今シーズン、著しい成長を見せている全日本F3選手権の三浦愛。ここまで7戦を終えて3度の入賞。気がつけばポイント圏内にいるのが当たり前というポジションまでやってきました。表彰台獲得の期待も高まる中、第8・9戦の岡山はどうだったのでしょうか?今回も彼女の挑戦を追いかけた。

©︎Tomohiro Yoshita

 

予選前に大きな決断、週末の流れを変えたセッティング変更

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毎回、F3は金曜日にまとまった時間の専有走行があり、そこでセッティングの確認やコースの確認などを行います。前回の富士ラウンドでも接戦の末、6位入賞を獲得。今回の岡山ではすでに1回レース(第1~3戦)を終えており、さらに上位進出も期待されていた。

ところが、専有走行では10番手タイム。ライバルと接近しているとはいえ、ポジション的には開幕時と変わらない。また岡山は抜きどころが少ないため、予選でのポジションはとても重要になってくる。

ポジションを大きく上げるための“コンマ数秒”の改善が必要で、そこで出した結論がシリーズ戦では初の試みとなる“セッティング変更”だった。

ダウンフォースレベルの高い現在のF3マシンは、体力面でも相当な負荷がかかるため、女性ということもあり体力面でそこまでの自信がなかった三浦は、ステアリングが軽くなるようなセッティングをベースに今季は戦っていた。しかし、それがタイム更新につながらない原因にもなっていたのだ。

 

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「5・6番手までとのタイム差は近かったので、そこは何とか上に行きたいなという話はみんなとしていましたが、このままじゃ難しいなという話になりました」

「今までは、体力面の部分もあって、クルマのステアリングが軽くなるようなセッティングにしてありました。それを今回から、みんなと同じようなセッティングに変更しました。ステアリングは重くなるけど、反応とかフィーリングは上がるので、その方向でやってみようということになり、大幅にセッティングを変えて予選に臨みました」

チームもセッティング変更の方向で準備を進めたが、やはり直前になって“本当に大丈夫なのだろうか?”と不安になることもあったという。

 

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周囲の不安を一瞬で払拭させたのは、やはり三浦自身だった。10分しかない第8戦の予選では、自己ベストとなる5番グリッドを獲得。トップとの差は0.391秒、まさに今季ベストとも言える予選内容だった。

続いて行われた第9戦の予選では、路面コンディションの変化にうまく合わせ込めずベストな走りとまではいかなかったが、6番グリッドを確保し、両レースともポイント圏内どころか表彰台も狙える位置につけた。

 

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「やっぱりステアリングが重くて、10分しかないセッション時間の中で自分の感覚をアジャストしていくのは大変でしたが、でもクルマの挙動が素直に伝わってきました」

「全部出し切れた!というアタックではなかったですが、これが明らかに良いというのはわかりました。あとは、このセッティングでどうやってドライビングしていくかという課題が見えました。でも良い意味での課題なので、今日は一歩、二歩前進できたかなと思います」

 

第8戦は、表彰台まであと一歩!自己ベスト4位を獲得!

 

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そのまま午後に行われた第8戦の決勝。1コーナーできっちり5番手を守ると、2番手スタートだったアレックス・パロウがフライングスタートによるドライブスルーペナルティを受け後退。それにより、表彰台目前の4番手に浮上します。

序盤から高星明誠、坪井翔、宮田莉朋が先行する後を追いかけようと、1分23秒台のペースで必死に食らいつも、途中からは5番手につける大津弘樹に追いつかれ、緊迫した4番手争いが勃発。勢いは大津にあるように思われたが、三浦は自分の走りに集中し、大津に隙を与えなかった。

 

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「レース中盤はタイヤが垂れてき始めたところでうまくコントロールできなくて、大津選手が近づいてきました。これ以上近づかれたらスリップストリームを使われてしまうというところまで来ていたので、バックミラーを見ないで前に集中して、いまの自分のベストな走りをしていれば、抜かれるコースじゃないと思っていました」

中盤には1分23秒台中盤のタイムを連発。大津を振り切れたかに思われたが、前方にNクラスの周回遅れが現れ始めると、一気にリズムが狂い始めてしまう。

15周目、ちょうどNクラスの集団の処理に手間取ったところに大津が接近。アトウッドで勝負をかけバックストレートではサイド・バイ・サイドに。三浦もヘアピンのブレーキングまで横に並び続け、意地を見せた。

 

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「徐々にペースが回復して離れたのに、Nクラスに引っかかってしまい、それを抜くのに手こずってしまいました。その間にまた追いつかれて、アトウッドで並ばれかけたので、ブロックラインを通って立ち上がりで並ばれてしまいました」

そして、ヘアピンのブレーキング時に2台が接触。大津が三浦のマシンに乗り上げる形になりスピンし、そのままマシンを降りた。三浦は幸いにもマシンにダメージがなくレースを続行。

