさかここまで来るとは思ってもいなかった。
しかし、年々めきめきと力をつけ、今年は速いし強いしミスをしないという、チャンピオンをとるべきチームにまで成長した。
それは、ドライバーの力、近藤監督率いるKONDO RACINGの力、そして最強GT-R GT3のパフォーマンスの影響もあるのだが、何よりそれを支えていた日産自動車大学校の学生たちのパワーが大きな原動力となっていた。
「クルマ離れしている」と騒がれていた若者たちが、“そんな若者だって、やればできる”ということを感じさせてくれたレースウィークだった。
次のページでは、スーパー耐久第5戦岡山での、KONDO RACINGの写真たちをご紹介します。