見た目はまさに『ジープ型』、しかし4輪駆動ではなくFRでメカニズム的には小型トラック流を流用したボディに乗用車用エンジンを搭載。スズキ ジムニーやダイハツ タフト登場以前の小型オフローダー風トラックとして、1967年から1974年まで販売されていたのが、いすゞ ユニキャブでした。かなりマニアックな車で、日本のオフローダー史においても知名度の点でかなりレアな部類に入ります。

掲載日:2018/11/12

いすゞ ユニキャブ / 出典:http://www.imcdb.org/vehicle_876363-Isuzu-Unicab-KR85-1972.html

 

行動派の全天候ビークル、いすゞ ユニキャブ

 

いすゞ ユニキャブ / 出典:http://ninjagarage.blogspot.com/2011/12/catalogue-isuzu-unicab.html

 

日本にまだスズキ ジムニーもダイハツ タフトも無く、本格オフローダーと言えばトヨタ ランドクルーザー(40系)、日産 パトロール(60系)、三菱 ジープ、それにこの年発売されたホープスター・ON型4WDくらいしか無かった1967年。

いすゞが同社の小型トラック、ワスプをベースに主力乗用車ベレット用の1.3リッターOHVエンジンを搭載。

マッドタイヤを履かせ、『ジープ型』としか表現しようの無い角ばった武骨なボディを載せて登場させたのが、ユニキャブでした。

コンセプトとしては業務用途よりもレジャー向けのバギー車と考えた方が良い車でしたが、何ぶん1967年といえば高度経済成長期のド真ん中で、トヨタ カローラや日産 サニーが前年に発売されたばかり。

日本のモータリゼーションが爆発的に拡大し、ようやく『1家に1台マイカー』が視野に入った頃で、それもデラックス路線で高価な買い物をするなら豪華装備が無いと、という時代だったのでレジャー用途の車など文字通り10年早い!状況でした。

そのため、似たようなコンセプトの軽レジャー車『バモスホンダ』も1970年に発売して不発だったのと同様、ユニキャブも当時としては市場に受け入れられないまま1974年で販売を終了。

いすゞが1960年代に夢想したレジャー向け多用途車が市場で受け入れられるようになったのは、1970年代も末になった頃から次第に盛り上がった『RV(レクリエーショナル・ビークル)ブーム』以降でした。

 

ワスプをベースにした『本格オフローダー風』小型トラック

 

いすゞ ユニキャブ / 出典:http://ninjagarage.blogspot.com/2011/12/catalogue-isuzu-unicab.html

 

ユニキャブはそのボディ形状、可倒式フロントウィンドウ、金属製ドアを持たずロールバーのみで屋根や側壁はソフトトップという出で立ちから、ジープ型の本格4WD車に見えます。

しかし、実際にはいすゞの小型トラック『ワスプ』用のフレームを短縮してサスペンションも流用。

ジープ型のボディを載せただけのFR車で、4WDの設定はありませんでした。

後に乗用車はSUVやピックアップトラック専業になったので4WD車のイメージがあるいすゞですが、意外にも初の4WD乗用車は1980年のファスター・ロデオで、ユニキャブ当時はまだ乗用車や小型トラック用4WDパワートレーンを持っていませんでした。

(※4WD車自体は戦前からトラックや軍用大型乗用車を作っていました。)

ギアボックスもワスプと共通で特別オフロード向けでは無く、当初1.3リッター(PA80型)、後に1.5リッター(1968年・PA85型)、1.6リッター(1973年・PA68型)と拡大したエンジンもベレットやフローリアンと同様で、低速トルクがあったのが幸いしたくらい。

そのため実際には『全天候、行動派、豪放にして機敏、ユニキャブは荒野を目指す』というキャッチフレーズとは裏腹に、悪路走破性を保証するのは大径タイヤと高めの最低地上高、頑強なフレームしかありませんでした。

もっともユニキャブと同年に登場したホープスター・ON型4WDが日本初の(そしておそらく世界初の)民生用小型オフローダーで、世界的にもシトロエン メアリに4WDのメアリ4×4が登場したのは1979年の事だったので無理もありません。

そのため、もしかするとリゾート向けビーチバギーであるFF車、ミニ・モーク(1964年発売)が販売されていたイギリスやオーストラリアであれば、ユニキャブはもっと成功できたかもしれませんが、いずれにせよ日本ではまだ時期尚早だったのです。

なお、小型小排気量車ながら当初設定された4人乗りのほか、1968年には後席を左右対面式各3人乗りシートとした8人乗りも設定。

可倒式フロントウィンドウは後に保安基準の変更で廃止されています。

 

主なスペックと中古車相場

 

いすゞ ユニキャブ / 出典:http://www.imcdb.org/vehicle_926303-Isuzu-Unicab.html

いすゞ KR86(A) ユニキャブ 4人乗り 1973年式

全長×全幅×全高(mm):3,755×1,500×1,715

ホイールベース(mm):2,100

車両重量(kg):960

エンジン仕様・型式:G161 水冷直列4気筒OHV8バルブ

総排気量(cc):1,584

最高出力:62kw(84ps)/5,200rpm(※グロス値)

最大トルク:122N・m(12.4kgm)/2,600rpm(※同上)

トランスミッション:4MT

駆動方式:FR

中古車相場:皆無

 

まとめ

 

いすゞ ユニキャブ / 出典:http://www.garageofawesome.com.au/isuzu-unicab-04-henchmen/

ちょっとばかり『時代に先駆けすぎた』ユニキャブでしたが、1970年にホープスター・ON型4WDの生産・販売権を受け継いだスズキが軽4WDの初代ジムニーを、1974年にダイハツが1,000ccの4WD車タフトを発売した頃にはもうコンセプト自体が古くなっていました。

世の中が求めたのはあくまで『本物』であり、ジープの形をしているに過ぎないユニキャブは、『ちょっと変わった形をしている車』でしかなくなっていたのです。

また、1970年に登場したバモスホンダやフェローバギィといった『軽RV』ほど奇抜でも無かったため、レア車ファンの中でも格別にマニアックな存在を好む層でも無ければ、忘れられた存在だったのも無理はありません。

ただ、コンセプトカーの『ぶっとび具合』は国産車メーカー屈指、しかも後のビークロスのようにそのまま販売するだけの度胸があるといういすゞの企業カラーを考えると、ユニキャブもまた『何ともいすゞらしい車』の1台だったかもしれません。