「このスポーツカーを、ホンダは何よりも愛している。」数ある車種の1台としてではなく、あらゆるタイプRやNSX、あるいはF1すら上回る溺愛ぶり。ホンダ公式HPから拾い上げた情報の全てが、そう物語っています。本田技研創立から50年を祝って復活し、それから20年以上経った今もなお、専用のパーツカタログページが用意されるFRスポーツ”S”最強のマシン、ホンダS2000とは、いったいどんなクルマなのでしょうか。

ホンダS2000 Photo by Jacob Frey 4A

ホンダイズムにあふれた人々の”祈り”、それがS2000かもしれない

ホンダS2000 Photo by Craig Howell

1948年、それまでの本田技術研究所を発展的に解消し、新たに「本田技研」として創立されたホンダ。

まずは二輪でその名を轟かせ、四輪車への参入を表明するや、その市販第一号が発売されるのと、ほぼ同時に世界最高峰のレース「F1」へ参戦します。

S500に始まるFRスポーツ”S”シリーズと、軽トラックの”T”シリーズで始まったホンダが、その後の自動車史へどのような影響を与えてきたか、クルマ好きであれば説明の必要はないでしょう。

そんなホンダ(本田技研)が設立50周年となる1998年の発売を目指し、1970年に生産を終えたS800で”Sを封印”して以来となるFRスポーツカーの開発を始めた際に、携わった関係者の熱意たるや相当なものでした。

何しろあまりの熱意に、最初に作ったものでは納得がいかず、「開発中にモデルチェンジした」と言われるほどの進化を遂げ、プロトタイプでヨーロッパ中を走り回るのが楽しすぎて、「50周年記念で1998年に発売する予定が、間に合わない!」という珍事すら起こしたほどです。

フロントへ縦置きされた初のDOHC VTEC「F20C」 / 出典:https://www.honda.co.jp/sportscar/vtec_history/F20C/

当時のホンダはバブル時代のRVブームに出遅れたかと思えば、1990年代半ばに発売した一連のミニバンやSUVなどの「クリエイティブ・ムーバー」で一気に巻き返した一方で、第2期ホンダF1からの撤退により、NSXや各種タイプRがあっても「スポーツを忘れたミニバン屋」などと、陰口を叩かれていました。

そこへ”Sの封印”を解いた新たなFRオープンスポーツ、それも単なるオープンカーではなく、ハイXボーンフレームでクローズドボディ並の性能と安全性を両立したボディに、超高回転高出力と21世紀初頭に求められた環境性能を両立した、究極のDOHC VTECエンジン「F20C」を搭載した「唯一無二のリアルオープンスポーツ」です。

ホンダアクセスからはS2000発売20周年を記念し、2019年に新たな純正アフターパーツが1年間限定でリリースされた / 出典:https://www.honda.co.jp/ACCESS/s2000-20th/

正直、「そこまで痛快で高性能なスポーツカーを、オープンカーとして作る必要があるのか?」という、冷めた見方をする事もできます。

許容回転数9,000、最大トルク発生回転数7,500のエンジンのクロスレシオを6速MTで操るなど、風を感じつつノンビリ流すオープンカーには、とても向きません。

実際に北米市場からの強い要望で、途中からよりマイルドな2.2リッターのF22Cへ載せ替えられもしました(AP2型)。

しかしS2000を発売したホンダと、開発や生産に携わった関係者、そして特にピーキーなF20Cを好むユーザーにとっては、「だって”S”だもの、オープンだって走りも極めたスポーツじゃなきゃホンダらしくないよ!」と、一笑に付される問題だったようです。

ただのオープンカーでもスポーツカーでもないリアルオープンスポーツ「S2000」は、ホンダ自身と関係者、そしてユーザーにとって単なるホンダ車ラインナップの1台ではなく、「ホンダはこうあってほしいという祈り」そのものなのでした。

オープンカーのハンディは一切なし!どこでも高い戦闘力を誇るS2000

スーパー耐久レースST-4クラスで戦った「SPOON S2000」 / 出典:http://www.advan.com/japanese/motor_sports/09/stai/07/ph_07.html

「唯一無二のリアルオープンスポーツ」を称するだけあって、オープンカーにありがちな補強による重量増加、それによる性能低下を補うためのパワーアップ、それに耐えるための補強と重量増加、性能低下、燃費低下…という「悪魔のスパイラル」から無縁なS2000は、あらゆるステージでその高性能を遺憾なく発揮してみませました。

GTカーレースに比べれば市販車に近いスーパー耐久シリーズでは、クローズドボディのスポーツクーペを相手に幾度となく勝利を重ね、サーキット走行では並の2リッター級スポーツでは、相当に骨が折れる相手となります。

