1990年代半ば、ミニバンやSUVのヒットで苦境から盛り返したホンダですが、フィットが成功するまでの間、大型化したシビックに代わる次世代コンパクトカーの開発に苦労していた時期がありました。2代目シティの後継車として1996年に発売されたロゴも、時代が早すぎた斬新なコンセプトに対し、デザインやパッケージングで苦労した1台です。

ホンダ ロゴ 5ドア(初期型) /出典:https://www.favcars.com/honda-logo-5-door-ga3-1996-2001-pictures-254616.htm

初代シティへの回帰を狙った新世代トールボーイコンパクト、「ロゴ」

ホンダ ロゴ 3ドア(初期型)/ 出典:https://www.honda.co.jp/news/1996/4961003.html

ホンダのコンパクトカーは1970年代に大成功を収めた初代シビック、そしてそのシビックが2代目で大型化したのに対応し、1981年当時としては異例なほどのハイルーフとファニールックで世間を驚かせた初代シティによって、ユーザーから一定の支持を受けていました。

しかし、1986年にモデルチェンジした2代目シティは、初代のコンセプトを全否定したような低い車高と四隅に配置されたタイヤでグッと身構えたクラウンチングスタイルで登場。よく回るエンジンと軽量低重心な車体によって、モータースポーツでは伝説的存在になるものの、本来の大衆向け小型実用車としては芳しくない結果に終わります。

シティはその後も海外の新興国向け低価格車として、モデルチェンジしつつ存続しますが、日本国内向けを含む主力コンパクトカーは全くの新型車が開発されました。

今度は基本グレードのFF車が全高1,490mmと、ハイルーフ車を除く初代シティを超えるトールボーイスタイルにホイールベースこそ2代目シティよりやや短いものの、全長・全幅は拡大され、5ドア車も設定可能としたキャビンに徹底した実用性追求型エンジンが搭載された初代シティの再来とも言えるモデルとなります。

そして、その新型車は「ロゴ」と名付けられ、1996年10月に発売されました。

ホンダ ロゴ 5ドア(初期型) 出典:https://www.honda.co.jp/news/1996/4961003.html

しかし、実用面では確かに見るべきところの多い車でしたが、よく言っても凡庸な、厳しく言えば明らかに安っぽい内外装デザインはユーザーの関心を引きにくく、さらに「ハーフスロットル高性能」と宣伝されたエンジン特性は、「アクセルを踏んだだけ車は速く走るもの」と考えていた当時のユーザーに、ほとんど理解されませんでした。

その後、二度にわたるフェイスリフトや、当初のコンセプトと反する「よく回るエンジン」搭載車を追加するも効果はなく、販売面ではかなり苦戦したロゴでしたが、ソコソコの支持を受けた派生車としてトールワゴンのキャパやSUVのHR-Vのベースになった事や、反省を生かして初代フィットを生む原動力となったという面では、評価されています。

コンセプトを理解すれば快適だった「ハーフスロットル高性能」と小さなボディ

ホンダ ロゴ 5ドアTS(中期型) /出典:https://www.honda.co.jp/news/1998/4981112.html

ロゴで特徴的だったのは、「クラスレス感のあるシンプルなデザイン」と、「ハーフスロットル高性能」の2点です。

全体的な印象こそ、「FF低床ハイルーフミニバンの先駆け」である初代ステップワゴンや、「走るベッド」と言われて話題となったS-MXといった、同時期にデビューしたヒット作と共通点はあったものの、完全グリルレスのフロントマスクには「国産車でこれをやるとウケない」という根強いジンクスがありました。

素っ気ない白物家電的なデザインを望むユーザーは皆無ではないものの、大抵の場合は過剰なほどの装飾、あるいはスピード感や流れるような有機的イメージを伴わないと、なかなか人気に結びつかないのが日本車市場です。

決してデザインばかりが原因ではなかったとはいえ、二度に渡るフェイスリフトでボンネットすら作り直すほどの変更が加えられ、2000年4月以降の後期型では小さいながらも明確に「フロントグリル」のあるデザインにまで変えたにもかかわらず、ついにユーザーの関心を引く事はありませんでした。

