1989年のF1世界選手権用に開発されたフェラーリ640。このマシンにはF1マシンで初となるパドルシフト付セミオートマが装備され、1989年シーズンで3回の優勝を遂げました。その後市販車にフィードバックされ、1997年のフェラーリF355ベルリネッタに「F1マチック」の名称で搭載されて現代に続きます。今回は、そんなF1マチックの歴史をご紹介します。
F1マチックとは?
F1では1989年のフェラーリ640から、市販車では1997年にフェラーリF355に追加されたセミATユニット『F1マチック』は、トルコンやCVTなどのATとは違い、クラッチを装備するMTの進化形です。
MTの操作は運転者がアクセルペダルを少しずつ踏みながらクラッチペダルも踏み、シフトを操作しながらギアの段数を変更して、車を走行させます。
このギアチェンジに伴うクラッチ操作を、F1マチックでは運転手ではなく機械が油圧により行うのです。
また、F1マチックのシフトチェンジは自動化されておらず、ステアリング奥に配置されたパドルシフトで行います。
パドルシフトは通常右側がアップ、左側がダウンです。
どちらのパドルを操作したかを電気信号でギアボックスに伝え、シフトチェンジをする仕組みとなっています。
また、F1マチックはMTではあるものの、その構造によりクラッチペダルは必要なく、アクセルとブレーキの2ペダルで操作できる点から、セミATと呼ばれます。
F1マチックのシフトチェンジ時のアクセル操作が独特で、普通のMTならシフトチェンジ時はクラッチペダルを踏んでアクセルペダルを一瞬離しますが、F1マチックではアクセルを踏んだまま。
パドルシフトの操作だけで済むためにシフトチェンジが簡単になり、レースではシフトチェンジにかかるロスタイムが減る上に、ドライバーへの負担低減となりました。
市販車では、フェラーリでイージードライブを楽しめることが特徴です。
F1マチックの市販車における進化
1989年のF1世界選手権に投入されたフェラーリ 640のセミATには、まだクラッチがありました。
なぜなら、当初は発進時のみクラッチを手動でつなぐ必要があったのです。
その後1997年にフェラーリ F355に追加されたF1マチックでは、クラッチペダルは廃止され、アクセルとブレーキのみの2ペダルで登場しました。
F355に搭載されたF1マチックのクラッチはシングル仕様で、その後、360モデナ、F430、575Mマラネロ、612スカリエティ、エンツォフェラーリにも搭載されました。
2006年にはF1マチックに改良が加えられ、シフトチェンジ速度を向上させた「F1スーパーファスト」が、599GTBフィオラノで採用。
基本的な構造はF1マチックとほぼ同じではあるものの、F1スーパーファストのシフトチェンジにかかる時間は60秒と驚異的な速さを実現しています。
F1スーパーファストは、他にも430スクーデリアにも搭載されますが、2009年には新型トランスミッションが採用されることになりました。
F1マチックが2クラッチに進化
2009年、カリフォルニアが発表され、トランスミッションにはゲトラグ製7速DCT式F1マチックが搭載されます。
増大するトルクに対応するため、クラッチをデュアルに変更したのです。
またDCTを採用したことで変速ショックが低減され、より瞬間的なシフトチェンジが可能となります。
そのため、走行シーンに応じて必要なパワーをすぐに引き出せるようになりました。
ちなみに、DCT化されたF1マチックも、操作方法は従来のF1マチックと同様で、シフトチェンジはステアリング奥に固定されたパドルシフトで行います。
またペダルもアクセルとブレーキの2ペダルで、シフトレバーも廃止されており、後退時にはコンソール上にあるRボタンを押す仕組み。
7速DCT式F1マチックはカリフォルニア、フェラーリフォー、ラフェラーリと続けて搭載され、2019年現在発売されているフェラーリ車すべてに搭載されています(SF90ストラダーレのみ8速DCT)。
まとめ
フェラーリは走りにこだわった車づくりを行っているメーカーですが、最近ではスポーツ性と日常性を両立する車両を生産しています。
昔言われていた「フェラーリのエンジンで渋滞を走ると故障する」といったことはなく、都内の渋滞もイージードライブで快適です。
その助けとなっているのが、今回紹介したF1マチックであることは間違いないでしょう。
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