サーキットやジムカーナのイメージが濃いS2000だが、グラベルだって走る(JAF九州ダートトライアル選手権2020第1戦RWDクラス優勝の橋本英樹選手) / 出典:http://jaf-sports.jp/topics/detail_000344.htm

全日本ジムカーナでは、名手 山野 哲也選手により、改造範囲の広いA車両でも、その後の改造範囲が成約されたN車両でも、3度にわたりタイトルをもたらされ、MR2(SW20)やNSX、RX-7(FD3S)、ポルシェ911カレラ(964型)といった、ハイパワーなライバルに一歩もヒケをとりません。

エンジンにせよサスペンションにせよ、限界領域で非常にピーキーな特性は、ドライバーが一瞬たりとも気を抜けば容易にスピンするかと思えば、セッティングが決まらないとサイドターンも容易ではないジャジャ馬で、安定して乗りこなすには、相当な腕と度胸が必要ですが、それを満たしたドライバーの期待に応えるマシンでもありました。

ジムカーナでもダートトライアルでもラリーでも、出場できるステージさえあればS2000はどこでも走り、結果を出してきたのです。

オープンカーでありながらリアルスポーツ、そんなS2000にはサーキットがよく似合う / Photo by Grant.C

確かに見た目は2シーターオープンスポーツですが、S2000はスポーツカーというより、「並列複座でFRのフォーミュラカー」と考えた方がよいのでは?と思うほど、純粋で研ぎ澄まされた刃物のよう。

CMでは晴れた大空の下を爽快に流すシーンも紹介され、実際に暖かい陽気に包まれた日にはそういうS2000も見かけますが、サーキットなどのモータースポーツシーンでは空気を切り裂き、路面へ貼り付くように走り、時には派手にスピンしてみせる、そんな光景がよく似合いました。

主要スペックと中古車価格

画像4a ホンダAP1 S2000 / 出典:https://www.honda.co.jp/news/1999/4990415.htm

ホンダ AP1 S2000 1999年式
全長×全幅×全高(mm):4,135×1,750×1,285
ホイールベース(mm):2,400
車重(kg):1,240
エンジン:F20C 水冷直列4気筒DOHC VTEC16バルブ
排気量:1,997cc
最高出力:184kw(250ps)/8,300rpm
最大トルク:218N・m(22.2kgm)/7,500rpm
10・15モード燃費:12.0km/L
乗車定員:2人
駆動方式:FR
ミッション:6MT
サスペンション形式:(F・R)ダブルウィッシュボーン

ホンダAP2 S2000タイプS / 出典:https://www.honda.co.jp/news/2007/4071022-s2000.html

ホンダ AP2 S2000 タイプS 2007年式
全長×全幅×全高(mm):4,135×1,750×1,285
ホイールベース(mm):2,400
車重(kg):1,260
エンジン:F22C 水冷直列4気筒DOHC VTEC16バルブ
排気量:2,156cc
最高出力:178kw(242ps)/7,800rpm
最大トルク:221N・m(22.5kgm)/6,500~7,500rpm
10・15モード燃費:11.0km/L
乗車定員:2人
駆動方式:FR
ミッション:6MT
サスペンション形式:(F・R)ダブルウィッシュボーン

(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
(AP1)199.8万~550万円・88台
(AP2)245万~766万円・48台

ただ1台、専用パーツカタログページを持つ「ホンダが溺愛する車」

ホンダAP1 S2000 / 出典:https://www.favcars.com/images-honda-s2000-ap1-1999-2003-257338.htm

2009年に生産を終えてから10年以上、1999年に発売されてからは20年以上がたつホンダAP1/AP2型S2000ですが、2019年には発売20周年を記念し、ホンダアクセスからエアロバンパーなどの新たな純正パーツが、1年間の期間限定で発売されました。

さらには、今やホンダ四輪車では唯一となる、「S2000だけの専用パーツカタログページ」(https://www.honda.co.jp/S2000parts/)が公開されるなど、スーパーカーのNSXや、リアルスポーツの各種タイプR軍団、そしてホンダ車の中でもユーザーからの愛着が別格レベルなビートすら差し置く、異例の特別扱いを受けています。

ホンダ車に特化したプロショップなどではなく、ホンダ自身でここまで対応しているのは、二輪車ならともかく四輪車ではS2000くらいなもので、S2000に関わる情報をホンダ公式HP内で探せば、開発スタッフのみならず生産スタッフの情熱的なコメントを見ることができるほどです。

S2000に対するホンダ自身の溺愛ぶりは生産終了前後にも見られましたが、それから年月がたっても衰えるどころか愛情は深まるばかりなようで、「ホンダらしさとは何かを知りたければ、S2000を知れ!」と言わんばかりの待遇。

ある意味では独善的であり、ユーザーに対してすら挑戦的とも言えますが、しかしそれこそが「ホンダイズム」というべきかもしれません。