1980年代後半から1990年代初頭にかけてのバブル時代、日本では多くの輸入車が市民権を得て知名度を高めていきましたが、北欧のプレミアムブランドして現在も生き残っているボルボも、同時代に存在感を高めたクルマメーカーのひとつです。中でも、旧DAF系の小型車を除けば初のFF車となる850は日本でも人気モデルとなり、特にステーションワゴンブームに乗ったエステートがよく売れました。

ボルボ850エステートT5R/ Photo by nakhon100

日本に本格導入されたボルボ車では初のFF、セダンとエステートの2種類

ボルボ850セダンGLT /Photo by RL GNZLZ

1992年5月に4ドアセダン、1993年10月には5ドアのエステート(ワゴン)が日本でも正規発売されたボルボ850は、日本国内におけるボルボ車としては初めて本格的に販売されたFF車でした。

それまでボルボのFFの車といえば、日本では少数が正規輸入されたのみであるオランダの旧DAF系小型車の系譜にある400系だけでしたが、850は長らく主力だった240系の後継として登場。直列5気筒エンジンを横置き搭載するという、FF車としては珍しいレイアウトを採用したのが特徴です。

ボルボ850エステート /Phpto by Kieran White

折しも、日本では初代スバル レガシィツーリングワゴンの大ヒットによるステーションワゴンブームが到来しており、他の海外メーカーには850エステートほど価格やサイズが手頃なワゴンが少なかった事などから、輸入ワゴンの代表格として知名度が上がりました。

もともと安全性や実用性に優れた北欧プレミアムブランドとして根強い人気を誇るボルボですが、FF化によるスペース効率の向上や直列5気筒エンジン横置きという物珍しさ、パワフルなターボ設定、さらにはスクエア形状は踏襲しつつも洗練されたデザインなど、日本人の好みにもハマっていたと言えます。

BTCCでも活躍!初年度は異色のエステートで参戦

1994年のBTCCへ参戦したボルボ850エステート /出典:https://www.favcars.com/wallpapers-twr-volvo-850-kombi-btcc-1994-50501.htm

ボルボ850のスポーティイメージを高めたのがBTCC(イギリスツーリングカー選手権)への参戦ですが、その初年度となる1994年はエステートでの参戦だった事は有名です。

その理由は、一説にはセダンの開発が遅れたからとも言われますが、当時のBTCCは規則により、「規定台数以上の市販車へ取り付けられていないリアウイングなど空力パーツは使えない」とされており、長大なルーフでダウンフォースを稼ぎやすいワゴンボディが空力的に有利とされた、という見方が一般的。

ただし、いくら空力に優れるとはいえ重くて大柄なエステートでの参戦には難がったようで、しかもボルボと同じく新規参戦となったアルファロメオがリアウイングつき限定車の発売で規定を満たし、空力面での優位を得た155で圧倒的な強さを誇ったため、1994年のボルボ850は5位入賞が最高位と、あまり振るいませんでした。

1995年以降BTCC参戦マシンはセダンへ変更、1996年のボルボ850T5R /出典:https://www.favcars.com/pictures-twr-volvo-850-t5-r-btcc-1996-154465.htm

翌年から、規則の改正により空力パーツの制約が緩和されると、ボルボはあっさりエステートを見限って850セダンを投入。

6勝を上げ、エースドライバーのリカルド・リデルがドライバーズランキング3位、ボルボもマニュファクチャラーズランキング3位の好成績をあげました。さらに、1996年も似たような成績で終えています。

2012年のプレスコット・スピード・ヒルクライムへ参戦したボルボ850エステートT5 /Photo by Adam Hinett

1997年以降はS40での参戦に切り替えたため、わずか3年で終わった850のBTCCチャレンジでしたが、エステートで参戦した事による話題性や、その後の好成績による存在感のアップを果たし、その後もエステートやセダンによるモータースポーツ参戦事例が見られました。

主要スペックと中古車価格

ボルボ850エステートR /Photo by nakhon100

ボルボ850エステート ターボ 1993年式
全長×全幅×全高(mm):4,710×1,760×1,440
ホイールベース(mm):2,665
車重(kg):1,510
エンジン:B5234 水冷直列5気筒DOHC20バルブ ICターボ
排気量:2,318cc
最高出力:166kw(225ps)/5,280rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgm)/2,000~5,280rpm
10・15モード燃費:-
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:4AT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)デルタリンク

 

(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
セダン:49.8万~300万円・6台
エステート(ワゴン):20~300万円・27台

ボルボの転機となった、忘れがたい名車

1994年のBTCCへ参戦したボルボ850エステート/ Photo by Martin Lee

それまでのボルボは、レースで活躍した240ターボが「フライング・ブリック(空飛ぶレンガ)」と言われていたように、ポテンシャルは高いもののデザインは半ば頑固者扱いのネタに近い野暮ったさがありました。

それゆえ、「渋いけれどもスタイリッシュとまでは言い難い」と思われがちなボルボでしたが、850では基本的に角張ったクルマというデザインアイデンティティは踏襲しつつシャープな印象を持たせたことで、特にエステートは視認性も高い縦長のリアコンビランプがモダンなイメージとなっています。

販売戦略の変更で、ビッグマイナーチェンジを機にS70(セダン)/V70(エステート)と改名したため、850としての販売期間はセダンが5年弱、エステートはわずか3年4ヶ月と短期間に終わっていますが、その割に存在感が大きく、ボルボの日本におけるイメージアップを果たした貢献度は、非常に大きかったと言えるでしょう。

 

Motorzではメールマガジンを配信しています。

編集部の裏話が聞けたり、最新の自動車パーツ情報が入手できるかも!?

配信を希望する方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みください!