すべては、心の底から「欲しい」と思わせるクルマをつくる為に。マツダは自らの生き残りをかけた「魂動デザイン」という新たなコンセプトによって成功をおさめ、世界的にもその評価を一気に高めました。日本の自動車メーカーとしてのプライドを、どう形で表現するのか。マツダの尋常ではない拘り、そしてその先の未来に目指すものとは、一体何なのでしょうか。

 

©MAZDA 

 

逆境が生んだ「魂動」デザイン

 

©MAZDA

 

アテンザ、アクセラ、CXシリーズ、デミオ、そしてロードスター。
これら現行のマツダ車は、「魂動デザイン」という共通のコンセプトによって生み出されています。

リーマンショック以降、マツダはラインナップの絞り込みと、自らのブランドを徹底的に磨き上げ、根強い顧客を生み出すことを目指してきました。

逆に言うとそれこそが、マツダが限られたシェアの中で生き残る道でもあったのです。

そこで彼らが徹底的に取り組んできたのが、世界に通用する優れたデザインの追求でした。

それは、従来の様なファミリーフェイスやデザインの共通化というレベルに留まらず、日本の自動車メーカーとしてのアイデンティティをどう表現するかという高い理想へ向けた道のりだったのです。

 

生命力をカタチに

 

「魂動」が生まれた当初のイメージスケッチ。 これが立体となり、やがてクルマへと形を変えていった。©MAZDA

 

デザインチームは、クルマとは何なのか、マツダはクルマをどう定義するかまで遡って熟考を重ねていきます。

クルマと感情的なつながりを持ちたい。そういうデザインにしたい。

形だけでなく、動物と接するような関係。形に生命感を持たせ、クルマを生き物のように表現したい……

実用性以上にハートに訴えるものがあるかなど、あらゆる芸術の様に、右脳を刺激する存在へとクルマを昇華させようとしたのです。

そこでマツダが求めたものは、温もりや躍動感を表現する「生命力のあるデザイン」でした。

まず彼らはクルマに捉われず、この生命力をカタチにするとどうなるのか、という探求を始めます。

 

魂動デザインは立体彫刻から生まれる。©MAZDA

 

デザイナーとクレイモデラーの膨大なやり取りの中でいくつものインスピレーションが生まれ、やがてそれは手作業で削って作られたオブジェとして、ひとつの形になりました。

クルマのカタチ以前に、直感的なアートをコンセプトにするというプロセスを取る事で、デザイナーはいつでもそのカタチから、ブレないインスピレーションを得る事が出来るのです。

 

SHINARI のコンセプトスケッチ ©MAZDA

 

従来の日本車では考えられない、世界的にも非常にレベルの高い美的追求とともに、「魂動 (Soul of Motion)」と名付けられたそのコンセプトは、文字通り人の手によって磨かれていきました。

 

運命を変えたクルマ・SHINARI

 

SHINARI ©MAZDA

 

マツダが魂動デザインを最初に落とし込んだクルマが、2010年に発表された「SHINARI」と呼ばれるコンセプトカーです。

当初は市販を一切加味しない、マツダの未来を提示するデザインコンセプトとして発表されました。

特徴的なフロントグリルから切り出される鋭いラインはサイドへ力強く伸び、合計3本のキャラクターラインがショルダー部を形作る綿密なデザイン。

コンパクトなキャビンと相まって、アグレッシブな佇まいを全体で表現しています。

結果的に、マツダはこのSHINARIが人々に与えたインパクトと評価を受け、ほとんど別デザインで決まりかけていた新型アテンザを、魂動デザインで作り直すことを決断。

 

ATENZA の市販検討モデル TAKERI ©MAZDA

 

マツダを変えるなら魂動をやらずにどうする!という社内全体に渡る強い意志が、大きな追い風となりました。

魂動の持つ情熱が、組織全体を揺さぶったのです。

その結果、市販化検討モデルTAKERIを経て、
アテンザは新たなマツダのフラッグシップモデルとして市場に送り出されます。

そして、まるで情熱の迸るような、今までにないエモーショナルなデザインは瞬く間に世界中を席巻していきました。

 

魂動デザインの”仕組み”

 

SHINARIのサイドビュー。うねるような3本のショルダーラインはATENZAにも受け継がれた。 ©MAZDA

 

SHINARIによって示された魂動デザインは、どの様に生命力をカタチで表現しているのでしょうか?

