ミッドシップの軽快性を取り戻す

出典:Grant C

車格ダウンの上で再生したT230系セリカはプラットフォームを同時期のカローラやプリウス、プレミオ / アリオン /カルディナと共用しており、いずれも1.8~2リッタークラスのスポーツDOHCエンジンや、DOHCターボエンジンの搭載も可能となっていました。

実際、セリカやカローラランクス /アレックスは1.8リッタースポーツDOHCエンジンの190馬力である2ZZ-GEを、カルディナGT-FOURは260馬力の3S-GTEを搭載しています。

しかし、ライトウェイトスポーツ路線を徹底させたMR-Sは2000年代のトヨタスポーツの中で唯一、140馬力の実用エンジン、1ZZ-FEを搭載するに留めました。

ミッドシップスポーツとハイパワーエンジンの組み合わせで熟成に苦労したSW20型MR2からの反省から、単純なエンジンパワーよりも優れた出力・重量バランス、そして重量配分によって、ミッドシップならではの軽快なスポーツ性を実現しようとしたのです。

その結果、衝突安全性向上のため重量増加する前のモデルでは最低車重970kgと1tを割り込み、T230型セリカより100kg以上軽いマシンとなりました。

 

十分なパワーと徹底されたバランス

©Motorz

「重量あたりの動力性能」を示すパワーウェイトレシオは約6.93kg/psを確保したMR-S。

スポーツカーの動力性能として、一般的には7kg/psを切るのが最低限と言われているので、その意味でMR-Sは実用エンジンではありますが、十分な動力性能を持っていると言えるのではないでしょうか。

仮に強力なエンジンが搭載されていたとしても、そのパワーに振り回されるようでは、性能を引き出せるドライバーは限られてしまいます。

そういう意味では、より広いユーザー層にアピールできるミッドシップスポーツを目指したトヨタの目的は、車両開発の時点で達成されていたのだと思います。

MR2との違いは他にもあります。小さなリアトランクは廃止され、エンジン後方は可能な限り短縮化されました。そしてその重量でコーナリング時に発生していた慣性を極力減らす事に成功しました。

その代わりとして、フロントシート後方にラゲッジスペースが設けられています。この手法はオートザム AZ-1と同一で、車室とリアタイヤの間にエンジンを配置するリアミッドシップ車としては、重量配分はかなりリア寄りです。

その事によりブレーキング時の前後重量配分が最適化され、軽快なコーナリングと、加速時の十分なトラクションが実現され、過剰なパワーを抑えたことで、初心者でも扱いやすいマシンとなっているのです。

 

国内初のシーケンシャルトランスミッション

出典:http://www.toyota.co.jp/

MR-Sのもうひとつの特徴がミッションでした。

MTには当初の5速、後にセリカなどと同様に6速化されたマニュアルミッションが搭載されていました。ATは通常標準搭載である4速ATなどの多段トルコン式ATではなく、SMT(シーケンシャルミッション)が国産4輪車として初めて純正で搭載されたのです。

オートバイや、チューニングカーでも多かったSMTは、MT同様初期が5速、後に6速化され、シフトレバーの前後操作だけで変速可能、さらにクラッチペダルも無かったのでAT限定免許でも運転できるのです。

トルコン式ATと違い、コンピュータ制御の油圧アクチュエーターでマニュアルミッションの操作を自動化、ダイレクト感の強いSMTにより、MTでのドライブが難しいドライバーでもMR-Sは容易にスポーツ走行が可能でした。

現在はシングルクラッチ式セミATと呼ばれるこのメカニズムによって、スポーツカーを自在に走らせる経験を得たドライバーも多いのでは無いでしょうか。

 

モータースポーツでのMR-S

出典:David Merrett

MR2の後継として、MR-Sもさまざまなジャンルのモータースポーツに投入されてきました。

以下はその一例です。

 

ジムカーナでの活躍

出典:https://www.youtube.com

ジムカーナではSMTを活かし、オートバックスのサポートを受けた車椅子の全日本ジムカーナドライバー、中嶋 努が活躍しました。

2002年から2004年までMR-SのC / SC車両(ナンバー無し改造競技車両)で参戦し、2003年の第8戦(鈴鹿サーキット南コース)では3位表彰台を獲得しています。

