スズキ・ハヤブサに奪われた世界最速の座を奪還するために、カワサキが送り出したZX-12R。しかしハヤブサに人気で勝ることができず、いつの間にか生産終了となってました。今となってはマニアックな存在の1台ですが、現行のスーパースポーツバイクに採用された技術のいくつかは、既にZX-12Rが先取りしていたというハイテクなモデルです。
掲載日:2019/03/14
世界最速の座を奪還するためにカワサキ社内総出で開発されたZX-12R
カワサキは、『世界最速』の称号にこだわり過ぎるバイクメーカーと言っても過言ではありません。
そして旧車Z1から現在はH2Rまで世界最速バイクの数々を世に送り出し続け、カワサキのブランドイメージを確立させてファンを魅了しています。
そんなカワサキは、”総合重工業企業”であることも世界最速バイクを生み出す開発力につながっていて、現在の世界最速とされるカワサキH2/H2Rに搭載されるスーパーチャージャーやエアロダイナミクスなどは、カワサキのバイク部門だけでなく同社のボイラー部門や航空機部門から技術者を集め、企業としての総力を集結して開発されました。
もちろん2000年に登場したカワサキZX-12Rも、世界最速の座を得るためにカワサキが総力を挙げて開発したバイクです。
当時、カワサキ ZZR1100がハヤブサに世界最速の座を奪われ、ZZR1100の仇を打つかのようZX-12Rを投入。
熾烈な最高速競争が、カワサキとスズキの間で行われていました。
しかし、消費者が本当に求めるのは最高速バイクの所有感だけではなく、高速クルーズやワイディングでの扱いやすさであり、その部分がZX-12Rの最大の弱点でもあったのです。
カワサキZX-12Rとは
カワサキ ZX-12Rは2000~2006年に生産・販売された、大型スポーツバイクです。
1990年代終盤、それまで世界最速だったZZR1100を超える最高速を発揮するホンダ CBR1100XXスーパーブラックバードとスズキ GSX1300Rハヤブサが登場し、300km/hに達すメガスポーツの激しい性能競争が勃発していました。
ZX-12Rも300km/h以上を発揮できるように設計され、最高出力は輸出車 マレーシア仕様で181PS、ラムエア作動時は190PSを実現。
2000年モデルには350km/hまで表示されるメーターを装備し、当時世界最速とされたハヤブサに対抗しました。
もちろんラムエア技術や高速走行時のスタビリティ性能を向上させるエアロダイナミクスは、カワサキ社内の航空部門を招集し、開発されています。
フロントカウルと別に装着されたエアダクトからエアボックスへ強制的に空気を送り込むことで、ラムエア作動が通常時よりさらなるパワーを発揮する仕組み。
さらに、弾丸のようなミラーやサイドカウルに装着されたウィングは、航空部門のエンジニアにより生み出されました。
現代MotoGPマシンで採用されているブリスターカウルは、19年前のZX-12Rで既に採用されていたのです。
生産6年間に変更内容
年 | 車体型式 |
---|---|
2000 | ZX1200-A1 |
2001 | ZX1200-A2 |
2002 | ZX1200-B1 |
2003 | ZX1200-B2 |
2004 | ZX1200-B3 |
2005 | ZX1200-B4 |
2006 | ZX1200-B6F |
ZX-12Rは、発売当初の2000年モデルでは350km/hスケールのスピードメーターが装着されていましたが、2001年はヨーロッパにおける最高速自主規制により上限表示を300km/hに変更。
その後2002年に発売されたZX1200-B1ではマイナーチェンジが施され、140箇所以上のパーツを改良。
低〜中速時のトルクアップを実現し、フロントタイヤフェンダー、ライト、ミラーなどの形状に意匠変更を施し、エアダクトはフロントカウルと一体化されたデザインとなりました。
なお、2002年以降のモデルは後期型と呼ばれますが、この後も改良が施されていたので、一部では中期型とも呼ばれています。
そして2004年 ZX1200-B3以降には、フロントフォークとブレーキにZX-10Rと同じものが搭載され、ブレーキキャリパーは6ポットアキシャル式からラジアルマウント式の4ポットに変更されて高い剛性と制動力を発揮しました。
