2代目まではスタイリッシュながら主に女性をターゲットとした軽スペシャリティクーペとして設定されていたスズキ セルボですが、3代目はアルトのスペシャリティ版へと若干変化し、4ナンバーの軽ボンネットバンとなりました。そして『横丁小町セルボ』として宣伝されたものの販売は振るわず660ccにも移行せずに廃止されましたが、おかげでレア車ファンから後に人気となった典型的な1台です。
掲載日:2018/11/06
短命だった『横丁小町』、3代目セルボ
軽自動車が現在のように660ccエンジンを搭載するようになったのは1990年1月の規格改正からですが、後の新規格(1998年10月)で衝突安全基準に大きな変化があったのとは異なり、排気量拡大と排ガス規制強化程度で、大掛かりなボディ設計の変更までは要しませんでした。
それゆえ軽自動車メーカー各社ともに、660cc化のスケジュールとはあまり関係無くモデルチェンジを進め、マイナーチェンジで550ccから660ccエンジンへ変更するような対応が目立ちます。
そして3代目セルボが誕生したのも660cc化を2年後に控えた1988年1月で、クーペルックの初代/2代目とは異なりフロント部分は当時のアルトとほぼ同じでメカニズムも共通。
乗用登録(5ナンバー)モデルは無く、商用登録(4ナンバー)のいわゆる『軽ボンネットバン(軽ボンバン)』のみの設定でしたが、登場翌年の4月には消費税導入と自動車物品税廃止で軽ボンバンの税制メリットが縮小するという、少々チグハグな面もありました。
そのため結局販売は思わしくなかったのか、アルトがマイナーチェンジで660ccエンジンを搭載したのに対し、3代目セルボは550ccエンジンのまま1990年7月で販売終了。
宣伝では人気アイドルの大西 結花をイメージキャラクターに起用し、CMでも人気漫画家 玖保 キリコのキャラクターを起用するなど力を入れたものの、もっとも印象に残ったのは『横丁小町』のキャッチコピーでした。
しかし、短命に終わった上に販売台数が少なく、印象も薄かったのか国産車中古車サイトでの扱いは無きに等しく、レア車・マイナー車関連での紹介も少ないため、レア車ファンでも『横丁小町セルボ』は知る人ぞ知る存在になりかけています。
ロー&ワイドルックスにSOHC12バルブエンジンで活発な走り
デザイン上はフロントこそアルトとあまり変わらないものの、運転席/助手席上部を頂点にリアへ向けなだらかに降りるスポーティなガラスルーフが特徴で、アルトよりロー&ワイドに見えました。
そして、フルトリム化(鉄板むき出し部分が無い)されてカラフルな内装と、アルト・ツインカムやアルトワークスから流用されたパーツなどでスポーティな印象を与えます。
その一方、流用元は数カ月後(1988年9月)にモデルチェンジしてしまったため、旧型部品の有効活用によるコストダウンという印象もありますが、ルーフやボディ後半部やテールゲートのデザインが与える斬新さでカバーして、古さは全く感じさせませんでした。
少々惜しかったのは、SOHC12バルブながら自然吸気シングルキャブレターのみだったエンジンで、SOHCで良いのでターボエンジン、あるいはEPI(電子制御燃料噴射装置)やDOHCエンジンの設定があればという点。
ただしタコメーター上は8,000回転からがレッドゾーンで、1気筒あたり4バルブの恩恵で40馬力というスペック以上によく回りよく走る活発なエンジンではありました。
また、リアウィンドウはあえて後ろまで伸ばさずリアピラーが非常に太い形となっているのもスポーティでしたが、斜め後方視界が良かったとは言えず、『横丁小町』として細い路地裏でバックなどを求められると若干難があります。
なお、特別仕様車『ごきげんパック』には世界初の電動パワステやエアコン、リアピラーにスピーカーを内蔵したオーディオなど女性向けに有利な装備もありました。
全体的に見ると、内装や装備、動力性能は女性向けのシティコミューターなものの、ルックスは男性向けスポーティ路線への未練が見られ、どの用途でも実用に当たっては一歩踏み込んだカスタマイズを要したかもしれません。
主なスペックと中古車相場
スズキ CG71V セルボ CGXL 1988年式
全長×全幅×全高(mm):3,195×1,395×1,330
ホイールベース(mm):2,175
車両重量(kg):590
エンジン仕様・型式:F5B 水冷直列3気筒SOHC12バルブ
総排気量(cc):547
最高出力:29kw(40ps)/7,500rpm
最大トルク:41N・m(4.2gm)/4,500rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FF
中古車相場:39.8万円
まとめ
初代以来、スズキはセルボをどのような車に育てるか、あるいはその位置づけについて相当な迷いがあったようで、3代目セルボはスズキの迷いが極端な形で表面化した1台と言えます。
ただし、あらゆる意味で個性的であり、どのユーザーをターゲットにするか明確化できない印象は裏を返せば『どのユーザーでも馴染んでしまえばソコソコ似合う』車に仕上がっていたので、モデルが廃止されてからちょっとした人気を得る事に。
とはいえ新車販売当時の不振は相当だったのか、今になって3代目セルボについて明らかにしているのは国内個人サイトを除くと非常に乏しく、国内外での資料がほとんど見当たらないほどです。
この『存在の限りない軽さ』がまた、『横丁小町セルボのレア車ファン人気』の源かもしれません。
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