他にもMR-Sはパワフルな2ZZ-GEエンジンに換装したものも含め、全日本から地方の小さなジムカーナイベントまで数多くの参加が見られました。

ハイパワーでは無かったもののコントロール性に優れたMR-Sは、ジムカーナの速度域での安定して軽快な走りと、良好なスピン特性が、初心者から上級者まで好まれるマシンだったと言えるでしょう。

 

ラリーでの活躍

出典:http://mos.dunlop.co.jp/

パワフルなマシンでは無い為か、ダートで激しく土砂を巻き上げながら走るMR-Sの姿はあまり見られません

しかし、ターマックラリーを中心に全日本ラリーに参戦する姿を度々見る事ができました。

2007・2008年シーズンに「ミツバ・ラック・MRS」でJN3クラス(セリカやインテグラタイプRなどと同じクラス)で参戦した森 博喜 / 藤綱 和敏 組が2008年には2勝を上げるなど、MR2同様に活躍したのです。

 

GT300での活躍

©︎TOYOTA

現在のスーパーGTの前身であるJGTC(全日本GT選手権)で活躍したSW20型MR2の後継GT300マシンとしても、MR-Sが指名されています。

2000年以降、チューニングパーツメーカーAPEXのレース部門だったaprによって制作されたMR-Sは、スーパーGT時代となってからも2008年まで参戦を続けました。

当初は軽快なライトウェイトスポーツとして開発されたベースマシンとハイパワーなレース用3S-GTEエンジンのマッチングが悪く苦戦したものの、熟成により改善し、2002年(ARTAアペックスMR-S)、遂にGT300チャンピオンを獲得したのです。

前後シャシーをパイプフレーム化した2005年(RECKLESS MR-S)、そしてエンジンを3.5リッターV6NAの2GR-FEに換装した2006年以降、2007年(TOYSTORY apr MR-S)にもチャンピオンになるなど、優れたマシンとして活躍を見せました。

そして2009年以降はカローラアクシオにマシンが変わりましたが、前後パイプフレームシャシーのミッドシップに2GR-FEを搭載してアクシオのカウルを被せた、実質的にはGT300仕様MR-Sの発展型だったのです。

 

MR-Sのカスタマイズカー

出典:http://abflug.jp/

MR-Sはカスタマイズカーとしての素材にも優れており、トヨタのカスタマイズ部門「モデリスタ」(トヨタモデリスタインターナショナル)による2種の限定車などがいくつか作られたほか、ベースとしてはシンプルなMR-Sを魅力的にするボディキットやエアロも販売されていました。

 

代表的カスタマイズカー1:VM180ザガート

出典:https://ja.wikipedia.org

VM180はイタリアのカロッツァリア、ザガートがデザインした100台限定のカスタマイズカーで、直線的に切り落としたような印象があるMR-Sを、流麗なイタリアンオープンカーに仕上げています。

 

代表的カスタマイズカー2:カセルタ

出典:https://www.carsbase.com

こちらもモデリスタの製品ですが、日本の「MODI(モディー)」という、コンセプトカーのデザインや開発を行うカロッツェリアでデザインされた150台限定のカスタマイズカー。

VM180にしろカセルタにしろ、所有していればかなりレアな車ですね。

 

まとめ

2000年代、国産スポーツカーが猛烈に不信を極めた中で、専用プラットフォームに実用性の低いパッケージングながら善戦したと言えるMR-Sでしたが、2007年7月に生産を終了する事となりました。

それから10年近くが経ちますが「比較的新しく手頃な価格のミッドシップスポーツ」として需要は高く、現在でも高年式で程度良好なものには中古車市場で200万円前後の値段が付けられています。

最新のホンダ S660と比べても、動力性能で勝りつつSW20型MR2より扱いやすいという「ちょうどよさ」という点で、MR-Sは今でも第1線で活躍できるスポーツカーと言えるのではないでしょうか。

1999年式 MR-S(ZZW30)のスペック

全長×全幅×全高(mm):3,885×1,695×1,235

ホイールベース(mm):2,450

車両重量(kg):970(後期型は1,010kg)

エンジン型式:1ZZ-FE

エンジン仕様:直列4気筒DOHC16バルブ VVT-i

総排気量(cc):1,794cc

最高出力:140ps/6,400rpm

最大トルク:17.4kgm/4,400rpm

トランスミッション:5MTまたは5SMT(後期型は6MTまたは6SMT)

駆動方式:MR

中古相場価格:179,000~1,990,000 円

 

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