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スーパー耐久シリーズ、世界ツーリングカー選手権(WTCC)など数多くのハコ車レースへの参戦経験を持つレーシング
ドライバー谷口行規選手。そして『フルバンク女子』として、バイクレースファンからアグレッシブルなライディングが人気のレーシングライダー小椋華恋選手。2輪・4輪のレース界で活躍する2人のレーサーに、
谷口選手が経営する4輪シミュレータートレーニング施設『東京バーチャルサーキット』で、モータースポーツを盛り上げる施策について語っていただきました。

Photo by TEIJI KURIHARA
ロードレースを全盛期の様に盛り上げたいという小椋華恋選手

レーシングライダー小椋華恋選手 / Photo by TEIJI KURIHARA
2018MFJカップJP250選手権 第4戦筑波ラウンドで『ナショナルクラス初優勝』を果たすなど、人気・実力とも急上昇中の女性ライダー小椋華恋選手。
彼女の夢は全日本ロードレース選手権が全盛期の様に再び盛り上がり、ヨーロッパのサーキットのように観客席が満員になる事だそう。
そんな彼女にまずは、現在のロードレースを盛り上げる為の施策について聞いてみました。

ハイレベルなトップ争いが行なわれているMFJカップJP250クラス / Photo by TEIJI KURIHARA
Q.ロードレースを盛り上げるには、具体的にどのような施策があると思いますか?
全日本ロードレース選手権を盛り上げるための具体的な施策として、例えばYouTubeでのLIVE配信用の中継カメラの数が欠けていると感じています。
MotoGP™️など海外のレースだとキチンとライダーを追っていて、映像もかなり綺麗だったりするので、YouTubeを観てる側もすごく面白いんですよ‼
サーキットの観客席も海外のサーキットの様に、もっとコースに近かったりすればいいと思います。
まずは、そういう所からでも少しずつ改善していければ、お客さんももっとロードレースに親近感が沸いてくるんじゃないでしょうか。
それから、前々から思っていたのは、レースの入場料がちょっと高すぎると思います。
パドックに行くとなると別料金だったり、もう少し気軽に入れる料金設定であって欲しいなって・・・。
2&4レース(2輪と4輪同時開催)とかだと結構お客さんが入っている感じなので、やはり4輪レースのほうが、かなり盛り上がってる様に感じます。
全日本ロードレース選手権でもシリーズを通して、YouTubeを使用したライブ配信を行なっています。
これは現地に行かなくてもリアルタイムでレースを観戦できる事、または配信後にいつでも閲覧が可能でレースを楽しめる事がメリットですが、全日本ロードレース選手権の配信では、使用するカメラの台数などの問題で正直なところ臨場感が足りず、残念ながら映像を楽しむレベルには程遠いのが実情です。
そのためMotoGP™️やアジアロードレース選手権の様に、テレビ中継並にレースの状況が解るLIVE配信を行なうことが、新しいロードレースファンを増やすには不可欠な要因のひとつといえるのではないでしょうか。
サーキットの入場料に対する施策としては、鈴鹿8時間耐久ロードレースで行なわれているヤング割0円キャンペーン(決勝当日の年齢が16歳~22歳の人限定で入場料金+観戦が無料となる。)などが有名ですが、持続的にファンを増やすには年齢に関わらず入場料金を見直すことも、サーキットを訪れる人を増やす施策といえるでしょう‼
S耐ドライバー谷口行規選手が考える4輪レースに対する施策

スーパー耐久シリーズST-Xクラスドライバー谷口行規選手 / Photo by TEJI KURIHARA
それでは同じ日本でも、小椋選手がロードレースより盛り上がりを感じるという4輪レースは一体どうなのでしょうか?
2018シーズン、スーパー耐久シリーズに参戦していた谷口行規選手に話をきいてみました。
2010年世界選手権WTCC岡山ラウンド インディペンデントクラス優勝、2011年WTCCレギュラー参戦など長年に渡ってツーリングカーのステアリングを握り、世界中のサーキットを走り続けてきた谷口行規選手。
2018シーズンもスーパー耐久シリーズST-Xクラスに、ドライバーネーム『YUKE TANIGUCHI』としてエンドレススポーツ GT-Rで参戦し、活躍を見せました。
そんな谷口選手に、4輪レースを盛り上げる施策について聞いてみました。

