初代トヨペット・クラウンRS型が開発されていた当時、乗用車需要の大半はタクシーが占めていました。そこで、かつてタクシー業界で認められない車を作って敬遠された苦い経験もあったトヨタはクラウンと並行してタクシー向けの新型車を企画。関東自動車工業で開発・生産されたのがトヨペット・マスターRR型です。
掲載日:2018/11/13
栄光のクラウンRS型と同時デビュー、タクシー向け新型乗用車マスターRR型
トヨタが1952年1月に開発を始めた新型乗用車は、タクシー業界への聴き取りや市場調査を行い、それまでの堅牢で耐久性重視のトラックシャシーへ乗用車ボディを架装したものから、乗用車専用シャシーを使う本格的乗用車と決まりました。
その上で1953年6月から順次完成した試作車を使い、厳しい耐久テストを行っていましたが、トヨタにはかつて乗用車として高い理想を求めた割に耐久性や実用性に欠け、タクシー業界に受け入れられなかったトヨペットSA型という苦い経験があります。
そこで、従来型乗用車のトヨペット・スーパーRHK型にボディを架装していたボディメーカー、関東自動車工業(現在のトヨタ自動車東日本)でRHK型後継のタクシー向け乗用車を並行して開発する事となり、1953年10月に開発をスタート。
1955年1月8日にトヨタ版本格乗用車はトヨペット・クラウンRS型として、関東自動車工業版タクシー向け乗用車はトヨペット・マスターRR型として、同時にデビューを果たしました。
いわばクラウンRS型の『保険』的な意味合いと、RHK型の生産終了で仕事が無くなる関東自動車工業の救済を兼ねたマスターRR型でしたが、万全のテストを乗り越えて完成度の高いクラウンRS型をタクシー業界はこぞって採用するようになります。
そのため、早々と需要を失ったマスターRR型は1956年11月にわずか1年10ヶ月で生産を終了。
以後は商用ライトバン/ピックアップトラック版マスターラインのみとなり、1959年3月にクラウンベースへ置き換えた2代目マスターライン登場まで生産されました。
なお、マスターRR型があまりに早く生産を終えてしまったので、生産設備投資の回収のためにボディパーツは1.5t積みトラックのトヨペット スタウトRK型にも流用され、1960年7月にモデルチェンジするまで、マスター顔のスタウトが作られています。
単なるクラウンRS型のタクシー向け姉妹車にあらず
マスターRR型は発売時期がクラウンRS型と同時で、エンジンや駆動系などメカニズムにも共通点が多いことから、『初代クラウンのタクシー向け姉妹車』的に考えられることもあります。
しかし前述のようにクラウンRS型は良好な操縦性や快適性を実現した上で、タクシー需要に応えるだけの耐久性を持つ新型車として開発されており、あくまでマスターRR型は保守層向けの保険的な車です。
実際にはトヨタの心配は杞憂だったわけですが、目指すところが異なるマスターRR型は、クラウンRS型とデザイン以外に異なる点も多々ありました。
特に観音開きドアではなく後席も通常の前ヒンジドアだったことや、フロントもダブルウィッシュボーン式コイルスプリング独立懸架ではなく、前作トヨペット スーパーRHK型と同じ固定車軸リーフリジッドサスペンションだった点は大きく異なります。
シャシーもトヨタの挙母工場製乗用車用シャシーとはいえ、クラウンRS型とは異なりスーパーRHK型の改良型で、コラムシフト化によるフロントベンチシートの採用で6人乗車を実現するなど共通点はあったものの、従来型乗用車の延長線上にある車でした。
いわばトヨペット スーパーRHK型とクラウンRS型のパーツを集めた合いの子のような車で、開発開始から5ヶ月で試作車が完成。
11ヶ月で量産を開始するというスピード開発で、マスターラインやスタウトとして長く生産されたことでもわかる通り、決して粗製濫造車ではありません。
主なスペックと中古車相場
トヨタ RR トヨペット・マスター 1955年式
全長×全幅×全高(mm):4,275×1,670×1,550
ホイールベース(mm):2,530
車両重量(kg):1,210
エンジン仕様・型式:R 水冷直列4気筒OHV8バルブ
総排気量(cc):1,453
最高出力:35kw(48ps)/4,000rpm(グロス値)
最大トルク:98N・m(10.0kgm)/2,400rpm(同上)
トランスミッション:コラム3MT
駆動方式:FR
中古車相場:皆無
まとめ
現在では『成功したクラウンの陰で、不要となりひっそりと消えた車』として知られるトヨペット マスターRR型ですが、1955年の平均月産台数はクラウンRS型・マスターRR型合わせて1,000台という目標に対し、実際は617台にとどまります。
そのうちクラウンRS型は229台に過ぎなかったので、当初はやはり懐疑的なユーザーがマスターRR型を選んでいたことがわかり、一応「マスターRR型も作っておいて良かった。」という事になりました。
1956年には両者合わせた平均月産が1,000台を突破し、中でもタクシーとして実用に耐え得る事が広まったクラウンRS型の需要が急増。
同年10月には単独で月産1,000台突破、つまりマスターRR型の需要はほとんど無くなったため、翌月には生産を止めてしまいます。
こうして商用版を残してアッサリ消滅したマスターRR型ですが、後世になってマツダ カスタムキャブやトヨタ コンフォート、日産 クルーの大先輩となる『タクシー専用車の元祖』としても知られるようになりました。
もっとも、1950年代までの乗用車はタクシー向けがほとんどだったので、『戦後国産車草創期最後のタクシー向け乗用車』と言った方がふさわしいかもしれません。
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