可変ギアレシオステアリング(VGS)は、車速やステアリングを切る角度(舵角)によって、ステアリングのギア比(ステアリングレシオ)を変更する機構です。そんなVGSは、2000年7月14日に発売されたホンダ S2000 typeVに世界で初めて搭載され、高速域での安定性と、中低速域でのリニアなハンドリングを両立しました。
掲載日:2019/05/30
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そもそもステアリングレシオとは?
まずは、自動車のステアリングシステムの構造を紹介します。
どうしてハンドルを回すと、自動車はその方向に進むのでしょうか。
ハンドルの回転運動はステアリングシャフトを通じ、フロントサスペンションシステムのいち構成部品である、ステアリングギアボックスに伝えられます。
ステアリングギアボックス内では、ステアリングシャフトのギアと、左右前輪に横方向の動きを与えるタイロッドのギアが噛み合っていて、このギアの働きにより、円形運動が左右にタイロッドを動かす力に変化。
タイロッドの先にはナックルアームなどを経て左右の前輪が装着されており、タイヤの操舵につながるのです。
ちなみに、ステアリングレシオとは、ステアリングシャフトとタイロッドのギア比のことで、つまりはハンドルの回転角と前輪の操舵角の比と同義になります。
可変ギアレシオステアリングの狙い
ステアリングレシオを小さくすると、ハンドリングが軽快になります。
そのため、スポーツカーはステアリングレシオが小さい傾向にあり、スバル BRZは13:1の設定です。
一方、ステアリングレシオを大きくすると、直進走行時(ハンドル中立位)での安定性が増すため、セダンや大型バスはステアリングレシオが大きい傾向にあり、スバル アウトバックは14:1の設定。
その中間となるVGSはハンドル中立位で噛み合うギア比を大きく、ハンドルを左右に回した時に噛み合うギア比を小さく設計することで、直進安定性の高さとハンドリングの軽快さの両立を狙っています。
メーカーの可変ギアレシオステアリング採用状況
VGSが発明されたのは、すでに20年も前のことですが、現在では先述したハンドリングの両立だけでなく、後輪操舵も含めた統合的な車両制御システムへと進化しつつあります。
ホンダ S2000のVGS
可変ギアレシオステアリングを世界で初採用したのが、ホンダ S2000でした。
その機構は車速とハンドルの舵角に合わせてギアレシオを無断階に変化させるものでしたが、S2000生産終了後には他のホンダ車には採用されておらず、2019年5月現在、VGSが採用されているモデルはありません。
トヨタ クラウンのVGRS
トヨタ クラウンの3.5リッター車には、可変ギアレシオステアリング機構であるVGRSが採用されています。
VDIM(アクティブステアリング統合制御付)にVGRSの機能が組み込まれており、EBD付ABS(アンチロックブレーキ)、VSC(横滑り抑制機能)、TRC(タイヤ空転抑制機能)、EPS(電動パワーステアリング)らと協調し、車両が限界領域に踏み込まないように制御しているのです。
BMW 5シリーズのインテグレイテッド・アクティブ・ステアリング
BMWでは、2003年に発表されたE60系5シリーズに、可変ギアレシオステアリングシステムが初搭載されました。
名称はアクティブ ステアリングで、機能は車速に応じて前輪の舵角をコントロールするものです。
2019年5月現在では後輪操舵機能も備えた、インテグレイテッド アクティブ ステアリングへと進化を果たし、低速域では後輪を逆位相にして小回りが効くようにし、高速域では同位相にして直進安定性を高めてくれます。
まとめ
可変ギアレシオステアリングの機能は、少し聞いただけだとパワーステアリングと混同してしまうかもしれません。
パワーステアリングはハンドルを回す力を低減する目的であるのに対し、可変ギアレシオステアリングはあくまでも、ハンドルの操作量を少なくして的確なハンドリングを行う機能です。
開発当初はスポーツカー向けでしたが、現在では車両姿勢の制御目的で高級車に多用されています。
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