ヨーロピアン・ホットハッチの中でも優れたモデルを多く輩出するフランスのプジョーですが、日本でもGTIが流行った205に続いて登場し、人気の高いモデルが106です。

プジョー106ラリー / Photo by Mark Walker

ヨーロッパではバリエーションの多いプジョーのベーシックモデル、106

プジョー106 XSi(前期) / Photo by peterolthof

量産車メーカーとしては世界最古とも言われるフランスのプジョーですが、戦後にコンパクトカーを作ったのは1965年デビューの204と意外に遅く、ボトムレンジを担う104は1972年に登場しました。

204にせよ104にせよFF(前輪駆動)でしたが、有名なイギリスのBM(ミニ以外では比較的少数派のイシゴニス式で、ミッション/デフの上にエンジンが載る横置き2階建て構造)で、より一般的なエンジンとミッション/デフが横置き直列のジアコーサ式の採用は、1983年登場の205からです。

205は日本でも正規輸入され、VW ゴルフやマツダ ファミリア(5代目BD)と似たルックスの、実用的で走行性能も優れたオシャレなフレンチホットハッチとして人気が高まり、日本でもプジョーの知名度を向上させます。続いて1995年より日本での正規輸入を始めたのが、104の後継車106でした。

プジョー106 1.1 Sport / Photo by Dennis Elzinga

104は正規輸入されなかったため、日本の正規輸入プジョー車では、106が初のエントリーモデルとなりましたが、全長がやや短いほかは205とほぼ同サイズです。

ヨーロッパ仕様では1.0~1.4リッター車や1.4~1.5リッターディーゼル車もラインナップされましたが、日本には初期の1.6リッターSOHCの「XSi」と、それ以降の1.6リッターDOHC16バルブ版「S16」のみで、日本で必須のエアコンを組み込めるのが左ハンドル車だけだった事から、イギリス仕様などには存在した右ハンドル車は正規輸入されていません。

また、正規輸入は3ドアのみだったため、スポーティなホットハッチではあっても、実用車としての印象は薄い車となりましたが、仮に5ドアを輸入しても左ハンドルのみになるため、そこは割り切ったと思われます。

それゆえマニアックな存在だったにも関わらず、シンプルながらクセがなく、日本人好みのデザインだった事もあって人気が上昇。

主にヨーロッパ向けだった競技ベース車や豪華仕様などが並行輸入され、フランス車専門店などで盛んに販売されました。

スパルタンな「テンサンラリー」から安楽な「テンロクラリー16V」までの106ラリー

プジョー106ラリー(テンサンラリー) / Photo by akunamatata(

正規輸入された106は、一般向けの「ちょっとオシャレな左ハンドルのホットハッチ」S16がほとんどでしたが、コアなフランス車ファン、それもスポーツ派から絶大な人気を誇ったのは、競技ベース仕様の「106ラリー」です。

特に話題性が高いのは初期の1.3リッターモデル、通称「テンサンラリー」で、低速トルクはスカスカながら上まで気持ちよく吹け上がり、エアコンはおろかパワステもオプション(よく故障する電動パワステだったらしい)という軽量スパルタンぶりから、高回転域を保っている限り軽快かつ俊敏に走る、典型的な競技ベース軽量ホットハッチでした。

プジョー106ラリー(テンロクラリー16V) / Photo by Kappadue Innovazione

「テンサンラリー」はフランスの国内選手権ラリーで1.3リッター以下のクラスへ出場していた205ラリー後継だったので、キャブレターを電子制御燃料噴射へ変更した程度で、そのまま1.3リッターSOHCエンジンを積んでいます。

しかしマイナーチェンジされた後期型では、衝突安全基準の見直しなどで増加した重量を補うために、1.6リッターSOHCエンジンへ換装。

通称「テンロクラリー」と呼ばれますが、1998年にはさらにDOHC16バルブ仕様となって、通称「テンロクラリー16V」と呼ばれる最終モデルへ進化しました。

ただし、テンロクラリー16Vになると一般向けのS16と同じエンジンで、単にS16の装備簡略版という位置づけ。テンサンラリー時代のスパルタンさは薄れてしまったため、プジョー106 オーナーズクラブでも「テンサンラリー専門クラブ」が別にあったほどです。

ただし、当然ながら1.6リッターSOHCへ換装されたテンロクラリーの段階で、トルクフルで扱いやすい特性になっており、わざわざ競技で1.3リッター以下の小排気量クラスへ出場でもしない限りは安心かつ早く、安楽(何しろパワステが普通にある)というわけで、テンロクラリーやS16でラリーに出場する106はその後も数多くいました。

プジョー106MAXI / 出典:https://www.ewrc-results.com/cars/135-peugeot-106-maxi/

また、オーバーフェンダーでワイドトレッド化するなどたくましい姿になったラリー用F2キットカー「106MAXI(マキシ)」も存在し、ヨーロッパ各国の国内選手権のみならず、WRC(世界ラリー選手権)にも出場しています。

基本的には1.6リッター自然吸気FFスポーツなので、4WDターボのWRカーすら打ち負かしたシトロエン クサラキットカーなど2リッター自然吸気マシンほどの戦闘力はなかったものの、とにかく安いということで、若手プライベーター御用達でした。

おかげで、その種の「安いラリーカーで若手ドライバーを育成しよう」という動きへつながり、FIAスーパー1600カップを経てJWRC(ジュニア世界ラリー選手権)へ発展する元になったとも言われています。

主要スペックと中古車価格

プジョー106ラリー(テンサンラリー) / 出典:https://www.favcars.com/pictures-peugeot-106-rallye-1994-96-323109.htm

プジョー 106 ラリー(通称テンサンラリー) 1994年式
全長×全幅×全高(mm):3,565×1,605×1,360
ホイールベース(mm):2,385
車重(kg):810
エンジン:TU2J 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
排気量:1,294cc
最高出力:74kw(100ps)/7,200rpm
最大トルク:110N・m(11.2kgm)/5,400rpm
燃費:-
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)トレーリングアーム

(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
S16/S16リミテッド:59.9万~102万円・10台
XSi:流通なし
ラリー:流通なし
その他(グリフ):188.9万円・1台

シンプルでも味がある自動車デザインのお手本

プジョー106ラリー / Photo by photobeppus

近頃は国産車に限らず、どこの国で作ったどのような自動車であろうと、巨大なフロントグリルなどボリューム感、抑揚のあるデザインが好まれる傾向にありますが、106は何かが飛び抜けて目立つという部分はなく、一瞬非常に簡素な車に見えます。

しかし、前後の灯火類やバンパーにせよ、リヤの控えめなホイールアーチ形状や、ドアミラーに至るまで「さりげない小物によるアクセント」で十分な存在感を発揮しており、目の前を106が通った時に、どこにでもあるコンパクトカーと見過ごすことは、なかなかできません。

不評を覚悟で無理に右ハンドル仕様を作る事もなく、左ハンドルで製造し、エアコンがつかないから右ハンドルは日本に入れない!という潔さも徹底。2020年代の視点で見ると、むしろ小気味よいとすら思えるほどです。

実用車として街で何気なく止まっていても、ラリーで活発に走っていても見栄えが良く、気持ちよく走れるプジョー106は、今乗っても満足できる1台ではないでしょうか?

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