車作りはエンジン作り。自社製エンジンを作ったので、載せて売る車も作ったというところから、自動車メーカーになった例もあれば、自社製エンジンを作れず大成しなかった自動車メーカーもあるほどですが、事情によっては他社製エンジンに頼る場合もあります。今回は日本の車でも、海外メーカーから輸入したエンジンを使った、珍しい例をいくつかご紹介しましょう。
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1.BMW製なので当然エンジンもBMWなトヨタ GRスープラ
2019年に約17年ぶりの復活を遂げたトヨタ GRスープラですが、BMWとの協業で3代目BMW Z4と同じプラットフォームとメカニズムを使い、トヨタ独自開発ながら生産はBMWが担当する「輸入車」なのは、よく知られています(実際に生産するのはBMWから委託されたオーストリアのマグナ・シュタイア)。
それゆえ日本車と言えるのかどうかは議論が分かれますが、少なくとも「3代目Z4と同じメカを使い、開発そのものはトヨタが独自に行った」のは事実で、開発段階ではTHS(トヨタ製ハイブリッドシステム)を搭載する噂もありました。
結局、2019年5月の発売から2021年5月現在までは、一貫してBMW製エンジンを搭載していますが(直6ターボがB58、直4ターボがB48)、今後の展開次第ではトヨタ製パワーユニットがZ4ともども追加される可能性は、皆無ではありません(SUPER GTのGT500仕様GRスープラは、規則の関係もあってトヨタ製レーシングエンジンです)。
2.メルセデス・ベンツのエンジンを積んだ、日産V37 スカイラインGT-t
現在は日産の3リッターV6ツインターボエンジンVR30DETTを積むV37スカイラインGTですが、モデルチェンジ後、4ヶ月遅れで登場してから2019年9月に「GT」へバトンタッチするまで販売されていた「GT-t」には、メルセデス・ベンツの274型2リッター直4ターボエンジンが搭載されていました
これは、メルセデス・ベンツが属するドイツのダイムラーグループと、日産が属するルノー日産アライアンス(まだ三菱は加入前)の提携によるもので、一応は先代V36まで搭載されていた2.5リッターV6エンジンVQ25HRの後継とされています。
ただ、VQ25HRは現在でもフーガに搭載されて現役な事や、274型への更新に伴って価格が大幅に上昇(V36の「250GT」が約307.6万円だったのに対し、V37「GT-t」は383.4万円と約67万円もアップ)。さらに4WDの設定もなくなり、騒音や振動面でも不利になるなど、スカイラインと海外版インフィニティQ50にとってはデメリットも多く、性能より政治的要素が強い決定だったのかもしれません。
なお、搭載された274型は、基本的に当時のメルセデス・ベンツC250スポーツやE250と同じもので、7速ATも同じ。
最高出力も同等でしたが、採用に当たってはかなり日産から注文がつけられたようで、効率を重視した本家のリーンバーン(希薄燃焼)仕様から、性能重視のストイキ(理論空燃比)仕様へと変更され、最大トルクの発生回転域も若干下げられ、レスポンスも向上させるなど、意外に手が加えられています。
おかげでGT-tの走りはそれなりにスポーティと評価され、「スカイライン史上初の4気筒GT」としての面目は保った反面、燃費や低速域のレスポンス、静粛性はハイブリッドの350GTに劣る上に価格差がさほどないため、廉価版としてもスポーツグレードとしてもやや半端な印象は否めず、日産製V6エンジンの「GT」復活は大いに歓迎されました。
3.ルノーのクリーンディーゼルを積んだ、日産T31 エクストレイル20GT
一時期、排ガス規制の強化によってヘビーデューティーSUVからも消滅していたディーゼルエンジンが、2008年9月に2代目T31系日産 エクストレイル「20GT」へ搭載されて復活し、「やはりSUVにはディーゼルがなきゃ!」と話題になりました。
この時搭載されたのは、開発はルノーと共同、生産は全てルノーで行われたルノー製2リッター直4クリーンディーゼルターボ「M9R」で、CDやYD、RDなど「D」がつく2文字と排気量を表す数字による日産のディーゼルエンジン型式ではなく、ルノーのエンジン型式がそのまま採用されています。
3.5リッターV6エンジン並の大トルク(36.7kgm)を2,000回転という低回転で発揮するM9Rは、登場当初こそ6速MTのみの組み合わせだったものの、後に6速ATも追加されて一般向けとなり、エクストレイルが2013年11月に3代目T32系へモデルチェンジした後も、2015年5月にハイブリッド車が登場する直前まで、T31系ディーゼル車が継続販売されていました。
4&5.フォード製エンジン採用、同社傘下での再建を象徴したマツダ MPV(2代目)とトリビュート
「海外製エンジンを採用した日本車」のエピソードとして最も有名と思われるのが、2000年から2006年まで販売されていた、マツダのクロスオーバーSUV「トリビュート」と、それより前からフォード製エンジンを搭載していた2代目「MPV」です。
