これまでF1では、頂点を目指すため数多くのマシンが生み出されてきました。そのなかで速いマシンはカッコいいという意見も少なくありませんが、今回ご紹介するのは”独創的なマシン”。デザイナーが工夫を重ねた結果、F1では一風変わったマシンが誕生することもありましたが、今回はそんなマシンたちをピックアップしてご紹介します!
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付いたあだ名はティーポット!?オールフランス体制で作られたF1マシン
まず最初にご紹介するのは、リジェが1976年に初めてF1参戦を果たしたマシンであるリジェJS5。
このマシンはオールフランス体制のチームを目指したリジェが、初めてF1に参戦した際に製作された記念すべき1台なのですが、当時からのファンの方は、少し変わったデザインの方が印象的だという意見が多いかもしれません。
あまりに大きなインダクションポットが特徴的なマシンは”フライング・ティーポット”(空飛ぶティーポット)と呼ばれ、大きな注目を集めました。
現代のF1ではマシンの全高に規定が設けられているので、このようなインダクションポットを作ることが出来ないのですが、この当時は全高に関する規定がまだ無く、そのきっかけを作ったのがこのJS5でした。
この年の4戦目となるスペインGPからFIA(国際自動車連盟)は急きょレギュレーションを変更し、マシンの全高を制限することを発表しました。
事実上、リジェが導入した斬新なインダクションポットは禁止となり、それ以降はマシンの全高を新規定に合わせたバージョンが投入されることになったのです。それにより、この初代JS5はわずか4戦限りでF1から姿を消す事になるのです。
これはリジェにとってかなりの痛手と言える変更で、マシン開発の方向転換だけでは済まない大きな理由がありました。
なんと、インダクションポットが禁止される直前の第3戦アメリカGPで、リジェはチーム初となる4位入賞を獲得するという好成績を残したのです。
しかし、これからマシンの真価が発揮されるという時期に規定が変わってしまったため、マシン開発は方向性を変えざるを得ませんでした。その事によりエンジニアたちの心に火が点いたのか、JS5は徐々に戦闘力を見せ始めまたのです。
そしてルール改定後の初戦となるスペインGPで3位表彰台を獲得し、突如訪れた逆境を見事に乗り越えて見せたのです。
さらにはシーズンが進むにつれてチームも成長し、イタリアGPでポールポジションを獲得する快挙も達成。チーム創設初年度にも関わらず、3度の表彰台獲得に加え、コンストラクターズランキングも5位に食い込む大健闘を見せました。
ラジエターが丸見え!サイドポットを削り取ったF1マシン
続いてご紹介するのは、1991年にF1を戦ったマシン、モデナ・291です。
ランボルギーニ製のV12エンジンを搭載し、マシンデザインも行ったことからランボルギーニ・291と呼ばれることもあるこのマシンは、三角形のようなサイドポットで話題を呼びました。
極限まで空気抵抗を減らそうというコンセプトでデザインされたため、サイドポットが無くなってしまったようにも見えるほど無駄をそぎ落とし、小さなサイドポットが作り上げられました。
そのため、ラジエターを斜めに搭載するという変わったレイアウトが採用され、マシンの外観からラジエターが見えるという珍しいフォルムとなったのです。
しかし、このように空力面を重視し過ぎた結果、マシンの冷却面で問題が発生してしまったのです。
V12エンジン搭載車にしてはラジエターがあまりに小さいことに加え、このサイドポットではマシンに溜まった熱を上手く逃がすことができなかったのです。
このマシンを開発したマウロ・フォルギエリは、かつて1970年代にフェラーリのチャンピオン獲得に大きく貢献したエンジニアとして知られていましたが、このモデナ・291の開発までには長いブランクがあった為、チームはシーズン途中に新たなエンジニアを招くことを決断しました。
そして新デザイナーはサイドポットを一般的な箱型のものに変更するなど、問題があった箇所の見直しに取り組みました。しかし、残念ながら目立った向上は見られず、入賞も叶わない1年を送る事になるのです。
フロントとリアに加え、新らしいウィングが誕生!その名は「センターウィング」
1995年に名門マクラーレンが開発したMP4-10は、少し変わったウィングを搭載していたことで知られています。
このMP4-10は当時低迷期に入っていたマクラーレンが起死回生を目指して作られたマシンだったことから、チームとして初めてとなる本格的なハイノーズを採用するだけでなく、当時流行していた吊り下げ式のフロントウィングを搭載するなど前年までのマシンとは大きな違いが見られました。
最大の特徴は水平に伸びたカウル上部のウィングです。これは”センターウィング”と呼ばれ、正面から見るとまるでリアウィングを2枚搭載しているようにも見えます。
これらの新たな空力面での取り組みは、王座奪還を狙うマクラーレンにとっては渾身の打開策でした。しかし、マシン発表と当時に他チームのエンジニアからは「マクラーレンには空力エンジニアがいないらしい」と言われるなど、そのビジュアルを酷評されてしまうのです。
シーズンが始まってみると思い描いたように成績は上向かず、ドライバーのナイジェル・マンセルがコックピットの狭さを訴え開幕2戦に渡って欠場するという珍事も発生しました。
結局このマシンは2戦限りで姿を消しMP4-10Bという改良型が投入されましたが、当時のエースであったミカ・ハッキネンが2度の表彰台を獲得するも、名門復活とはいきませんでした。
視界を失ってもダウンフォースが欲しい!モナコに向けて投入されたマシンとは?
