ユーザーからそのラインナップを熱望され、メディアでもその可能性をたびたび論じられながらも、ついに国内販売に至らなかったホンダの4ドアセダン、「アコード」タイプR。しかし若干コンセプトは異なるものの、タイプRに準じた存在として6代目後期と7代目には「アコードユーロR」が存在しました。そんな、モデルチェンジ当初から設定され、2代目のインテRやシビックRと同系統のエンジンを積んだ2代目アコードユーロR、CL7型を紹介します。

ホンダCL7アコードユーロR / 出典:https://www.favcars.com/honda-accord-wtcc-cl-2007-pictures-255158.htm
たびたび浮上するも果たされなかったタイプRに代わる「アコードユーロR」

ホンダCL7アコードユーロR / 出典:https://www.honda.co.jp/auto-archive/accord/4door/euro-r2008/style/grill/
1995年にインテグラへ、1997年にはシビックにも設定された事で、初代NSXのみだった時代から一気に身近となった、「公道を走れるレーシングスペックを持つ車」、ホンダのタイプR。
シビックではレースベース車が200万円を切る価格で販売されていた事もあり、手が届く価格の身近な車も一気に高性能車へ変貌するという意味で、少々便利過ぎる、あるいは安売りしてしまった感もあり、1990年代後半には各自動車関連メディアなどは、「次にどんな車へタイプRが設定されるか」という話題で持ちきりでした。
コンパクトカーのロゴはもちろん、走るベッドの異名を持つトールワゴンのS-MXすら候補と言われ、もちろん4ドアセダンのアコードも有力候補でしたが、結局ホンダがそれらへタイプRの名を授けることはなく、「タイプRはその名を授けるにふさわしい車にのみ与えられる、特別な称号」というイメージの維持に専念します。
日産の「GT-R」や三菱の「エボリューション」ともども、そのモデル以外は格落ちの印象を与えて存在感が薄くなり、肝心の販売台数増加にサッパリ寄与しないどころか不人気の原因にすらなるため、それも当然の話で、1997年にモデルチェンジした6代目アコードも、当初のホットモデルは200馬力のF20Bが積まれ、5速MT仕様の「SiR-T」とされました。

ホンダCL7アコードユーロR / 出典:https://www.favcars.com/wallpapers-honda-accord-euro-r-sedan-cl7-2002-05-255109.htm
ただ、少々事情が異なる海外では、6代目アコードにもプレリュード用のH22Aを搭載する「アコードタイプR」が設定されます。
そして日本へはそのまま導入はされなかったものの、一応はRの名がつく「アコードユーロR」(CL1)が、2000年のマイナーチェンジで追加されました。
その路線は2002年にモデルチェンジされた7代目アコードにも継承され、2代目インテR(DC5)や2代目シビックR(EP3)と同系統のK20Aエンジンを搭載したCL7型、2代目「アコードユーロR」がラインナップされたのです。
スポーツ性を保ちつつジェントルな静粛性と乗り心地が「ユーロR」らしさ

ヨーロッパでは販売されていなかったCL7アコードユーロRだが、WTCC(世界ツーリングカー選手権)へ参戦していた / 出典:http://www.advan.com/japanese/motor_sports/08/wtcc/05/ph_01.html
CL7アコードユーロRへ搭載されたK20Aは最高出力220馬力、最大トルク21.0kgmというスペックこそ2代目インテR用のK20Aと同一ですが、最大トルク発生回転数のみ1,000回転下がった6,000回転となり、6速MTも後のFD2シビックRやFK2シビックRユーロと同じギア比(最終減速比のみ別)の、4~6速ギアがややハイギアードになっています。
一方で、性能一辺倒なタイプR用エンジンへ、二次バランサーを追加するなど振動や騒音の低減策を導入し、通常のアコードよりサスペンションやブッシュ類をややハードにしたり、ヘリカルLSDでコーナリング性能を向上させつつも、後のFD2シビックRのような「4ドアセダンのカタチをしたガチガチのレーシングカー」にはしませんでした。
そもそも同時期のDC5インテRより200kg以上重いボディへ、同程度のスペックを持つエンジンを搭載したため、パワーウェイトレシオを考えれば「タイプRというほどではない動力性能」ですが、実用性とスポーツ性の両立という面ではFD2シビックRより格段に優れており、普段乗りしやすい車と言えます。

2008年のWTCCには日本人ドライバーの谷口行規選手がモンツァや岡山でCL7アコードユーロRを駆り話題となった / Photo by Alessandro Prada
このような性格の車であったため、モータースポーツへの参加、特に改造範囲の少ない競技への参戦はかなり限定的で、全日本ジムカーナや全日本ラリーでは皆無。
全日本ダートトライアルでも2018年にナンバーなし、改造車のSC車両で参戦実績がある程度です。
しかしレースでは国内でスーパー耐久へ「5ZIGENアコード」が参戦していたほか、海外での正規販売がなかったにも関わらず、WTCC(世界ツーリングカー選手権)にもイタリアなどからプライベートチームで参戦。
2008年に岡山国際サーキットで開催された際も、数少ない日本車勢として登場し、人気となりました。
主要スペックと中古車価格

ホンダCL7アコードユーロR / 出典:https://www.favcars.com/wallpapers-honda-accord-euro-r-sedan-cl7-2002-05-28130.htm
ホンダ CL7 アコード ユーロR 2002年式
全長×全幅×全高(mm):4,665×1,760×1,450
ホイールベース(mm):2,670
車重(kg):1,390
エンジン:K20A 水冷直列4気筒DOHC i-VTEC16バルブ
排気量:1,998cc
最高出力:162kw(220ps)/8,000rpm
最大トルク:206N・m(21.0kgm)/6,000rpm
10・15モード燃費:11.8km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:6MT
サスペンション形式:(F・R)ダブルウィッシュボーン
(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
55.9万~319.8万円・71台
名前も違うし赤バッジもないが、「R」には違いない

ホンダCL7アコードユーロR / 出典:https://www.honda.co.jp/auto-archive/accord/4door/euro-r2008/photo-lib/photo04.html
あくまでタイプRではないため、伝統のホンダ赤バッジやチャンピオンシップホワイトのボディカラーへ身を包むこともなかったCL7アコードユーロRですが、初代インテグラタイプRの廃止で行き場を失っていた4ドアスポーツセダンユーザーにとっては、ありがたい存在でした。
確かに後のFD2シビックRほどのスポーツ性はなかったとはいえ、日常的プラスαの領域では十分な性能と、ファミリーカーや長距離巡航用のツアラーとして快適な実用性を高いバランスで両立した上質なFFスポーツセダンというだけでなく、レースの活躍でスポーツイメージも十分です。
「勝利」や「世界一」にこだわる宿命にとらわれた一連のタイプRより、もっと身近で気楽に付き合える「R」としては優秀であり、タイプS的な「スタイル止まり」でもないため、ユーロR路線をこの2代目アコードユーロR(CL7)で終わりにせず、その後も育てていればもっと面白かったかもしれません。