昔、各メーカーが多数の車種を抱えていた頃には、「イメージリーダー的な高級・高性能車のイメージを受け継いだ、安価なエントリーモデル」的な車が発売される事もありました。その分野で熱心だったのが日産で、ローレルスピリットと並ぶ「スカイライン ミニ」として3代に渡り販売され、部分的には「確かにスカイライン」だった小型車が、ラングレーです。
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スカイラインジャパンの顔をしたパルサー?、初代ラングレー誕生
1966年にプリンスが日産へ合併されて以降、旧プリンス販売店は「日産プリンス店」として存続。引き続き、グロリアやスカイライン、ホーミーといった旧プリンス車を販売していました。
しかし1970年代以降、他の日産系販売店のように小型車をラインナップしていない事が販売上のネックになりはじめたため、日産チェリー店で販売していた初代パルサーのマイナーチェンジに合わせ、姉妹車として初代ラングレーが、1980年6月に発売されます。
ラングレーを若者向けの小型エントリーモデルと位置づけたプリンス店では、同店を代表するスポーツGT、「スカイライン」のイメージを可能な限り反映した「ミニ スカイライン」とする事を望みました。
そして、動力性能やメカニズム面ではパルサーと変わらぬ1.4リッターエンジンを搭載したものの、スカイラインからそのまま移植したヘッドンプなど、「ジャパン」こと5代目C210型スカイラインにそっくりというより「ジャパンそのままのフロントマスク」を実現。
ホールド性の高そうな赤いスポーツシートや水平指針のメーターなど雰囲気作りを徹底し、当時の大ヒット作だったファミリアと似た、スポーティな3ドアハッチバックボディ版ミニスカイラインとなっていました。
しかし、既に初代N10型パルサーがモデル末期だった事もあり、わずか2年ほどでモデルチェンジした短命車でしたが、「ミニスカイライン、ラングレー」のイメージを固める事に成功しています。
初代ラングレー・主要スペックと中古車価格
日産 N10 ラングレー X-E 1980年式
全長×全幅×全高(mm):3,960×1,620×1,360
ホイールベース(mm):2,395
車重(kg):860
エンジン:A14E 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
排気量:1,397cc
最高出力:68kw(92ps)/6,400rpm(※グロス値)
最大トルク:115N・m(11.7kgm)/3,600rpm(同上)
燃費:-
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)フルトレーリングアーム(中古車相場とタマ数)
※2021年5月現在
流通皆無
2代目のキャッチコピーはケンメリのオマージュ?「ポールとポーラの新ラングレー」
1982年6月にモデルチェンジした2代目では、一応3本線の横基調フロントグリルなど、スカイラインRSとの共通性を持たせたものの、初代ほど「そのまんま」とはいかず、動力性能も当初は1.5リッターSOHC自然吸気エンジンのみだったため、DOHCエンジンやターボチャージャーを得ていたスカイラインの「ミニ版」らしさは薄れます。
しかし広告のキャッチコピーは
“あのスカイラインの血統を受け継いだFF1500、愛のミニ。
「ポールとポーラの新ラングレー誕生」”(カタログより)
と、スカイラインファンに、「愛のスカイライン」(ハコスカ)や「ケンとメリーのスカイライン」(ケンメリ)の広告コピーを思い出させ、とにかくスカイラインのスピリットを受け継ぐ存在であろうという努力は認められました。
その後、先代では3ドアハッチバックのみだったラインナップに5ドアも追加され、姉妹車(パルサーやリベルタ ビラ)とは異なって4ドアセダンが欠けているというマイナスポイントも補われます。
そして動力性能面でも、1983年にはSOHCながらグロス115馬力の1.5リッターターボエンジンが追加され、スカイライン ミニもようやく「名ばかりのGT」を脱したと言えました。
なお、一部のWEBサイトでは3代目でようやく「GT」グレードが設定されたという表記が見られますが、実際には2代目初期の段階で1.5リッター自然吸気エンジンのEGI(電子制御インジェクション)車に、「GT」の名が与えられています。
2代目ラングレー・主要スペックと中古車価格
日産 HN12 ラングレー 3ドアハッチバック GT 1982年式
全長×全幅×全高(mm):3,975×1,620×1,390
