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2019年11月16日(土)、17日(日)の2日間、鈴鹿サーキットでクラッシックレーシングカーの祭典『サウンドオブエンジン』が開催されました。参加したヒストリックフォーミュラーカーやグループCなど、エントリーカーの中から『エンジン』に注目して歴史的価値の高い車両をピックアップ!名車たちのフォトギャラリーでモータースポーツの歴史を振り返ります。

1991年F3000チャンピオンカー『ローラT90-50 DFV』/Photo by TEIJI KURIHARA
キャビンレッドのチャンピオンカー/ローラT90-50

CABIN RACING TEAM with HEROESからエントリーしていた片山右京氏のマシン。キャビンレッドがまぶしい! /Photo by TEIJI KURIHARA
元F1ドライバー片山右京氏が、国内トップフォーミュラへ参戦した最後の年(1991年)にハンドルを握ったマシン『ローラ・T90-50』(以下ローラT90)が、サウンドオブエンジンに登場しました。
91年シーズンの片山氏は、この年のシリーズチャンピオンを獲得することがF1への条件とされており、何が何でも勝たなければならない状況でした。
そんな91年のF3000カテゴリー(現・スーパーフォーミュラ)では、シーズン前テストから新型モデル ローラT91の調子が上がらず、ローラユーザーの多くは前年度も使用した、信頼の高い型落ちモデルのローラT90を使用して前半戦のシリーズを戦っていました。
そんな中、第1戦鈴鹿、第5戦鈴鹿の両ラウンドで優勝を果たすなど、シーズン前半から中盤まで活躍。
その後チームはローラT91型にスイッチするも、全11戦ある内の2戦のみ使用し、結局シーズンの大半は戦闘力の高いローラT90で戦い抜き、片山氏のチャンピオン獲得に大きく貢献したのでした。
その為、F1も含め片山氏のキャリアの中でも最も思い入れが深いマシンがこのローラT90なのだとか。
そんなこのチャンピオンマシン(ローラT90)を現オーナーが手に入れたのは、今から20年以上前のこと。
マシンのエンジンハーネスなど、購入時に不足していた細かいパーツを探したり製作するのに、お金と時間を費やしたというこのマシン。
搭載されている『ケン・マツウラ・チューン』のコスワースDFVエンジンは、今でも一発始動するほど調子が良いそうです。
ローラT90は、1990年にF1に迫る完成度を持ったマシンというフレーズで、100%カーボンハニカムコンポジットボディで登場。
当時の趣きそのままのキャビンカラーですが、実はマシンに貼られたラッピング自体がそのままなのだとか!
その為、剥がれてきている箇所も見受けられるものの、あえてそのままにしているそうです。
パーツの入手など、オールドフォーミュラカーを維持していくのはまさに「人脈の世界」というオーナーの周りでは、様々なレース関係者たちが信頼を保って関わり合っていることが伺えます。

マーチ86J・ヤマハを従えて走行するローラT90-50。ともに『ケン・マツウラ・チューン』エンジン搭載車 /Photo by TEIJI KURIHARA
「タイヤが冷えているときはミリを踏む思い」と話し、パワーのあるF3000マシンのハンドルを自ら握るオーナーは、入門フォーミュラなどから練習を始め、現在では年間5回ほど富士スピードウェイでF3000の走行をこなしているフォーミュラドライバーです。
Formurla3000/Formula2クラスのデモンストレーション走行が始まると、往年のF2マシンF3000マシン、そしてフォーミュラ ニッポンなど、カラフルなネオクラッシックフォーミュラカーが登場。
そんな中、一際目立つキャビンレッドのローラT90が登場し、コスワースDFVエンジンのサウンドを響かせながら鈴鹿サーキットのS字コーナーをクリアしていきました。
ENGINE Pick Up
『ケン・マツウラ・チューン』のコスワースDFVエンジン/Photo by TEIJI KURIHARA
コスワースDFV 『ケン・マツウラ・チューン』
エンジン形式:3リッターV型8気筒DOHC
エンジン出力:450ps以上/9000rpm
※当時のF3000のエンジンは、9000回転で作動するリミッターを装着。
1991年シーズン開幕時点では、エントリー台数が30台以上あるなか、コスワースDFVエンジンを搭載してエントリーしたマシンは少数派だった(他はすべて無限MF-308型を搭載)。
そんな中、ローラT90-50に『ケン・マツウラ・チューン』のコスワースDFVエンジンを搭載して開幕戦鈴鹿に参戦した片山氏は、このマシンでポール トゥ ウィンを決め、無限エンジンの連勝記録をストップさせました。
日本に数台のレア・スポーツモデル/フェアレディZ432-R

