皆さんは湾岸ミッドナイトという漫画を知っていますか?フルチューンされた日産フェアレディZ(S30Z)を駆る主人公と、ポルシェ911を駆るライバル、そして数々のチューナー、クルマ好きが首都高速道路を舞台に戦う名作です。そんな同作は実写映画化もされており、劇中で実際に使われた車両を取材することが叶いました。今回は、漫画から現実に飛び出してきた湾岸の黒い怪鳥、ブラックバードをご紹介します。

掲載日:2019/10/05

ブラックバードとは

漫画『湾岸ミッドナイト』で、主人公のライバルである『島 達也』が駆るフルチューンの930型ポルシェ911ターボは、他を圧倒する速さと黒い車体から「湾岸の黒い怪鳥”ブラックバード”」と呼ばれています。

誰よりも速く走るために、600馬力以上までスープアップされたマシンは首都高を300km/hという現実離れした速度で走行します。

原作では、途中で964型ポルシェ911に乗り換えますが、今回ご紹介するのは930型ポルシェ911ターボかつ、実際に湾岸を走っていたフルチューンマシンです。

現実に存在するブラックバード

今回取材させていただいたオーナーの菅野さんは、実際に1980年代~’90年代に首都高の湾岸線を走っていた走り屋のひとり。

当時、湾岸を走っていた「ミッドナイト」という走り屋チームの代表が乗っていた930型ポルシェに憧れ、大学の4年間をアルバイトに費やし、22歳の時に930型ポルシェ911ターボを購入しました。

購入当初は、デートやドライブも多かったようですが、あっという間に走りにのめり込み、マシンのチューニングは激化の一途を辿り、漫画のような速度で湾岸線を駆け抜けていたそうです。

そして過激なチューニングが施された今でも、近所のコンビニへ買い物に行くレベルでこのクルマを日常使いしているというのだから驚き。

「いつでもどこへ行くにも、常に一緒に居たい」と語る菅野さんのこの車両への強い愛情は、ひとつの運命的な巡り合わせを手繰り寄せます。

毎晩のように首都高を走っていたころ、漫画『湾岸ミッドナイト』の実写映画が製作されることとなり、製作陣はリアリティを追求するために「撮影に使用する車両は実際に首都高を走っているマシンが良い」と考え、菅野さんの車両に白羽の矢が立ったとのこと。

実は、漫画で島達也が駆るブラックバードのモデルとなった車両は走り屋チーム「ミッドナイト」代表のポルシェだったのです。

奇しくもその車両に憧れて同じ930ターボを購入した菅野さんが、ブラックバードとして車両提供を行うという、数奇とも運命ともいえる出会いが待ち受けていたことは、本人も驚きでした。

そんな運命の車両を手に入れて以来、30年間車検も絶やさず、バージョンアップを続けているそうです。

ド迫力の”湾岸仕様”な外観

まず視線を奪われるのは、ド迫力のAutoGarageTBKのフロントバンパー。
そして、通称:湾岸スポイラーです。

バンパー下部に取り付けられた大きなフォグランプは、夜間の高速走行でも抜群の明るさを誇ります。

ボンネットはカーボンに変えられ、大幅な軽量化を実現。

ポルシェは駆動方式がRRなので、フロントを軽くすると設置感が減りがちとのことですが、やはり軽量化は速く走るために必須のカスタム。

ブラックに塗られてはいますが、ルーフもカーボンになっています。

サイドには、フロントのエアロパーツを製作した際に余った材料で作ったサイドステップを装着。

パイピングが丸見えになってしまうため、それを隠すための装備でもあるそうです。

リアには、ワンオフで製作した巨大なGTウィングが鎮座。

あまりにも強大なダウンフォースを発生するために、ポン付けとはいかず、レーシングカート用のタイロッドを2本装着し、取付部を補強しています。

装着しているホイールは18インチのSSR RWB。

フロント9.5Jという太さにクムホV710を履かせています。

そしてリアは特注で製作した深リムの11.5Jが、車両の迫力を際立たせていました。

300km/hに耐えられる、頑強な補強

内装はいわゆる「ドンガラ」。

取材直前にサーキットを走行する機会があったらしく、助手席も取り外されていました。

バケットシートはedirbをチョイス。

日本人の体型に合わせて製作されたこの製品は、ほかのフルバケよりも自然かつ確かなホールド感で気に入っているそうです。

また、インパネにはAutoMeter製タコメーターが装着されていますが、菅野さん的には「昔ものすごく憧れたトラストのブーストメーターが大好き」とのこと。

そして、車内で最も目を引くのが、ロールケージです。

ドンガラになった車内に張り巡らされ、ピラー溶接まで行う徹底ぶり。

基本設計が古い車両ながら、ハイパワーとコーナーリング時のGに耐えるボディを作るために補強されました。

その剛性と完成度の高さは、後述する動画で実際に菅野さんがサーキットを走っている映像からもよくわかります。

600馬力をたたき出す空冷フラット6

エンジンルームを見て、注目したのは巨大なインタークーラーで、HPI製のこの製品はシリンダー内へ送り込む空気をしっかりと冷却し、ハイパワーを生み出すために厚み80mmはあろうかという巨大なモデルをチョイスしています。

これは、空冷エンジンであり、エンジンルーム内が狭いからこその対策と言えるでしょう。

また、エンジンはノーマルの3.3リッターからRUF BTRキットを使用して、3.4リッターまで排気量アップ。

その他にも、Dougherty RacingのカムシャフトやBorgWarnerのタービン、インジェクターの大容量化など、余すとこなく手を入れられ、実測で600馬力というパワーをたたき出し、まさにフルチューンと言える、やり切った仕様となっています。

撮影日はメモリアルデイ。

取材当日である8月5日は、なんと菅野さんがこの930ターボを納車した日と全く同じ日。

さらに、納車からきっちり30年というメモリアルな日だそうです。

菅野さん曰く、納車時はほぼフルオプションと言えるような快適で豪華な仕様だったそうですが、現在の姿にその面影はありません。

しかしこれは決してネガティブなことではなく、30年間欠かさずこのクルマを愛し続け、その時々のシーンに合わせて最適なカスタム・チューニングを繰り返してきたからこそ。

最近では、富士スピードウェイ、ツインリンクもてぎ、筑波サーキットを中心に走行し、現代のクルマと本気で争える仕様を追い求めてクルマの改良を進めているそう

まとめ

憧れの人がモデルとなった「ブラックバード」に選ばれただけでなく、納車30周年という日が取材日と重なるなど、「何か特別な力を持っている」ような気がして惹きこまれる今回の1台。

そして、ストリートからサーキットへと走るステージが変わり、結婚や就職などで人生のステージを変えながらも、変わらずに愛し続けてきたこのポルシェは、本当に大切にされてきた一台であると言えます。

納車以来、一度も車検を絶やすことなく、コンビニなどのちょっとした買い物にも使う。エアコンが無くなっても、街乗りが不便な仕様になっても変わらず乗り続ける。

アシとしても、本気で走る相棒としても、菅野さんにとっては最高の1台なのでしょう。

これからは、自身が参加している走行会やイベントを通して、クルマの楽しみ方をもっとたくさんの人に伝えていきたいと考えている菅野さん。

サーキットなどで見かけたら、ぜひ声をかけてほしいとのことでした。

他にも、もしかしたらどこかのPAやSAで、ブラックバードと会えるかもしれません。

ブラックバードの走りを動画で見る!!

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