観客席満員の中でスタートが切られたスーパー耐久シリーズ2018 第3戦 富士SUPER TEC 24時間レース / 出典:https://supertaikyu.com/topics/10248/
Q. 谷口選手が考える4輪レースを盛り上げる為の施策は?
谷口選手:
やっぱり、ちょっとでも映像をメディアに流すということですかね。
現在の、(スーパー耐久レースに対する)YouTube中継にも、結構お金はかかりますが、テレビでの中継が無いと(クルマに興味の無い)普通の人は、何時どこでレースをやっているかを知らないと思います。
そういう意味では、テレビ中継をやっていた時代の方が、断然盛り上がっていた様に感じます。
現在スーパー耐久シリーズは、参加台数が多く盛り上がっているのに、残念ながら(TV中継の)スポンサーが居ないっていうのが実情です。
理由は、CSとかそういうチャンネルでも1年間全部レースを流す予算が、スーパー耐久シリーズでクルマを1台走らせるくらいの凄い金額になってしまうからだと思います。
オートバイレースと同じく全盛期はテレビ中継が行われていたスーパー耐久シリーズですが、現在ではYouTubeによるLIVE配信を行なっています。
そんなスーパー耐久といえば、市販車改造の規定でクラス区分がかなり細かく設定されており、デミオから86、シビックTCR、GT-Rまで数多くの国産メーカーの様々な車種が参戦できるのが特徴です。
その特徴を活かすためには、参戦する各自動車メーカーがスポンサードを行い、レースに興味の無い人も見る可能性の高いテレビ中継を実現することが、新しいモータースポーツファンの獲得につながるのではないでしょうか?
YouTubeによる質の高い配信と併せてテレビ中継を復活することが、モータースポーツ人気を再び盛り上げる解決策のひとつといえるでしょう。
Q. 4輪レースで、主催者側が仕掛ける参加台数を増やす施策などはありますか?
谷口選手:
現在プランパンシリーズ(海外の4輪レース)のGT3クラスなどは、プロドライバーばかりにならない様に、アマチュアドライバーと組まないといけないルールみたいなのものというか・・・
お金を持っている(アマチュア)ドライバーがプロドライバーを連れてきて、ギャラを支払って同じチームでレースに参戦するという、参加台数を増やす為の施策が4輪レースでは行なわれています。
Q.それでは、ロードレースでも鈴鹿8耐の様に耐久形式のレースに数名で参戦する場合、4輪レースと同じくスポンサーを持っているアマチュアライダーとトップライダーの組み合わせで出場することは実現可能でしょうか?
谷口選手:
バイクでも、(ライダーが)交代するレースは結構あるの?
小椋選手:
耐久レースがあります。
谷口選手:
バイクって転倒するもんね。耐久レースだとペースを落としてリスクを減らして走ったりするのかな?
小椋選手:
私は、600ccのバイクで出場したのですが(鈴鹿4時間耐久レース)
大体、ベストタイムの1秒落ちのペースをひたすらキープです。例えば、コーナー立ち上がりの所に誰か他のライダーがいて、アクセルを開けるのが少し遅れたっていうだけで1秒ぐらい変わってきてしまうので、どこかで頑張ってロスした分を補う形で、前後1秒落ちぐらいのペースで走るように心がけて走りました。
谷口選手:
なるほど。バイクの方が危ないイメージがあって、クルマだと下手でも遅いだけで危険度は低いと思います。
それから、バイクだと本当に話にならないくらい(アマチュアは)タイムが遅くなったりしない?
小椋選手:
やはり、始めたばかりのライダーと、全日本選手権に参戦するライダーとを比べると、全く違います。バイクは“ある程度”のペースで!という走り方が出来ないので・・・。
谷口選手:
バイクレースは、アマチュアライダーがスポンサーを連れてきて、プロライダーと一緒に組んで走るという参戦形式は、クルマよりちょっとハードルが高そうですね。
他のスポーツイベントや外国から学べるものは