ホイールベース(mm):2,415
車重(kg):820
エンジン:E15E 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
排気量:1,487cc
最高出力:70kw(95ps)/6,000rpm(※グロス値)
最大トルク:123N・m(12.5kgm)/3,800rpm(同上)
燃費:-
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)フルトレーリングアーム(中古車相場とタマ数)
※2021年5月現在
流通皆無
最後が一番スカイラインらしい!3代目ラングレー
1986年10月にモデルチェンジした3代目では、前年にモデルチェンジしていた7代目R31型スカイラインがトヨタへ対抗するハイソカー路線で、当初2ドアクーペを設定せず、4ドアセダン/ハードトップのみだった事で、ついにラングレーにも4ドアセダンが設定(代わって5ドア廃止)されます。
そしてセダンがスカイラインGTのデザインアイデンティティに近い4灯丸目テールランプ(ただしドーナツ型発光ではなく全体発光)を採用した事で、「もっともスカイラインらしいラングレー」となりました。
似たようなコンセプトで開発された、サニーをベースにミニローレル化を狙った日産モーター店の「ローレルスピリット」よりも本家との親和性は高く、トップグレードの「GT」にはDOHC16バルブエンジンのCA16DEも搭載されます。
そしてFFながら「いずれスカイラインへステップアップする入門車」あるいは「かつてスカイラインに乗っていた人が高齢になった時の乗りやすさや、家族を持って経済性が重要になった時の経済性を求めた場合のファミリーカー」としての、ミニ スカイラインは、ここに完成を見たと言えるでしょう。
その後も4WDの追加などで進化したラングレーですが、ディーラー再編でチェリー店の合流が進んだプリンス店では、姉妹車のパルサーも取扱車種に加わるようになり、1990年8月にパルサーがモデルチェンジした際に、車種整理されたラングレーはその役目を終え、廃止されました。
唯一残念だった事は、「モデル末期に起きた猟奇的事件の犯人が使用していた車」としてネガティブなイメージがついてしまった事で、それがなければ長きに渡り、ミニスカイラインとしてもっと親しまれていたかもしれません。
3代目ラングレー・主要スペックと中古車価格
日産 BHN13 ラングレー 4ドアセダン タイプX 1988年式
全長×全幅×全高(mm):4,255×1,655×1,380
ホイールベース(mm):2,430
車重(kg):930
エンジン:E15S 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
排気量:1,487cc
最高出力:54kw(73ps)/5,600rpm
最大トルク:116N・m(11.8kgm)/3,200rpm
燃費:-
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:4AT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)パラレルリンク(中古車相場とタマ数)
※2021年5月現在
47万~65.9万円:2台
道半ばで終わったのが惜しまれる「スカイライン・ミニ」
最後はパルサーに統合されて廃止されたラングレーですが、基本的にパルサーの姉妹車でありながら、「どうにかしてスカイラインらしい雰囲気を出そう」というデザイン上の工夫が散りばめられていました。
ド直球に「ジャパン」のフロントマスクを移植したような初代や、丸目テールとなった3代目セダンなどが代表的で、リベルタ ビラ(日産店取り扱い)もパルサーに統合されたため、プリンス店だけの車ではなくなったパルサーは「スカイライン ミニ」であるわけにもいかず、せっかくの個性が失われた事は惜しまれます。
その後、長い年月を経て、一時の「インフィニティ車の日本仕様」から、「日産のテクノロジーを象徴する車」としてかつてのポジションへ復帰しつつある現在のスカイラインに、また小型で安価な「ミニ スカイライン」があれば面白いとも思いますが、もはやそういう小型セダンが日本で売れる時代でも無い為、実現は無理でしょう。
最後に、存在自体は常に地味でスカイラインの陰のようだったラングレーでしたが、3代目のみとはいえタマ数はわずかながらもまだ中古車市場で流通しており、案外愛された車だったのだなと、今回改めて認識させられた次第です。