その反省が、スピード感とひと目でショートワゴン的な使い勝手が想像できる初代フィットへフィードバックされたのです。

ホンダ ロゴ 5ドアスポルティック(後期型) /出典:https://www.honda.co.jp/news/2000/4000413a.html

もうひとつ、「ハーフスロットル高性能」のキャッチコピーの通り、最大トルクの90%をわずか1,300回転、つまりアイドリングからちょっとアクセルを踏むだけで実用トルクを発揮し、2,500回転で最大トルクを発揮するSOHC8バルブ仕様のD13B型1.3リッターエンジンも特徴的でした。

それまでの自動車用エンジンと言えば、大抵は低回転でのトルクは排気量に比例し、小排気量車はスカスカなのが当たり前でしたが、ロゴのエンジンは「大して踏まずとも走る」、つまり高効率な低燃費エンジンの走りとも言える、先進的なコンセプトだったのでです。

しかし、その代わりに実用域をちょっと超えて回そうとしても高回転域では全然回らず、いくらアクセルを踏んでも一定以上トルクの盛り上がる感覚は、ほとんどありません。

上級グレードに設定されたCVT(ホンダマルチマチック)なら、こんな時にギア比を無段変速させて、オイシイ回転数のまま速度を上げていけますが、5速MTや3速ATで操る限りにおいては「踏んでもサッパリ走らない車」でした。

もっと後の時代なら全車CVTとして、エンジン特性をフルに活かすところですが、当時のCVTはまだどんな車にでも気軽に載せていいほど、安価で信頼性の高いものではありません。

結局、中期型から「普通に踏めば回ってトルクも盛り上がり、91馬力も発揮する」16バルブ仕様のD13B(EKシビックの1.3Lグレード用)を積んだ「TS」グレードを追加するも、なぜかCVTのみの組み合わせで、「MTを駆使して小気味よく走るロゴのスポーツグレード」は、ついに実現せずに終わってしまいます。

まだ初代インテグラタイプR(DC2/DB8)、初代シビックタイプR(EK9)の興奮が残る時期だったため、「ロゴにもタイプRが登場か?」と期待された事もありましたが、ホンダはロゴを徹底して実用車として扱い、TSグレードの追加も、むしろマイナーチェンジによる衝突安全性の向上により、増加した車重を補う目的だったのかもしれません。

主要スペックと中古車価格

ホンダ ロゴ /出典:https://www.favcars.com/honda-logo-3-door-ga3-1996-2001-pictures-253118.htm

ホンダ GA3 ロゴ 3ドアL 1996年式
全長×全幅×全高(mm):3,750×1,645×1,490
ホイールベース(mm):2,360
車重(kg):850
エンジン:D13B 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
排気量:1,343cc
最高出力:49kw(66ps)/5,000rpm
最大トルク:111N・m(11.3kgm)/2,500rpm
10・15モード燃費:18.0km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:CVT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)車軸式

 

(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
40万円・1台

ロゴでの苦労が、フィットやN-BOXを生んだ…かも

ホンダ ロゴ 3ドア(海外仕様) /Photo by Adrian Kot

ロゴという車は、それだけ見ると期待外れで苦労しただけのようにも思えますが、「ハーフスロットル高性能」なエンジンをCVTで統合制御すれば、満足感の高い動力性能と低燃費を両立できる高効率パワーユニットになると予感させるには十分でした。

2000年代以降に主力となる車に対して過渡期、それもバブル崩壊で開発コストが苦しい時期でもあったため、デザインやパッケージングが前時代的、かつパワーユニットの最適化がまだ難しかった事もあり、ユーザーの支持を得るには至りませんでした。

しかし、その苦労をフィットやN-BOXに活かせたという意味では、ホンダにとっては意義深い車です。

筆者も当時何度かロゴに乗りましたが、とにかくパワーユニットの先進性だけは他メーカーと全く次元が異なるものを感じ、デザインがよく、あんまり飛ばさないならこれほどイイ車はないと、積極的に人へススメていたのを覚えています。

 

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