人間はクルマを見ている時、無意識に「違う生物としてその形を認識している」と言われています。

魂動はその本能的な感覚を最大限に生かす為、抽象化しつつも「生命体としていかに美しく見せるか」を追求したデザインと言えるのです。

 

ATENZA ©MAZDA

 

たとえばクルマのタイヤは、動物でいうところの足に当たる部分。

魂動デザインではそんな足の踏ん張り感、つまり足の筋肉をその造形で表現しているのです。

アテンザの場合、わかりやすいのがボンネットからフロントフェンダーまで切り込んだキャラクターラインですが、これは方向を変える為の俊敏な「前足」を表現しています。

これを含む計3本のキャラクターラインはそれぞれが交錯しあい、ショルダー回りに有機的な造形が生み出されました。

 

ATENZA ©MAZDA

 

加えて、横から見た時にキャビンを少し後ろに引いた様なバランスを取っており、これがキャラクターラインの造形と合わさることで、駈け出す寸前の肉食動物の様な全身の「溜め」を表現しているのです。

それぞれを個々で見ると「言われて気がつく」造形に過ぎないかもしれません。

しかし、これらが絶妙なバランスで配置されていることで、意識レベルで生命を感じさせる躍動感を表現しているのです。

 

次のマツダを示唆する「VISION COUPE」

 

RX-VISION (2015)& VISION COUPE ©MAZDA

 

途方も無い労力と新しい視点によって練り上げられ、2016年にはマツダ・ロードスターが日本車初のワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー(WCDOTY)」を受賞するなど、世界的にも高い評価を得ることに成功した魂動デザイン。

しかし、彼らは同時に「デザインは常に進化させなければならない」という信念を持ち、次なる方向性を模索しています。

 

VISION COUPE ©MAZDA

 

そして2017年の東京モーターショーでワールドプレミアされたこの「VISION COUPE」は、魂動デザインの新たな展開を示すモデルです。

全体の印象は、キャラクターラインを用いた躍動感あるデザインは影を潜め、クラシカルでシンプルな佇まいに感じられます。

それもそのはずでマツダがこのクルマで表現しているのは、日本的な美意識に基づいた「引き算の美学」なのです。

 

VISION COUPE ©MAZDA

 

日本庭園や盆栽など、日本人の美的感覚の中には「余白を愉しむ」という独特の感性があります。

何もない空間をいかに美しく見せるか、その為にはどういう造形が効果的かという周囲の情景ありきの創作物。

マツダのデザインチームはもともと、こういった日本固有の美意識を世界に向けて表現することを、マツダ・ブランドの理想として掲げてきました。

 

VISION COUPE ©MAZDA

 

そして躍動感あふれるこれまでの魂動デザインを経て、マツダがたどり着いたもの。

それは、本来ならラインを走らせたいような場所に敢えて華美な造形を加えず、そこに映り込む景色をいかに美しく見せるか、いかに空間と調和させるかに拘ったデザインだったのです。

 

VISION COUPE ©MAZDA

 

一見シンプルに見えるサイドビューには、計算し尽くされた微妙かつ大胆な曲線が与えられ、走り去る際には大きく光を取り込み、美しい「光のライン」が生まれます。

敢えて明確な形が与えられていないからこそ、周囲の景色や見る人の感性によって、様々な印象を与える。

VISION COUPEは「Car as Art (クルマをアートに昇華する)」という新たな高みを目指した、マツダ・デザインの第2章を予告する新たなシンボルとなるのです。

 

まとめ

 

VISION COUPE ©MAZDA

 

世界でも国内でもアグレッシブなデザインが流行している中で、マツダがVISION COUPEによって示した「引き算の美学」は異色と言えるかもしれません。

しかし、「日本人の美意識」を追求するというレベルにまで到達したマツダの哲学が世界に認められれば、日本の自動車産業は新たなレベルに到達出来るのではないでしょうか。

ただ「日本で作った」という日本車から、日本人ならではの感性によって作られた、美しい日本のクルマへ。

それこそが本当の意味で世界が求めている、未だ見ぬ新しいプロダクトなのかもしれません。

 

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