バブル時代に販売網の急速拡大を目論んだマツダの5チャンネル体制がバブルとともに崩壊し、急速に経営が悪化した同社は、1996年にフォード傘下へ入って再建されますが、その過程で経営資源集中のために、マツダ独自のV6エンジン開発を凍結されました。
その頃のマツダは、クロノスシリーズなど5チャンネル体制時の各車や、後にランティスでも高評価を受けた「Kシリーズ」などのV6エンジンに強い自信を持ってはいたものの、経営再建を主導する親会社の意向とあっては仕方ありません。
1999年6月にモデルチェンジしたミニバン、2代目MPVの上級グレードに搭載された2.5リッターV6エンジン「GY-DE」は、フォードの「デュラテック」エンジンのボアダウン版(日本の自動車税に対応し、2,544ccから2,495ccへ縮小)でした。
しかし、この時点では大した問題とされていなかったのですが、2000年11月に発売されたトリビュートが2リッター直4「YF」(フォード「ゼータ」エンジン)および3リッターV6「AJ」(同「デュラテック」の3リッター版。)を搭載すると、直4はともかくV6エンジンが燃費やフィーリング面でかなりの酷評を受けます。
その勢いたるや「何もかもフォードのせいだ!」と言わんばかりでしたが、2代目MPVが2002年4月のマイナーチェンジでGY-DEに代わってAJを積んだ時は、不評もなく単純にパワーアップと評価されたのが不思議です。
おそらくトリビュートの場合、CMでフォーミュラマシンをブッちぎるなど、スポーティさを前面に打ち出しすぎた反動が酷評につながったのか、あるいは終始4速ATのみだったトリビュートに対し2代目MPVはAJ搭載にあたって5速AT化、車重が重いにも関わらずトリビュートよりカタログ燃費がいいなど、扱いの差が目立ったのかもしれません。
なお、後にトリビュートはフォード製2リッター直4エンジンを、マツダ製2.3リッター直4エンジン「L3」へ更新。
2代目MPVもマツダ製「FS」から「L3」へ更新され、このL3がSKYAKTIVシリーズ登場までのマツダの主力エンジンとなり、日本国内市場のマツダ車からは2006年を最後に、マツダ製もフォード製もV6エンジンは消えてしまいました。
6.車もエンジンもオーストラリア生まれ、いすゞ ステーツマン・デ・ビル
このステーツマン・デ・ビルにも、最初に紹介したGRスープラ同様、車自体が日本製ではありませんが、一応は国産車メーカーのブランドで販売された輸入エンジン車という事で紹介します。
1960年代にはトヨタや日産と並ぶ国産車メーカーの「御三家」とされていたいすゞですが、ベレルとベレット、フローリアン、117クーペを作ったところで早くも開発力の限界が露呈し、クラウンエイトやセンチュリー(トヨタ)、プレジデント(日産)といった大型高級セダンを発売するライバルに追従できなくなりました。
苦境を乗り切るべくアメリカのGMと提携したいすゞは、ベレット後継としてオペル カデット(カデットC)をベースに、初代ジェミニを開発させてもらうよう頼み込み、さらに1967年に販売を終了した後は、空白だった高級セダンカテゴリにも、オーストラリアのGMグループメーカー、ホールデンから「ステーツマン・デ・ビル」の輸入を決めます。
そして1973年に発売されたいすゞ版ステーツマン・デ・ビルは、同時期に同じホールデンから姉妹車を輸入しつつ、独自に13Bロータリーエンジンを搭載した「マツダ ロードペーサー」や、三菱ブランドで販売しつつも輸入元ブランドを残した「三菱 クライスラーシリーズ」とは異なり、ホールデン独自の5リッターV8OHVを搭載しながらホールデンの名をつけず、あくまでいすゞ車として販売されていました。
しかし、発売と前後してオイルショックや厳しい排ガス規制が直撃。
わずか2年ほどの短期間しか販売できなかった上に、いすゞの販売網も脆弱だった事から販売台数は非常に少なく、鹿児島の「A-Zスーパーセンターはやと」に2016年8月時点で展示されているのは確認しましたが、現状は定かではありません。
今後は増えるかも?「輸入エンジンを積んだ国産メーカー車」
以上、5例6台を紹介しましたが、他にレーシングカーで自社製エンジンが間に合わなかったため、1968年の日本グランプリでシボレーの5.5リッターV8エンジンを搭載して参戦し、優勝した「日産R381」のような例もあります。
実態は輸入車のGRスープラやステーツマン・デ・ビル、生産こそルノーなものの共同開発のクリーンディーゼルを積んだT31エクストレイルを除けば、メルセデス・ベンツ製エンジンの日産 V37スカイラインGT-t、フォード製エンジンのマツダ MPVおよびトリビュートくらいしか、「国産車に輸入エンジンを本格的に積んだ例」はありません。
やはり自動車メーカーたるもの、スーパーカーならいざ知らず、実用車のエンジンくらいは自社製を積みたいというのが人情なようで、特に燃費や耐久性など実用的な技術力をアピールして世界に自動車を売りまくりたい日本メーカーが、輸入エンジンを積んで国産車を売るというのは、よほどの事情がなければありえないようです。
日産とマツダの例は「メーカー連合や親会社の都合、政治的事情」というかなり特異なケースではありますが、先進技術の開発に多大なコストがかかるようになり、自動車メーカー間で国境を越えた提携やグループ化が進む現在、国産車でも同様のケースは今後増えてくるのかもしれません。