2001年のモナコGPに登場したアロウズA22も忘れていけない風変わりのマシンといえるでしょう。
先ほどご紹介したMP4-10と同じように新たなウィングを備え付けたA22は、フロントノーズの上にウィングが備え付けられたマシンが、モナコGPのフリー走行に突然姿を表し、大きな話題を集めました。
ウィングで稼ぎ出すダウンフォースを少しでも増やしたいという意図は、コーナーが多いモナコ限定の特別仕様としては理解できるのですが、ドライバーの視界すら怪しいデザインはすぐに議論が巻き起こりました。
結局、FIA(国際自動車連盟)はすぐさまこれを審議の対象とし、このウィングは危険な構造物という判断を下します。そして土曜日以降は禁止され、実際にレースに投入することは出来ませんでした。
まさに苦肉の策ともいえる発想にも思えますが、実は同年に参戦していたジョーダンもこれと同じようなコンセプトのウィングを用意していたという噂もあり、「速くなるためなら何でもやってみる」というF1らしい発想と言えるのかもしれません。
まるでセイウチ!?名門がタイトルを目指した勝負作
続いてご紹介するのは2004年に名門ウィリアムズが製作したマシン、FW26です。
長い間ウィリアムズのマシンデザインを手掛けたパトリック・ヘッドとギャビン・フィッシャーが設計したこのマシンは、その前年にタイトルを争ったフェラーリとマクラーレンを出し抜くために投入された勝負作として発表されました。
このマシンの特徴は下側が大きく空いたフロントノーズにあり、これはマシンの下側に空気を送り込むことで大きなダウンフォースを得ようという狙いがあり、さらにはフロントウィングも波形という珍しい形状だったのです。
このフロントノーズはウォラスノーズ(セイウチノーズ)と呼ばれ、開幕前のテストからそのポテンシャルには注目が集まりました。
FW26は開幕から上々の速さを見せ、第2戦マレーシアGPでは2位を獲得するなど期待が高まりましたが、このセイウチノーズには大きな弱点があったのです。
大きくノーズ下が開けていることから、他のマシンと比べてマシンの床面で大きなダウンフォースを得ることが出来ました。しかし、その代償としてコーナーではフロント部分での気流の乱れが大きくなってしまったのです。
そのため姿勢変化が苦手な性質を持っていたことから性能を存分に発揮できず、王座を狙うどころか優勝に手が届くところには至らずシーズン中盤にチームは失速を始めてしまいます。
第8戦カナダGPではブレーキダクトの規定違反が発覚し失格処分を受け、その後は表彰台にも登れない日々が続いてしまいますが、それでもウィリアムズはシーズン半ばで大幅なアップデートを敢行したのです。
新たな改良型はフロント周りは大きく改修され、秘策であったセイウチノーズは細く鋭いノーズに付け替えられました。そして、波形のウィングは一般的なデザインに見直されたのです。
するとシーズン終盤には速さを取り戻し、上位を争う機会も増え始めたのです。日本GPではラルフ・シューマッハが2位表彰台を獲得、さらに最終戦で優勝を飾るという素晴らしいパフォーマンスを見せました。
セイウチノーズは失敗だったという意見も少なくはありませんが、2010年代、フロントノーズからマシンの下方に空気を送る手法は主流となっているので、このマシンはその先駆け的存在となったのではないでしょうか。
左右非対称!記憶に新しいクワガタノーズ
まだ記憶に新しい2014年はマシン規定が大きく変わり、歴代でも一風変わったマシンが多く登場したシーズンでした。
フロントノーズの先端が細く尖ったアリクイノーズは大きな話題を呼びましたが、その中でもさらに珍しいマシンといえるロータス・E22も忘れてはいけません。
このクワガタの角のようなフロントノーズは、先ほどご紹介したセイウチノーズと同じコンセプトでマシンの底面に空気を送り込む為にフロントノーズを2本に分けるというF1初の試みでした。じっくり見ると分かりますが、この2本の先端部分は左右で長さが違うのです。
これはF1の細かい規則が原因となっていて、マシンの先端部の断面は長さと高さに制限が設けられていたり、さらにはその数は1つまでと限定されているため、マシンの先端部の長さに違いを設けることでマシン規定に対応させたのです。
左右を非対称にする事により、左右で気流の流れが違ってしまうことはパフォーマンスに大きく影響するという懸念もありましたが、この形状のままマシンは投入されることとなりました。
まとめ
速さを追及した結果、しばしば変わったマシンが登場しますが、少し見た目が個性的なマシンの方がエンジニアの求める思想がひしひしと伝わってくる気がします。
なにもカッコいいマシンだけが愛される訳ではなく、今回ご紹介したような一風変わったマシンもファンの関心を惹きつけたことは間違いありません。
このように露骨なマシンへのアプローチは熱意の表れでもあり、見るだけでファンを楽しませる1台として多くの人に深い印象を残しています。
変わったマシンが登場した際には周囲に笑われてしまうこともありましたが、一つだけ確かなのはどのデザイナーたちも速さを求めていたという事なのです。
そしてどんなマシンにも言えることですが、全て速さを追及するという意図があり、試行錯誤を経てF1に送り出されてきたのです。
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