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すっかり高性能で高額なスポーツカーというイメージが定着し、次期型ではついに4WDになるのでは、とまで言われているシビックタイプR。本来は「走りのいい大衆車ベースにこっぱやいエンジンを積み、若者からベテランまで楽しめるボーイズレーサー」だったはずです。最初のシビックタイプRであり、ボーイズレーサー路線の究極にして終着点ともなったEK9が、懐かしく感じられます。

ホンダEK9 シビックタイプR / Photo by Cook24v
「より多くのユーザーへ走る歓びを」タイプR第3弾として登場したEK9シビックR

ホンダEK9 シビックタイプR / Photo by Mark van Seeters
環境適合エンジンCVCCが話題となった初代にも、排ガス規制で短命になるのを承知で、ホットモデル「RS」を設定したシビック。
2代目スーパーシビックでは、入門者から楽しめるワンメイクレースをはじめ、3代目ワンダーシビックではS800以来のDOHCの復活となる、ホンダ初のDOHC16バルブエンジン「ZC」を搭載したSiでライバルに差をつけます。
そして4代目グランドシビックでは、リッター100馬力に達する160馬力の、1.6リッターDOHC VTECエンジン「B16A」で多くの人を驚かせることに成功。
5代目スポーツシビックでは、B16Aを170馬力へ出力向上するとともに、4輪ダブルウィッシュボーン独立懸架サスペンションの見直しにより走行性能を引き上げ、ライバルへ決定的な差をつけます。
そして1995年には、6代目ミラクルシビックへとモデルチェンジしました。
そこまでのシビックは、「基本は3ドアハッチバック/4ドアセダンの大衆車、買い物用の安いアシ車から、かっ飛ばしたいスポーツ派には若者からベテランまで誰でも受け入れる手頃な高性能車」というポジションで、やや大きく重くなったミラクルシビックでも、それは変わりません。

EK9シビックタイプのB16Bエンジン / Photo by Jose moreno
だからこそ1997年8月、ホンダはNSX(1992年)、インテグラ(1995年)に続く「タイプR第3弾」にEK9シビックタイプRを選び、「より多くの方に、走る歓びを存分に味わってもらいたい」という熱い想いを込めました。
ボディやブレーキを強化し、サスペンションをハードチューニングするのみならず、ヒール&トゥがしやすいようにブレーキペダルの剛性感や踏み込んだ場合のアクセルとの段差、さらにはアクセルペダルへ寄せるなど、ペダル配置にすらこだわるレーシング・スピリッツ!
もちろんエンジンは並のB16Aではなく、ピストン形状変更に圧縮比アップ、フリクションロス低減で15馬力引き上げた「B16B」とされ、最高出力185馬力は1.6リッターDOHCターボの、いすゞJT191S ジェミニ イルムシャーRの4XE1-T(180馬力)すら超え、自然吸気エンジンながら当時のテンロク(1.6リッター)スポーツエンジン最強でした。
それでデビュー当時の車両本体価格は、エアコンやパワーウィンドウなどの快適装備をオプションにして、簡略化していたとはいえ、税別199万8,000円と200万円を切り、レースベース車なら通常版のSiRより安い、税別169万8,000円と激安だったのです。
物価が違うので単純比較はできないとはいえ、レースベース車なら現在のN-ONE RSより安い!と言えば、当時はすごい時代だったとわかるのではないでしょうか?(ちなみに物価が違うと言っても、1997年と現在の大卒初任給は1万6千円ほどしか上がっていませんが…)
レースでもジムカでもダートラでもラリーでも、テンロク最強無双!

サーキット走行会「DIREZZA CHALLENGE 2020」を走るEK9シビックタイプR / 出典:https://mos.dunlop.co.jp/direzza-challenge
EK9シビックタイプRはデビューするや大人気となり、本格的に投入された1998年からは全日本ジムカーナ、全日本ダートトライアルともにEK9が全戦優勝をさらうようになり、シーズンが進むごとにそれまでの主力、EK4シビック「SiR」を駆逐していきました。
その初期には「サーキット走行はともかく、タイトコーナーが続くジムカーナでは曲がりにくい」と、フロントのスタビライザーを細くしたり、サスペンションやLSDのセッティングが悩ましい部分はあったものの、ノウハウが定着するようになると、よほどEK4へ愛着や馴染みがあり、安心して踏めるというドライバー以外はEK9へと乗り換えはじめます。

