ビンテージカーのオーナーにとって、悩みの一つが部品在庫の欠品です。希少になればなるほど部品の調達は困難となり、なかでも幻のクルマとされるトヨタ 2000GTは生産自体がごくわずかだったため、多くの純正部品の在庫が底をついています。しかし、ここにきてTOYOTA GAZOO Racing(TGR)が、2000GT向け補給部品の復刻を開始。TGRはなぜ今、2000GTの補給部品の生産を決めたのでしょうか。

掲載日:2020/09/02

Photo by Toyota UK

GRヘリテージパーツプロジェクトからトヨタ・2000GTの補給部品を復刻

Photo by Ian Muttoo

TOYOTA GAZOO Racing(以下、TRG)は2020年7月6日、トヨタ2000GTの補給部品を復刻し、国内・海外共に、販売を開始することを発表しました。

このプロジェクトは、『思い出の詰まった愛車に乗り続けたい』という顧客の想いに応えるべく、絶版モデルの補給部品の復刻を決めたものです。

2019年5月にはA70/A80スープラ向け部品の復刻・再販売が発表され、2000GTはそれに続くモデルとなります。

トヨタ・2000GTとは

トヨタ2000GTは1967年から1970年まで生産されたスポーツカーで、生産台数は僅か337台と非常に希少なモデルです。

開発はトヨタとヤマハ発動機の共同でおこなわれ、開発プロジェクトリーダーはモータースポーツ部門でトヨタ 7、トヨタ 7ターボの開発リーダーだった河野二郎氏。

デザインはコロナやカリーナを手掛けた工業デザイナー 野崎喩氏が担当し、当時トヨタとヤマハの優秀なエンジニアを集めて開発されました。

クーペボディのみの生産となった2000GTでしたが、映画『007は二度死ぬ』のボンドカーに採用された際はオープンカー仕様車で登場し、世界中に2000GTの名を知らしめます。

モータースポーツにおいては鈴鹿500kmレース、富士24時間レースで優勝し、スピードトライアルへの挑戦では、15,000kmを平均速度206.04km/hで走行し続けて世界記録を樹立するなど、高い耐久性と動力性能を誇った日本のモータースポーツの歴史を語るうえで欠かせないクルマです。

生産された337台のうち、現在走行可能な状態の車両は100台ほどしかないとされており、海外からも人気が高く中古車市場でもめったに出ることはありません。

ビンテージカーオークションでは落札価格1億円がついたほどで、 幻のクルマと言われています。

供給される部品は

ファイナルギヤキット / © TOYOTA MOTOR CORPORATION.

奥:ギヤ、手前:シンクロハブ・スリーブ / © TOYOTA MOTOR CORPORATION.

部品名 現品番 旧品番 価格
ギヤ サブ アッセンブリ, 2ND 33033-62011 33033-62010 ¥217,800
ハブ アッセンブリ, シンクロナイザ, NO.1 33360-77010 33360-62011 ¥149,600
ハブ アッセンブリ, シンクロナイザ, NO.2 33370-62011 33370-77010 ¥149,600
ギヤ, 3RD 33333-62011 33333-77020 ¥112,200
ギヤ サブ アッセンブリ, 3RD 33034-62010 33034-62011 ¥215,600
ハブ アッセンブリ, シンクロナイザ, NO.1 33360-62012 33360-62013 ¥162,800
ハブ アッセンブリ, シンクロナイザ, NO.2 33370-62012 33370-62013 ¥149,600
ギヤ, 1ST 33335-62011 33335-77020 ¥138,600
ワッシャ, 1ST ギヤ スラスト 33348-62010 33348-77010 ¥16,500
フォーク, 1ST & 2ND シフト 33213-62011 33213-77020 ¥46,200

なぜ今2000GT補給部品を再販するのか

Photo by Adam Hinett

ここ数年、旧車に対する注目があつまり、旧車ブームが年々加熱しています。

旧車イベントが開催されれば多くの来場者を集め、オークションが行われれば次々と入札金額がつりあがっていく現状。

数年前まではタダ同然で売られていたモデルが、今では新車以上の価格で取引されることもあります。

その理由は、現在のクルマは電動化や自動運転などで飛躍的に性能が向上してはいるものの、欧州車を意識した洗練されたデザインとなりました。

一方で、旧車のオリジナリティや味のあるデザイン、そしてエンジンフィールなど、今のクルマにはない魅力を持っているのです。

そんな旧車はこれまで、限られた旧車オーナーのみで情報のやり取りが行われてきましたが、インターネットの普及により旧車を簡単に探して購入できるSNSが、旧車の情報交換の場となったことから、旧車を趣味にするためのハードルがより低くなりました。

鈑金や整備機材などの技術の向上にともない、ボロボロだったクルマが新車のように蘇るレストアが可能となり、パワステ、エアコン完備の快適仕様にモディファイできるにまで至っています。

しかし、既存パーツには限りがあるため、メーカーからのパーツ供給が滞ることは死活問題。

旧車価格が高騰するに伴い、貴重なパーツ価格もあがっています。

トヨタ2000GTともなれば、オーナーズクラブ内の情報交換でパーツの確保やリプロパーツ製作の依頼が行われていますが、新品の純正パーツを確保するのは至難の業。

トヨタの歴代スポーツカーの中で偉大な存在であるからこそ、メーカーとしても一台でも多く残したいと考えているはずです。

メーカーがパーツ復刻に本腰を入れだした

ホンダ・ビート / ©Honda Motor Co., Ltd.

旧車ブームが続く中で、メーカーからも旧モデルの部品を再生産・再販売する動きが顕著になってきました。

ホンダはビート用補修部品の再生産・再販売、ニスモはR32/R33/R34型スカイラインGT-Rの純正補修部品を再供給する『NISMOヘリテージ』、マツダはNAロードスターのレストアサービスを提供する『NAロードスターレストアサービス』など、各メーカーが人気の旧モデルの修理を支援しています。

しかし、パーツの復刻生産はサプライヤーに委託され、ほぼ受注生産となるため、メーカーとしてはそこまで利益が見込めず、逆に赤字も考えられるでしょう。

それでも貴重なクルマの文化遺産を絶やさないためや、名車が今なお街中で走っていたり、カーショーで展示され続けば、偉大なスポーツカーを後世に残すことができ、メーカーのイメージアップやブランド力の向上にもつながります。

稼ぎが見込めなくても、名車を残すことがメーカーとして大きな財産となるのです。

まとめ

トヨタ 2000GT / © TOYOTA MOTOR CORPORATION.

今回のニュースは、旧車オーナーにとって朗報です。

トヨタにはスープラや2000GTに限らず、製造廃止となったほかモデルのパーツの復刻にも尽力して欲しいところ。

国産自動車メーカーの技術力は、貴重なクルマの文化遺産を残すためにも重要となっているのです。

 

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