人気のフランス製フルゴネット ワゴン、ルノー カングーが間もなく日本市場でも3代目へとモデルチェンジすると言われていますが、かつて日産でもカングーやその前身、ルノー エクスプレスとよく似たフルゴネット車がありました。それが1992年に発売されたAD MAXバン/ワゴンですが、惜しくも一代限りで終わった和製エクスプレスとして中古車人気が高まっており、復活させて欲しい1台です。
ADバン/ワゴンへ追加された異色の国産フルゴネット
1980年代はじめ、日産はそれまでサニー/パルサー/バイオレット/オースターと、販売会社ごとに別々のモデルを販売していたサニー級(1.3~1.6リッタークラス)のライトバンを統一し、初代「ADバン」として1982年に発売しました。
そして1990年にモデルチェンジした2代目ADバンでは、従来ボディパネルや内装を流用していたサニーから別のデザインとなり、ステーションワゴン版サニーカリフォルニアとはまた別に、乗用車登録のビジネスワゴン仕様「ADワゴン」も発売。最大のライバルであるトヨタ カローラ/スリンターのバン/ワゴンへ対抗します。
その2代目ADバン/ワゴンに、1992年4月に追加された派生車が「AD MAX」バン/ワゴンです。これは、1960年代以降の国産ライトバンでは特装車でこそ存在したものの、カタログモデルとしては非常に珍しく、1991年11月に発売されたスズキ アルトハッスルに次いで2番目となる、キャビン後半をハイルーフ化した「フルゴネット」スタイルでした。
このスタイルはフランス車では古くから存在し、特に1980年代半ばに登場したルノー エクスプレスは日本でもフランス車ファンを中心にちょっとした人気モデルではありましたが、まだ「背の低い車がカッコよく、荷物を載せるなら1BOX車が一番」だった当時の日本では、かなり冒険的な車だったと言えます。
さらに、軽ボンネットバンベースのウォークスルーバンとは違い、フルゴネット車はマトモな後席スペースを確保。
居住性や快適性を犠牲にすることなく広大なラゲッジスペースが確保されており、乗用車と貨物車のいいとこ取りをしたモデルとして、「仕事でも遊びでも、新しいクルマの使い方の創出」が期待されました。
真価を発揮できぬまま1代限りとなった「早すぎた提案」
AD MAXバン/ワゴンは通常のADバン/ワゴンのホイールベースを70mm、全長も95mm(ワゴン同士の比較)延長することで、車体前半部は通常モデルと変わらないものの、後半は後席ドアを持たない代わりに箱型で全高は1,810mm(ワゴン)に達するフルゴネットボディとされました。
そしてバンではもちろん、ワゴンでも後席の背もたれを前に倒せば完全にフラットとなり、寝かすことなく自転車やバイクも積める広大なラゲッジが広がる一方で、運転席/助手席からの前方の眺めは、通常モデルと変わりません。
フルゴネット部分は後席ドアがない代わりに「MAXウィンドウ」と呼ばれるスライド開閉式の大型窓と、後部情報用の小さな窓を設け、デザイン上のアクセントおよび採光性の確保が図られています。
他にも、MAXバンでは仕様によって窓が塞がれていたり、バン/ワゴンともMAXウィンドウではなく大型の矩形窓になっている仕様もありました。
また、フルゴネット部分の後端はバッサリと垂直面になっていて、上開きテールゲートではなく左右観音開きドアを採用。荷物の上げ下ろし中や、レジャー時の屋根にはならないものの、開口部が大きくできる事やギリギリまで荷室を広げられるメリットがあり、何より日本車離れしていてオシャレです。
このような構成は主に使用する運転席/助手席では完全に乗用車感覚で使用できますが、外から見る限りは、いかにも重そうで空気抵抗も大きそうなフルゴネット部分は「外車ならオシャレでも、国産車でわざわざやる意味は薄い。」と思われたのか、かなりの珍車扱いでした。
ライトバンベースなので荷室開口部の最低地上高は低く、荷の上げ下ろしが容易といった面も、「ADバンの派生車でしょ?」と言われてしまうと、オシャレの演出としては台無しです。
そこでAD MAXワゴンにはRV風のオプションパーツも準備されていましたが、ADワゴンがビッグマイナーチェンジでサニーカリフォルニアと統合され、「ウイングロード」として再出発した1996年5月に、ウイングロードへ継承される事なくAD MAXワゴンはあえなく廃止。
AD MAXバンも、1999年にADバンがモデルチェンジした際に廃止されてしまいました。
その頃には1993年にデビューした初代スズキ ワゴンRに始まるトールワゴンブーム全盛期でしたが、AD MAXバン/ワゴンは新車販売時にその恩恵を受け損ねてしまい、ルノー カングーがブームになった最近になって、中古車価格はかなり高値で推移しているものの、市場に出ているタマ数は、そう多くありません。
主要スペックと中古車価格
日産 WFGY10 AD MAXワゴン SLX 1992年式
全長×全幅×全高(mm):4,270×1,680×1,810
ホイールベース(mm):2,470
車重(kg):1,090
エンジン:GA15DS 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,497cc
最高出力:69kw(94ps)/6,000rpm
最大トルク:126N・m(12.8kgm)/3,600rpm
10・15モード燃費:12.2km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)トーションビーム
(中古車相場とタマ数)
※2021年5月現在
AD MAXワゴン:60万~125万円:5台
AD MAXバン:59万~115万円:3台
「和製カングー」として復活が熱望される1台
新車販売時は珍車扱いだったとはいえ、1999年の次期型モデルチェンジで「MAX」が継承されなかった一方で、同年に経営不振の日産を傘下に置いたフランスのルノーが、2002年になってエクスプレス後継の「カングー」を日本で発売したのは興味深いところです。
もっとも、日産ではそれ以前からADワゴン(とサニーカリフォルニア)の後継であるウイングロードに、「MAX」を設定していなかったので、「カングーを売りたかったルノーが日産の次期AD MAXを差し止めた」というのは、ちょっと考えすぎでしょう。
もし日産が初代「ウイングロードMAX」としてAD MAXワゴンを継承し、ADバン/ウイングロードのモデルチェンジでMAXを継続していれば、カングー同様に前席ヘッドスペースが拡大されたユニークな商用ライトバン/乗用ステーションワゴン(あるいはトールワゴン)となり、和製カングーとして人気になれた可能性はあります。
しかし、経営難で車種整理とコストダウンに懸命だった当時の日産に、そこまでの余裕がなかったと言えばそれまでなものの、今からでもADバンなりノートあたりをベースに復活してくれたら面白そうなのにと思う1台です。