白煙を上げて大迫力のD1グランプリ・チームユークス/S15シルビア / Photo by TEIJI KURIHARA
次に、株式会社ユークス代表取締役社長というもうひとつの肩書きを持つ谷口選手に、そのビジネスシーンで体験した他のスポーツイベントとの比較を、さらに海外のレース経験も多い両選手に海外レースの良さについて語って頂きました。
Q.谷口選手はゲームソフトメーカーの社長として、プロレス団体を一時所有したり、ドリフト競技のゲームソフトを発売するにあたり、ドリフトチームをサポートしたりと、色々なスポーツ業界に貢献してきましたが、それぞれ興行的色合いの強いスポーツイベントでは、どのような改革が行なわれていましたか?
谷口選手:
ゲームソフトの作成で付き合いがあって、友好的に買収したプロレス団体の会社は、当初は赤字でしたが経営面でいろいろと改善していきました。
買収当初は、プロレス全盛期にゴールデンタイムでテレビ中継をやっていた頃と同じように、(資金的に)無理なやり方をしている方も居たりしたので・・・。
スポーツ興行も時代にあったやり方とは何かを、探していかないといけないと痛感しました。
その後、やっと黒字になった時点で、バンバンTVCM(コマーシャルメッセージ)を打っている会社が、譲って欲しいと言ってきたんです。
CMを打っているって事は、プロレス団体が他にも露出するし、TV番組自体にも押し込めるからその方が絶対に認知度が上がるし、団体の為にも良くなると考えて譲渡しました。
ドリフト競技のチームは、ゲームを造るという前提でスポンサードをしていました。
PlayStationでゲームを出して、その後アーケード(ゲームセンターの機種)も造ったんだけど、当初は選手もちょっと走り屋上がりみたいな雰囲気で・・・(笑)
でも、「みんなでちゃんとやろうよっ‼」みたいな感じでキチンとまとまってやっていったんです。
盛り上がってくると競技に出るためにアメリカに行こうとなって、アメリカの大会に参戦したら人気が凄くて!!
その時に手伝ってもらったプロモーターが、自分のところでやるって言い出して最終的には勢力争いみたいになっていました。
ドリフト競技は、最終的にどちらが勝ったか判断する基準が難しいですが、アメリカは、(競技が)盛り上がればそれでいいやっていうところがあり、とても人気がありました。
Q.海外のレースが盛り上がっている理由はなんだと思いますか?
谷口選手:
タイとかでは、レースを走ったことあるの?
タイは、凄い盛り上がっているでしょ?
小椋選手:
タイはあります。
タイは、凄いですね‼普通にもうテレビ放送がされているので。
谷口選手:
やっぱり、バイクがいっぱい走っている国の方がロードレースに対する雰囲気は良いですよね。
小椋選手:
私が参戦したインドのレースの場合だと、観客席とホームストレートの所で音楽を爆音で流したり大きな画面で映像を流したりしていて、レースがメインなんですけど『別にレースが解らなくても盛り上がれるという環境』を創り出しいていたんです。
確かに、この雰囲気は凄くいいなと感じました。
ライダー目線で言うと、バイクの音だけで凄い格好いいなっていうのがあるんですけど、それだけでは人が集まって来ないところがあるので、サーキット自体を現代の若い子向けの雰囲気にして行ったらいいのではないかと、感じます。

盛り上がりをみせるアジアロードレース選手権 / c Yamaha Motor Co., Ltd.
日本の新車二輪の販売台数は、1982年の年間328万台をピークに減少傾向。
最近では年間40万台を切り、ピーク時の約1/10にまで落ち込んでしまっています。
これに対してアジア諸国の新車販売台数は、2016年の資料によるとインドネシア年間590万台、タイ170万台、フィリピンで115万台と各国が驚くべき数値の年間販売台数を記録。
そして、ライダー人口の増加に伴うアジア諸国のロードレース人気は益々高まることが予測されています。
更に、2019年シーズンから1,000ccクラスの開催が決定しているアジアロードレース選手権。
6月に鈴鹿サーキットで開催される日本ラウンドで、YouTubeでのライブ配信やパドックの雰囲気等、アジアロードレース選手権の『盛り上がり方』を参考にしてみるのも、これからのロードレースを含めたモータースポーツに対する人気復活の施策のひとつとなるのではないでしょうか?
本格的シミュレータートレーニングの有効性