フェアレディZ432-R/Photo by TEIJI KURIHARA
1969年の第16回東京モーターショーでワールドプレミアを果たした、初代フェアレディZ。
L型エンジンを搭載するZ、Z-Lというスタンダードグレードに対し、ハコスカGT-Rと同じくレーシングカーのR380ベースのS20エンジンを搭載したスポーツグレードのZ432が、ショーモデルとして晴海に登場しました。
モーターショー会場では、Z432にはさらに上をいくレース専用モデル『フェアレディZ432-R(以下432-R)』が50台限定で発売されると、既にアナウンス済。
432-Rは20台程度を日産ワークスがレース車両として購入したほか、レース専用マシンとして販売されましたが、売れ残ってしまった経緯などからその後、ナンバーを取得して公道を走っている車両も10台前後存在するといわれています。
そして今回のサウンドオブエンジン『60 Racing Cars』クラスには、本物の公道仕様432-Rがエントリー!鈴鹿サーキット国際レーシングコースを疾走しました。
現オーナーが手に入れて40年になるというこの432-Rは、6年前にボディのフルレストアが施されたということもあり、コンクールコンディションの輝きを放っています。
設定段階からフロントウィンドー以外はアクリル製ガラスに張り替えられ、ドア部分の内張りなどを簡素化。
フロントフェンダーなどの鋼板は0.2mm薄く作成し、さらにはフロントフードをFRP製に変更するなどして110kg軽量化されたといわれている432-R。
実際にはハコスカGT-Rと同じく燃料タンクが100リットル仕様に変更されているため、「ノーマルの432より80kgくらい軽くなっている。」そうです。

縦デュアルマフラーが特徴的なフェアレディZ432-R/Photo by TEIJI KURIHARA
「丈夫なエンジンですけど、20年くらいで一度ダメになりました」と話すオーナーは、実はフェアレディZのオーナーズClub会長という肩書きを持っているため、日本全国のイベント会場に出向き、普段から432-Rでの長距離移動を普通にこなしているそうです。
また、20年に1回というサイクルで昨年に2回目のオーバーホールを施したというエンジンには、長めのファンネルが装着されていて、ボディ同様の輝きが保たれています。
50年前のクルマを所有する際のパーツ入手などの問題点を伺うと「こういう場所で会える仲間たちがいるおかげで現在のところ大丈夫!」とのこと。
国際レーシングコースを全開走行した後、パレードラン、オーナーミーティングなど多忙なスケジュールをこなしたオーナーは、500km以上離れている自宅に向けて自走で帰るそうです。
イベント終了後、颯爽と432-Rに乗り込んだオーナーは、S20エンジンのエキゾーストサウンドを残して鈴鹿サーキットを後にしました。
ENGINE Pick Up
ハコスカGT-Rでもお馴染みのS20エンジン/Photo by TEIJI KURIHARA
S20型エンジン:2リッター直列6気筒DOHC
エンジン出力:160ps/7000rpm/18kgm/5600rpm
レーシングカーR380用に開発されていたGR-8型エンジンをデチューン
したもの。
4バルブ、ソレックスN40PH-HA15aキャブレター3連、2カムシャフトというエンジンスペックの語呂合わせが、フェアレディZ『432』の名前の由来です。
432-Rには、オイルクーラーや、エンジンルーム下側にはプラスチック製アンダーカバーなどが装着されています。
ルマンで入賞した4ローターレーシングマシン/マツダ767B

