1989年にモデルチェンジを果たした3代目ホンダ インテグラには、直4DOHCのB16A型エンジンが搭載されて話題になりました。というのもこのエンジンには、バルブ開閉のタイミングとバルブリフト量を同時に制御する、世界初の可変バルブタイミングリフト機構(VTEC)が備えられていたからです。そして量産開始から30年、可変バルタイ機構は他社にも普及し、それぞれに特徴を備えています。

出典:http://www.honda.co.jp/

可変バルタイ機構とは?

ホンダ・2代目インサイトに搭載された1.3L i-VTEC / © Honda Motor Co., Ltd.

可変バルタイ機構は、4サイクルエンジンに採用されるバルブに関する機構です。

4サイクルエンジンは「吸気・圧縮・燃焼・排気」の4工程を経て、パワーを出力します。

つまり、吸気バルブからシリンダー内に導かれた大気が燃料と混ぜられ混合気となり、圧縮・燃焼行程で混合気を爆発・燃焼させてパワーを生み出し、車輪に伝えられるのです。

燃焼後の混合気は排気バルブから排出されると吸気バルブが開き、次の工程用の大気が再び吸気バルブからシリンダー内に導かれるというサイクルを繰り返しています。

そこで、効率よく大気を取り込み燃えカスを捨てて次の工程をスムーズに行うために、可変バルタイ機構は開発されました。

なぜ、可変バルタイ機構が必要となったのでしょうか?

それは走行速度域による、エンジンルーム内への大気流入量に違いがあり、シリンダーへの気流の流入速度に関係するからです。

高速域ではエンジンルームに風が入ってこない?

一般的に4サイクルエンジンの吸・排気バルブは、エンジン回転数が低回転域ではバルブの開閉タイミングは短く、バルブリフト量を少なくし、高回転域では開閉タイミングを長く、バルブリフト量を多めにするのが理想的です。

というのも4サイクルエンジンの4工程は1分間に、エンジン回転数(正確にはクランクシャフトの回転数)の2分の1回行われるため。エンジン回転数が低い(すなわち低速域)時はエンジンの工程数が少ないので、ゆっくりと作業することができます。

しかも、低速域ではエンジンルーム内のエアクリーナーを通じてシリンダー内に導入される大気の量が多く、吸気バルブの開閉量を少なくしても十分。

排気バルブも吸気バルブが吸った量の混合気を排出する必要がないので、吸気バルブと同様に、少ない開閉量ですみます。

しかしエンジン回転数が高回転域(すなわち高速域)ではエンジンの作業工程が増え、しかも1工程にかけられる時間も減少。

吸気も排気も素早く行わなければならないのに、肝心の大気は高速運転時にはフロントグリルに反射して、エンジンルーム内への流入量が低速時より減ってしまうのです。

少ない流入大気を確実にシリンダ―内に充填し、排気ガスを素早く排出するためにも、バルブ開閉時間とリフト量が多めになるわけです。

このようなエンジンと大気の特性や、1980年代に日本で高速道路網が整備されて時速100km走行が一般的になったこともあり、ホンダを皮切りに国産メーカーでも可変バルタイ機構が量産されました。

可変バルタイ機構を採用した国産エンジン

1989年の誕生から30年、可変バルタイ機構は多くのホンダ車に採用され、他社も追従するようになりました。

国産エンジンの主な可変バルタイ機構を、見てみましょう。

ホンダの可変バルタイ機構

ホンダ シビック typeR VTEC TURBO

© 本田技研工業株式会社

ホンダの可変バルタイ機構は、低速用と高速用のカムプロフィールを切替えるタイプで、パワー特化型エンジンと経済性特化型エンジンに進化しました。

パワー特化型は、シビック typeRに搭載される2.0リッター直4VTEC TURBOとなり、最高出力235kW(320PS)、最大トルク400Nm(40.8kgfm)を発揮します。

一経済性特化型はVTEC-Eを経て、i-VTECに進化し、ほぼすべてのホンダ車に搭載されています。

トヨタの可変バルタイ機構

トヨタのVVT-iEエンジン / © Honda Motor Co., Ltd.

トヨタの可変バルタイ機構はVVTと呼ばれ、1991年発売のカローラレビン/スプリンタートレノが搭載した5バルブの4A-G型に採用されました。

現在では進化型のVVT-iが、トヨタのガソリン車に標準採用されています。

ホンダVTECとの違いは、切替型ではなく位相型である点で、吸・排気バルブを動かすカムシャフトブーリーが、VVTの働きによりカムシャフトに対し「ねじる」動きをし、最適なバルブタイミングを制御してくれます。

日産の可変バルタイ機構

VQ37VHR VVEL

© 日産自動車株式会社

日産の可変バルタイ機構は、2種類が市販化されました。

1つめはホンダVTEC同様の切替型で、NEO VVLと名付けられました。

1997年に発売されたパルサーに搭載されたSR16VE型エンジンを皮切りに、SR20VE型や同エンジンのターボ仕様であるSR20VET型に搭載されます。

しかし2007年に排ガス規制を乗り切れず、生産終了。

2019年現在では、トヨタVVT-iと同様の位相型が、VVELの名称で販売されています。

三菱の可変バルタイ機構

出典:http://www.mitsubishi-motors.co.jp/

三菱の可変バルタイ機構はMIVECといい、タイプは切替型と位相型の両方が存在します。

というのも、MIVECは三菱自動車の可変バルタイ機構の総称だからです。

三菱自動車は、エンジンや車両タイプによってバルタイ機構を使い分けており、2.4リッター以下は位相型、2.4リッター以上には切替型が採用されています(2.4リッターは混在)。

まとめ

1980年にアルファロメオが可変バルタイ機構を世界で初めて量産し、遅れること9年後に日本でもホンダがより高度な可変バルタイ機構を販売し始めました。

可変バルタイ機構は発売当初はスポーツエンジンのための仕組みでしたが、パワーがあり、低燃費で経済性がよく、排ガスもきれいで環境にも優しいということで、今や軽自動車にも搭載され、ガソリンエンジンのデファクトスタンダードになりました。

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