911を主力に、ボクスターやケイマンのようなエントリーモデル、カイエンやマカンのようなSUV、そしてパナメーラのようなスポーツサルーンといった、幅広いラインナップを誇るポルシェ。しかし、このラインナップとなったのは割と最近のことで、1990年代まではひたすらスポーツカーばかり作っていた印象があります。その中でも頂点にあったフラッグシップモデルが928で、1995年の生産終了後、未だに直接的な後継車が登場していないという意味で、ポルシェとしてはかなり特殊なモデルです。

デビュー40周年を記念してヒストリックカーレースに参戦したポルシェ928 / 出典:https://www.porsche.com/uk/accessoriesandservice/classic/928-anniversary/
リアルスポーツ911の上の狙う高級スポーツを開発せよ

ポルシェ928 / 出典:https://www.porsche.com/central-eastern-europe/en/_croatia_/accessoriesandservice/classic/
1940年代末期に登場した356、1960年代中盤に登場した911など、スポーツカーの世界では今日に至るまでに確固たる地位を既に築いていたポルシェですが、356から911というラインから外れるモデルは、さほど作ってはいませんでした。
550や904といった「レーシングカーのロードゴーイングバージョン」を除くと、エントリーモデルとしてフォルクスワーゲンと共同開発した914やその後継車924がありましたが、「911の上」が存在し無かったのです。
1973年当時、ジャガーやメルセデス・ベンツ、BMWなどのライバルは、高級サルーンやスポーツカーを販売する一方、高い次元で快適性と動力性能を両立させた優雅な高級スポーツをラインナップしており、ポルシェもそこに参入しようと考えたわけです
911で得たユーザーをさらに上級モデルで取り込む狙いで、大型高級ラグジュアリースポーツ928が開発されたのにはそうした背景がありました。
そして、そうなると必然的に911より大柄なボディと大排気量のエンジンを持ち、ミッションもATがメイン、走りも狼のような俊敏さというよりは高速安定性が重視された、当時のポルシェとしてはかなり異色のモデルになることが容易に想像できます。
928は、純粋なスポーツカーメーカーから、現在のように自動車メーカーとしても多彩なラインナップを誇るようになる為のまさに第一歩だったと言える存在でした。
ラグジュアリー要素を高めつつ、走行性能も高かったスポーツGT、928

ポルシェ928 / 出典:https://www.porsche.com/central-eastern-europe/en/_bulgaria_/aboutporsche/christophorusmagazine/articleoverview/article02/
ポルシェ928の基本構成は、新開発した4.5リッターV8SOHCエンジンをフロントミッドシップに搭載、リアにミッションを配置して前後重量バランスに優れる”トランスアクスル”を採用したFRレイアウト。
初期型の標準モデルで230馬力を発揮するV8エンジンは排気量の割に控えめなスペックと言えて、最高速度も230~240km/hと、いわゆる”スーパーカー”的なハイパワーや最高速競争には縁がありません。
ミッションは初期型や928S、928GTなどに5速MTの設定がありましたが、そのほとんどはオートマチック・トランスミッションだったというのもそのキャラクターをよく表していると言えました。
なお、オートマは当初3速ATで後に4速AT化されましたが、よく見られる「オーバードライブ付き」ではなく、逆に登坂路などで重たいボディに加速力を与えるGレンジ(1速)を追加しており、普段のDレンジでは2速発進というのも特色です。
そして18年も作られ続ける中でエンジンのDOHC4バルブ化など段階的にハイパフォーマンスモデルが登場し、最終的には1992年に発売された928GTSで5.4リッターに拡大された排気量から340馬力を発揮、最高速も294km/hに達します。
ただし、それはあくまで時代に合わせたバージョンアップと言え、キャラクター的にはあくまで高級ラグジュアリースポーツ。
T字型コンソールで適度なホールド感を持ち、豪華な内装と合わせてメーターパネルごとチルトするステアリングなど、ドライバーに合わせたドライビングポジションを設定可能で快適性の高さを追求しています。
当時のポルシェ車としては珍しくモータースポーツにもあまり縁が無く、1983~1984年にグループB仕様レースカーがル・マン24時間レースやスパ、シルバーストンなど1,000kmレースに投入されたのみで、いずれもリタイヤなどで大きな結果は残しておらず、やはりレースよりはアウトバーンなどを優雅に高速クルージングする姿が似合う車でした。
4WSの元祖と言われる事もある、ヴァイザッハ・アクスル

ポルシェ928のリアに採用された、ヴァイザッハ・アクスル / 出典:https://jalopnik.com/5790749/whats-the-geekiest-forgotten-car-feature
その他、最大の特徴としてはリアに「ヴァイザッハ・アクスル」という、一種のパッシブ4WS的な動作をするサスペンションが採用された事が挙げられます。
基本的にはマルチリンクサスペンションなのですが、コーナリング中に横Gが加わると、外側後輪が最大2度”トーイン”になります。
これはブレーキングやアクセルオフで前荷重になった状態でコーナリングに入った時、後輪が外に逃げてフロントをコーナー内側に巻き込む”タックイン”を抑止、安定性を増すというもの。
後にマツダが5代目ファミリア(いわゆる初代FFファミリア)で4輪ストラットながら同様の効果を実現した「SSサスペンション」を採用するなど、後輪の限定的な操舵は大衆車でも使われるようになりましたが、928はその先駆けだったと言えるのです。
これは積極的に同位相(4輪を同方向に操舵)、逆位相(後輪は前輪と逆に操舵)を切り替える4WS(4輪操舵)や、ブッシュの変形などを利用して後輪をトーアウトにするニシボリック・サスなどパッシブ4WSと異なり、あくまでトーコントロールシステムの一種でした。
しかし、後輪にも舵角を持たせて車の安定性に寄与することから、このヴァイザッハ・アクスルを「4WSの元祖」と解釈する場合もあるようです。
主要スペックと中古車相場

ポルシェ928 S4 / 出典:https://www.porsche.com/japan/jp/accessoriesandservice/classic/models/928/928/
ポルシェ 928 S4 1991年式
全長×全幅×全高(mm):4,520×1,836×1,282
ホイールベース(mm):2,500
車両重量(kg):1,600
エンジン仕様・型式:M-284 水冷V型8気筒DOHC32バルブ
総排気量(cc):4,957cc
最高出力:320ps/6,000rpm
最大トルク:43.9kgm/3,000rpm
トランスミッション:4AT
駆動方式:FR
中古車相場:298万~550万円(各型含む)
まとめ

2011年にドイツ人女性により世界各地を3ヶ月で3万5,000kmの旅をしたと言われる、ポルシェ928 / 出典:https://www.porsche.com/france/_morocco_/aboutporsche/pressreleases/pof/?pool=france&id=2017-01-31
ポルシェ928は911が2度モデルチェンジ、FRスポーツも924から944、968と世代交代していく中で、マイナーチェンジを繰り返しつつも、18年間と長いモデルライフを誇りました。
最終的には1990年代のポルシェ経営悪化により1995年で生産を終え、その後、直接的な後継車は生まれていません。
強いて挙げるなら、リアハッチを持つ4ドアスポーツサルーン、パナメーラが928のポジションを受け継いでいるとも言えます。
巷ではパナメーラをショートボディ&リアハッチつき2ドアクーペ化した新型車の開発が伝えられており、中国などでの販売好調を背景として、ようやく928後継車がデビューするかもしれません。
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