EK9シビックタイプRはダートトライアルでも活躍した / 出典:https://mos.dunlop.co.jp/archives/dirttrial/race-data/report_dirttrial_7_20100919.html
ダートトライアルでも、パワーに加えてボディ剛性のアップが効いたのか大活躍し、パルサーやミラージュが幅を効かせていた全日本ラリー2輪駆動部門でも、登場から早々に上位争いへ食い込むなど、およそFFテンロクスポーツが参戦するような場で、EK9を見ないことはなくなりました。

あらゆるステージで活躍するEK9はもちろんラリーでも / 出典:https://www.jrca.gr.jp/event/2007_rd3_result.html
2代目スーパーシビック以降も続いていたシビックワンメイクレースにも、EK9はもちろん参戦。
EK4からの移行が進んでいき、スーパー耐久でも日産 パルサーVZ-R N1と激しい戦いを繰り広げ、草レースやサーキットトライアル、サーキット走行会でも、そしてストリートであっても、EK9は本当に「どこにでもいる最速」でした。
さすがに格上のインテグラタイプRなどが出てくると厳しいとはいえ、他のテンロクスポーツでEK9に勝とうと思えば、それなりのチューンに相当な腕前が求められます。

ノーマルでも楽しめるジムカーナでEK9を楽しんだドライバーも多かったのでは? / 出典:http://jaf-sports.jp/topics/detail_000095.htm
しかし、EK9シビックタイプRの真骨頂は、当時ちょっと流行りかけていた「ジムカーナのノーマル車クラス」だったかもしれません。
何しろフルバケや4点式シートベルトなどの安全装備やステアリングなどを除けば、ほぼノーマルでの参戦しか許されなかったため、「その車がドノーマルでいかに速いか」という素性がまず問われ、その上で腕試しとなりますが、そこに速くて安いEK9はバッチリとハマり、同門の初代インテグラタイプR(DC2/DB8)ともども、ライバル車をほぼ駆逐する勢いでした。
その後、初代シビックタイプRやインテグラタイプRのような「ノーマルでも十分楽しめて安い車」が絶版になると、ジムカーナのノーマル車クラスも廃れていき、規則改正などでジムカーナそのものでEK9が活躍しにくい状況にはなりましたが、2021年現在でも他のカテゴリー同様、まだまだ多数のEK9が走り続けています。
主要スペックと中古車価格

ホンダEK9 シビックタイプR / 出典:https://www.favcars.com/photos-honda-civic-type-r-ek9-1997-2000-256408.htm
ホンダ EK9 シビック タイプR 1997年式
全長×全幅×全高(mm):4,180×1,695×1,360
ホイールベース(mm):2,620
車重(kg):1,090(パワーステアリング+エアコン+ABS+SRSエアバッグ装着車)
エンジン:B16B 水冷直列4気筒DOHC VTEC16バルブ
排気量:1,595cc
最高出力:136kw(185ps)/8,200rpm
最大トルク:160N・m(16.3kgm)/7,500rpm
10・15モード燃費:13.6km/L
乗車定員:4人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ダブルウィッシュボーン(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
130万~798万円・59台
今こそEK9、カムバァーック!

ホンダEK9 シビックタイプR / Photo by Ben Lv
EK9以後、ホンダはインテグラもシビックも、タイプRは2リッターへ、そしてシビックタイプRへ集約後、現在は2リッターターボでFF世界最速を争うようになりましたが、高性能とはいえ、あまりに高価で、おいそれと手の届かない「世界のシビックタイプR」になってしまいました。
その間、フィットRSやハイブリッドのCR-Zなどの1.5リッタースポーツは登場したものの、タイプRを名乗るモデルが1台もないように、どちらかというと「シビックSiR」的なポジションに留まった上に、現行の4代目フィットではスポーツモデルが廃止され、復活するかどうかわかりません。
その結果、軽スポーツにS660とN-ONE RSという、2台の頼もしい64馬力ターボ+6MT車はあるものの、320馬力を誇る究極のFFスポーツ、現行シビックタイプRとの間を埋める「手頃でこっぱやいボーイズレーサー」が不在になっています。
おまけにEK9の中古車価格の高騰はすさまじく、程度の良いものは現行FK8の新車価格すら上回るプレミアがついてしまいました。
このままではスポーツ走行を愛するホンダ党の行き場がなくなってしまう状況な上に、2030年代になると最低でもマイルドハイブリッドなどの電動化された車ばかりになってしまうため、今のうちにホンダらしい「EK9の志を継ぐ、多くのユーザーへ走る歓びを教えてくれる車」を1台でも、と願うばかりです。
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