在りし日の小型ツーリングカーレースで活躍した名車、その代表的車種といえば日産のB110サニーは欠かせません。長らくこのカテゴリーのレースを引っ張った同車ですが、大きく重くなり過ぎたと敬遠されたB210をはさみ、正統な後継車と見られているのが最後のFR、そして最後のダットサン・サニーである”ラスト・ダット”ことB310サニーでした。
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上昇志向による豪華版からオイルショックを契機に原点回帰
1960年代、日本にモータリゼーションの波が到来し、「一家に1台」車庫に収まる大衆車が続々とデビューするようになると、庶民の上昇志向もあって初期の大衆車(トヨタ コロナや日産 ブルーバード)は急激に大型・高級化の道を歩みます。
それに対抗し、各社ともトヨタ パブリカを筆頭とする700~800ccクラスのエントリーモデルを発売し、それらもまた需要に応じ1,000ccクラスへと移行しようとしていましたが、”ダットサン”ブランドで大衆車を展開していた日産は出遅れた形になっていました。
しかし1966年、ようやくデビューするや同期の初代トヨタ カローラと並び大ヒットとなったのがB10型初代サニー。
そして、正常進化したB110型2代目サニーも引き続きヒットとなり、特に旧態依然としたOHVながら低回転トルクから高回転まで気持ちよく回る名機、A型エンジンもあって、レースでも大活躍します。
B210型3代目サニーは高度経済成長期で豊かになった国民の心をつかむべく、さらに大型化・大排気量化が進むも、大きく重いボディはレースで不評な上に、オイルショックによる景気と販売の減速により、B110の再来と言える軽量簡素化が求められました。
そこで1977年に登場したのがB310型4代目サニーで、華美な装飾を無くした直線的かつ実直なデザインと信頼性あるメカニズムを組み合わせ、時代に即したモデルとなっています。
なお、サニーはこの代まで正式車名がダットサン サニーで、海外でもダットサン210として販売されていましたが、日産首脳部の意向で”ダットサン”ブランドが廃止され(海外では2012年に復活)、次代のB11型以降は正式に日産 サニーとなりました。
それゆえ、B310型サニーを指して”ラスト・ダット”と呼ぶことがあるのです。
名車B110の再来にして、近代化とモデル追加がなされたB310
初代B10型や2代目B110への原点回帰を目指し、ダウンサイジングが図られたようなイメージもあるB310型ですが、実際には豪華大型版サニーエクセレントの廃止(新モデルのスタンザへ移行)のみで、残った基本モデルはむしろB210より大きくなっています。
寸法としてはB110より全長で150mm以上、全幅で約100mm大きくなっており、車重も相応に100kg以上重くなっていました。
しかしデザインはシンプルでB110の近代化版というイメージであり、B210の豪華拡大路線を新型車に譲って、原点であるベーシックカーに立ち戻ろうという意識が見えます。
エンジンもB110時代には既に搭載(エクセレントシリーズ)されていたL14やB210の1.6リッター版L16といったSOHCエンジンが廃止され、旧来の1.2リッターOHV、A12とその拡大版A14という信頼性の高いA型エンジンに統一。
ただし排ガス規制や省燃費時代に対応した上で本来持つ低回転から高回転まで実用性とスポーツ性を両立した姿を維持するため、触媒の追加や電子制御燃料噴射化による希薄燃焼も導入されています。
また、1979年のマイナーチェンジでは段階的に強化される排ガス規制でのパワーダウンに対応して、排気量を100cc拡大(A12→A13、A14→A15)。
デザイン面でもB110を彷彿とさせる丸型2灯ヘッドライトのスクエアなものから、角型2灯ヘッドライトの逆スラントノーズへの変更など、決して「B110の焼き直し」では無いことが強調されていると言えるでしょう。
そして、マイナーチェンジ直前には5ドアステーションワゴンのサニーカリフォルニアが追加され、現在も代を重ねて販売が続いているウイングロードの始祖となりました。
次代のB11型からFF(フロントエンジン・前輪駆動)化されたことにより、最後の後輪駆動サニーだったことも魅力で、モータースポーツのみならずストリートでも長らく現役チューニングカーが存在しています。
B110の後継としてツーリングカーで活躍後、ジムカーナやダートラへ
後輪駆動サニーのモータースポーツにおける花道と言えば、何と言っても小型ツーリングカーによるTSレースです。
トヨタ パブリカスターレット(KP47)と激闘を繰り広げた1970年代は元より、生産終了後もドライバー達による強い要望でホモロゲーションを延長、レース参戦を続けて同カテゴリーの主力車種になっていたのはB110サニーでした。
大きく重くなったのが嫌われたB210の時代も走り続けたB110でしたが、B310登場の頃にはさすがに古くなっており、1980年代以降GCレースの前座として富士スピードウェイで激闘を繰り広げたTSレースの主力はB310へと移り変わります。
そのため現在でもヒストリックレースイベントでは往時の姿をそのまま残すB310のレース車が数多く走っており、特にマイナーチェンジ前のモデルはフロントマスクが似ていることもあり、B310レースをB110とB310の混走と見間違えるケースも。
それだけB110が名車だったということですが、1980年代末まで現役レーシングマシンだったこともあり、実際に実動状態にあって現役に残るドライバーやレースファンの思い出をかき立てるのは、むしろB310かもしれません。
なお、TSレースという舞台を失ってからも、ジムカーナやダートトライアルのC車両(ナンバー無しで公道走行を考慮せず、ある程度改造の許された範囲が広い競技用改造車)として余生を過ごしたB310も少なくありません。
JAF(日本自動車連盟)のデータベースから明確にB310サニーと認識できる競技車が出走したのは、ラリーこそ1980年止まりなものの、全日本ダートトライアルは1991年10月の第7戦、全日本ジムカーナに至っては1994年の第2戦まで出走記録があります。
全日本選手権でこれですから地方選手権以下のイベントではさらに後まで走っていたと考えるべきで、中には2000年代まで走っていたB310もあるのではないでしょうか。
B310サニー、主要スペックと中古車価格
ダットサン(日産) KB310 サニー クーペ1400GX-E 1978年式
全長×全幅×全高(mm):3,995×1,595×1,340
ホイールベース(mm):2,340
車両重量(kg):875
エンジン仕様・型式:水冷直列4気筒OHV8バルブ
総排気量(cc):1,397cc
最高出力:92ps/6,400rpm(グロス値)
最大トルク:11.7kgm/3,600rpm(同上)
トランスミッション:4MT
駆動方式:FR
中古車相場:108万~179万円(サニーカリフォルニア含む)
まとめ
“ラスト・ダット”B310サニーは、P910ブルーバードと並んで最後のダットサン、最後のFR大衆車として旧時代の日産の最後を飾る華麗な1台でした。
その後スポーツモデル、デートカーにはFR車を残しトヨタと違う価値観で根強い人気を得ていく一方で、それ以外の全てFF化された大衆向け小型車の魅力が今ひとつで迷走を始め、最終的には901運動という一発の大花火を残して経営不振にあえいでいきます。
それ以前の、ある意味「打倒トヨタ」と一本筋の通ったわかりやすい車を作っていた時代の日産が作った最後のサニーということで、今見るとむしろ新しく輝いて見えるかもしれません。
オールドカーマニアにとって懐かしい車の中でも比較的新しく、オイルショック時代の産物特有な「使い捨てられた」車も多いので中古車市場で見つけるのが難しい1台ですが、もし購入する機会あれば、やはりTSレースを意識してカッコよく乗りたいものです。
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