東京バーチャルサーキット・ポルシェSIMタイプシミュレーター / Photo by TEIJI KURIHARA
プライベートでもレーシングカートを楽しむほど、4輪レースも大好きな小椋選手が、東京バーチャルサーキットを訪れたもう一つの目的は、人生初となる4輪シミュレータートレーニングを体験することでした。
そして、JP250最終戦の舞台となった鈴鹿サーキットを、初めての四輪シミュレーターで走行してみると、そのリアルさと臨場感の高さに大はしゃぎ。
そんな小椋選手の無邪気な姿を横目に、施設の支配人である谷口選手に4輪シミュレータートレーニングの有効性について語って頂きました。
谷口選手:
(2011年に)世界ツーリングカー選手権(WTCC)にレギュラー参戦して、1年間世界を転戦したんです。
だけど基本的に走ったことがあるのは岡山だけで、後は全然知らない海外のサーキットでした。
幸い参戦チームのシミュレータートレーニング施設が、シルバーストーンサーキット(イギリス)の中にあったので、レースウィークの始めに5時間ほど走り込んでから実際の開催サーキットに行って走ると、実際のベストタイムとシミュレーターでのタイムがコンマ2~3秒しか変わらなかったんです。
実車でのベストタイムがサーキットを走り出してからだいたい3周目で、それ以降はタイヤ等がタレていくのでシミュレータータイムの方が上まわってしまう点などからも『シミュレータートレーニングの有効性』を実感しました。
日本からもヨーロッパに渡ってレースに出場し、「F1ドライバーになる‼」って頑張っている選手がいっぱい居るけど、いきなり向こうの知らないサーキットに行って簡単に走れるわけがない。
そのために、ここが(シミュレータートレーニング施設)あれば良いんじゃないかと思います。
実体験に基づくシミュレータートレーニング施設の有効性の高さから『東京バーチャルサーキット』を開設した谷口選手。
そんな東京バーチャルサーキットにある4輪シミュレーターは、ポルシェSIMタイプと2008年型レッドブルF1マシンRB4と同じ外観をした、フォーミュラSIMタイプの2種類が設置されています。
タイヤの選択やウイングなども調整可能となっており、よりリアルに忠実な本格的シミュレーターとなっています!!
さらに驚くべき事に、レース用車載コンピューター『MOTEC』とデータの互換性があり、実車のデータを重ね合わせることも可能な本格仕様となっています。
また、世界主要100箇所以上のサーキットを走行可能なので、谷口選手も実際にレースに参戦するにあたり活用されているそうです。

シミュレータートレーニング中のドライバーにアドバイスを行なう砂子塾長 / Photo by TEIJI KURIHARA
同施設ではアドバイザーに、2019年もブランパンワールドチャレンジアジアにBMW TeamStudieからBMWM4GT4で参戦が決定している砂子塾長を迎え入れています。
マンツーマンレッスンも行っているので、シミュレータートレーニングをしながら、的確なアドバイスを受けられる事がこの施設の特徴といえます。
レースで成績が伸び悩んでいるドライバーが、砂子塾長のアドバイスを受けながら東京バーチャルサーキットを1ヶ月走り込んだ結果、優勝を手にした例が実際にあるそう!!
小椋選手も、その有効性の高さやデーターを実車と互換出来る機能などに興味津々で、近い将来『2輪用レーシングシミュレーター』が開発されることを熱望していました。
取材協力:東京バーチャルサーキット⇒http://tokyovirtualcircuit.jp/
まとめ

東京バーチャルサーキット・本格的シミュレーターフォーミューラカーSIMタイプ/ Photo By TEIJI KURIHARA
5月に元号が変わり、新しい時代を迎える2019年。
バブル経済が生んだともいえるモータースポーツ全盛期の感覚を一度アンインストールして、海外のレースやバーチャルの世界から学ぶ事も必要だということを強く感じます。
モータースポーツという文化を絶やさないためにも、現代に合った新しい『モタスポ』文化を我々大人達が構築していく必要があるのではないでしょうか。
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