ZX-12Rはライダーを熱くさせるベテラン向けバイク
ハヤブサとZX-12Rは、世界最速を目指したモデルなのですが、キャラクターはかなり異なります。
ハヤブサは最高速を目指しつつ、空気抵抗を低減させるためのエアロダイナミクスには個性的なルックスを採用し、ユーザーからの賛否両論を受けます。
それでもワイディングでのしっとりしたハンドリングや、SSバイクより比較的高めのハンドル位置による前傾姿勢から上半身を起こしたライディングポジションなどから、唯一無二の存在感が最終的に消費者から支持されるようになりました。
一方、ZX-12Rは量産バイクで初めてバッグボーン型モノコックフレームを採用。
これは通常のツインスパーフレームより車幅を抑える事によりタンクをシート下に配置でき、エンジン設計の自由度が増すことが大きなメリットでした。
ハヤブサに比べてハンドルポジションが手前にあり、ホイールベースはZZR1100、ハヤブサ、ブラックバードより40mm以上も短く、これに幅200mmの極太リアタイヤを装着していたので、ポジションはSSバイクのようにタイトで、コーナーリングでも積極的に荷重移動しながらアクセルを開けていくようなライディングによりスムーズに曲がるようにセッティングされています。
エンジンは、パワーを稼ぐためにシリンダーをビッグボア・ショートストローク化。
低回転域でのパワーはスカスカですが、高回転域で強力なパワーを発揮していました。
そんな高回転型エンジンにタイトなポジションとシビアなハンドリングというキャラクターは、見事にSSバイクに匹敵し、高速クルーザーという面ではハヤブサと全く異なっています。
そのため、ハヤブサはビギナーからベテランまで乗れてしまうユーザーフレンドリーなモデルでしたが、ZX-12Rはベテラン向きで”ZX-12Rを手なずけてやる!”と挑戦的なスピリッツをもったライダーからはウケるバイクでした。
スペック
ZX-12R 前期型(2000~2001) | ZX-12R 後期型(2002~2006) | ||
---|---|---|---|
全長×全幅×全高(mm) | 2,080×725×1,185 | 2,085×740×1,200 | |
ホイールベース(mm) | 1,440 | 1,450 | |
シート高(mm) | 810 | 820 | |
乾燥重量(kg) | 207 | 207 | |
エンジン種類 | 水冷4ストローク並列4気筒DOHC16バルブ | 水冷4ストローク並列4気筒DOHC16バルブ | |
総排気量 | 1,199 | 1,199 | |
ボア×ストローク(mm) | 83.0×55.4 | 83.0×55.4 | |
圧縮比 | 12.2:1 | 12.2:1 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 131[178]/10,500 | 131[178]/9,500 | |
最大トルク(N・m[kg・m]/rpm) | 133.4[13.6]/7,500 | 133.4[13.6]/7,500 | |
トランスミッション | 6速リターン | 6速リターン | |
タイヤサイズ | 前 | 120/70ZR17 | 120/70ZR17 |
後 | 200/50ZR17 | 200/50ZR17 |
まとめ
ZX-12Rが生産されている間、ZX-12Rよりも乗りやすいツアラーモデルZZR1200が登場し、メガスポーツは2モデルをラインナップ。
しかし、これも人気ではハヤブサより劣り、2006年にZX-12RとZZR1200が生産を終了します。
そして同時にZZR1400が登場し、遂にハヤブサと同等の性能と人気を得ることを実現。
ZZR1400に採用されたモノコックフレームはZX-12Rのものをベースに開発されていて、エアロダイナミクス効果を向上させるためにH2Rに装着されたカナードもZX-12Rが発祥です。
乗りにくいと言われながらも、カワサキ車の技術発展に大きく貢献してきたのはZX-12Rで、その貢献により後世で世界最速の座を奪還させることができました。
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