ルマン24時間耐久レースで7位入賞した『マツダ767B』/Photo by TEIJI KURIHARA
1989年のグループCカー全盛期に、IMSA-GTPクラスで軽さと4ローターロータリーエンジンを武器に活躍したのがマツダ767B(以下767B)です。
ルマン24時間のテストを兼ねて出場したIMSA開幕戦、デイトナ24時間レースでいきなり5位入賞を果たした767Bは、その後全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権(以下JSPC)と共にこの年鈴鹿でも開催されていた世界スポーツプロトタイプ選手権(WSPC)にも参戦をして、『ルマン制覇』へのデータ収集に力を尽くします。
そして767Bは、1989年のルマン24時間耐久レースに3台エントリーして、7位、9位、12位と好成績を残し、後継の787~787Bにバトンを受け渡しました。
そしてその後も、4ローターロータリーエンジンでのマツダの挑戦は続けられ、1991年のルマン総合優勝へとつながっていきました。
今年のサウンドオブエンジン『Group C』クラスには、2台のマツダIMSA-GTP車両が登場しています。
1台がマツダがメーカーとしてサポートする1990年型787B JSPC仕様で、もう1台が驚きのプラベーター所有というこの1989年型767Bです。
ルマンで実際に7位に入賞し、歴史的価値の高い767Bを手に入れた経緯を「棚から落ちてきたようなもの」と話す現オーナーですが、実は「ロータリーが大好き」だそう。
マツダに25年以上勤務したというオーナーは、現在は往年の名車マツダ コスモやRX-7などの修理・オーバーホール・パーツ製作などを手掛けるショップを経営。
縁があってたまたま手に入ったという767Bは、非常に元気なエンジンで、現在のところオーバーホールをしていないそう。
「ロムは、最新バージョンのものをつけています!」という767Bには、エイボン製の極太スリックタイヤがはめられており、600馬力以上のパワーを受け止めます。
(従前はダンロップ製タイヤが新品で手に入ったそうですが、現在では新品はエイボン製のみしか手に入らないのだそうです)

レナウンチャージカラーのマツダ767B/Photo by TEIJI KURIHARA
サウンドオブエンジンのような走行イベントが開催されるたびに、自らハンドルを握るというオーナーのもとには、多くのサポートスタッフが集い、インタビューの合間にも水温や油温などの細かなデータの確認に訪れていました。
そんなサポートスタッフのひとりにお話を聞いてみると、エンジン始動時と走行時にプラグを交換してエンジンが被りにくいように気をつけたり、燃料に2サイクルエンジン用混合オイルを混ぜるなど、プライベーターならではのきめ細かいメンテナンスが行なわれている様です。
『Group C』クラスの走行が開始されて、トヨタ、日産、ポルシェなど往年のグループCカーに混じって2台のマツダIMSA-GTP車両が走り出すと、ロータリーエンジン独特のかん高いエキゾーストノートがサーキットに響き渡ります。
そして25分間の『Group C』クラスデモンストレーション走行時間が終了し、767Bがチェッカーフラッグをくぐってストレートを駆け抜けると、そのサウンドに酔いしれた観客たちからは大きな拍手が沸き起こりました。
ENGINE Pick Up
マツダRE13J改エンジンユニット/Phato by TEIJI KURIHARA
マツダRE13J改『4ローターロータリー』
排気量:654cc×4×1.8(係数)
エンジン出力:630ps/9000rpm/52kgm/8000rpm4ロータリーエンジンとしても価値のあるRE13Jエンジンは、レーシングカーとして初めて可変吸気機構を取り入れた歴史的エンジンです。
現在の仕様は、7700回転から高回転用のインテークマニホールドに切り替わる設定となっています。
TIME TRAVEL フォトギャラリー

1969年 ロータス59 /Photo by TEIJI KURIHARA

1977年 タイレルP34 /Photo by TEIJI KURIHARA

1977年ロータス78/ Photo by TEIJI KURIHARA

1986年日産R86V/ Photo by TEIJI KURIHARA

1988年 ポルシェ962C Photo/ by TEIJI KURIHARA

1989年 ベネトンB189/ Photo by TEIJI KURIHARA
まとめ

Photo by TEIJI KURIHARA
1962年に鈴鹿サーキットがオープンしてから50年以上の歴史が刻まれ、その時代にあわせて様々なレーシングカーが国際レーシングコースを駆け抜けて来ました。
50年近く前に日産自動車がエヴォリューションモデルの先駆けといえるフェアレディZ『432-R』というレース専用モデルを発売していたことには驚きを感じます。
また開催5年目を迎えたこのイベントでは、バブル景気と重なる頃に年間数億円といわれたチーム運営費で戦っていた『華やかな時代』のグループCや、F3000マシンといったネオ・クラシックレーシングカーの参加が目立ちました。
今回、紹介したローラT90をドライブした片山右京氏は、1991年にF3000チャンピオンを獲得して翌年からの『フォーミュラ1』への切符を手に入れました。
ルマンへの挑戦を目指して開発が進められたマツダ767Bは、4ローターロータリーエンジンとしての実績を重ね、後継モデルとなる787Bがルマンを制覇し、世界の頂点までのぼりつめました。
自動車メーカーの枠を超えて、モータースポーツの歴史を後世に語り継ぐイベントとして、『鈴鹿サウンドオブエンジン』が今後いっそう盛り上がることを期待します。
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