アウト側ギリギリのポジションにいたにも関わらず、ブレーキングでさらにアウトに寄ってこられ、行き場を失った三浦。避けようのないアクシデントだった。

その後はペースを取り戻した三浦だったが、Nクラスの周回遅れの処理に手こずり、今度はイェ・ホンリーに迫られる。しかしクリアラップがとれた最終周で再び1分23秒台を記録し、4位でチェッカー。今季ベストリザルトを獲得した。

 

 

激戦の中で、掴み取った4位ではあるものの…三浦には嬉しいという表情はあまりなく、また次に向けての反省点を見つけ出し、それをどう克服するか?を早くも模索していた。

「速く走ることに関しては成長できていっていますが、Nクラスの処理の仕方だったり、バトルだったり。それを上位のレベルで戦えるように、これから経験を積んでいかなきゃいけないですね」

「順調に自分の実力に加えてクルマがついて来てくれてるからいいですけど、これで頭打ちにならないように、流れを崩さないようにしたいです。明日(第9戦)はまず完走して、鈴鹿に向けて流れが狂っちゃうから……」

 

ワンチャンスを生かせず…第9戦は悔しい6位

 

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翌28日(日)に行われた第9戦の決勝レース。6番グリッドについた三浦は珍しくヘルメットのバイザーを下げ、いつも以上に集中した表情を見せていた。

このレースでの、彼女の最初のプランは“スタートで5番手の大津を抜くこと”。これができるか否かで、25周という長丁場のレース展開が大きく変わるからだ。

レッドシグナルが消え、スタートが切られると、好ダッシュをみせた三浦が前で1コーナーへ。しかし続く2コーナーで大津も意地を見せ5番手を死守してみせる。その後も、アトウッドやバックストレートで逆転を試みるが、全て赤いマシンに行く手を封じ込まれ、5番手浮上は叶わなかった。

 

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「スタートで絶対抜かなきゃって気持ちはあって、スタートが決まって、1コーナーは並んでいて、私の方が前だったんですけど、その後のポジションどりとかの処理だなと思ったんですけど、少し油断したというか…もう少しガツガツいってもよかったかなぁという感じでした」

「2~3周はうまくついていけましたが、どうしても気持ちばっかりが先に行っちゃって、小さなミスが重なって終始タイムが安定しなかったです」とレース序盤を振り返る三浦。

 

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スタートで大津を攻略できなかった焦りと、何としても彼を逆転し、その前を追いかけていきたいという気持ちが空回りし、細かなミスを連発。昨日とは打って変わり、9周目になるまで1分23秒台に入れられない苦しいレース展開となってしまった。

「クルマのバランス的には悪くはなかったんですが、自分の小さなミスが重なってペースが安定しなくて、徐々に離れていく展開でした」

「スタートで前に行かれちゃった時点で、プラン通りではなかったですね。自分の方が明らかにペースがよければ、その後チャンスもあったんだろうけど、拮抗しているところでワンチャンスを逃しちゃうとダメですね」

 

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終盤に、ヘアピンでスピンしていた1台をかわすのにタイムロスしてしまい、7番手を走っていた片山義章に迫られてしまうが、何とかポジションを守りきり6位でチェッカー。2戦連続、今シーズン5度目のポイント獲得となった。

しかし、レースを終えた三浦には一切笑顔がなく、スタートでのチャンスをモノにできなかったという悔しさばかりが先行。レース後も険しい表情でピットに帰っていくのが印象的だった。

 

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「やっぱりスタートのワンチャンスをモノにできなかったことが今日(第9戦)の流れを崩してしまいました。あそこで大津選手の前に出ていたら、自分のペースも安定して、今度は高星選手についていけそうなくらいのクルマのポテンシャルはあったので…悔しいですね」

「次に向けて流れは維持できたので、最低限の目標は達成できたかな…という感じ。悪いレースではなかったのですが、“良い部分”を多くしていけるようにしたいです」

 

得意の鈴鹿に向け、大きな大きな手応え

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第8・9戦ともに決勝では課題が残るレースとなってしまったが、同時に今シーズンの中で一番と言っても良い手応えも得られた。それが、冒頭でも説明したセッティング変更だ。

特に長丁場となる第9戦決勝では従来のセッティングに戻すのではないかとも思われていたが、前日までの流れを加味し、新しいセッティングのまま挑戦。終盤、体力面での心配もあったが、それを払拭させるような安定した走りを披露していた。

 

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「セッティングを変えたことが本当に今週の大きな変化でした。それを変えただけで、“ポンっ”とレベルアップできたのは、今まで自分がやってきたことが間違っていなかったんだなという自信になりました」

「レースでは、体力的には大丈夫だったけど、中盤以降になる元気はなくなってきているので、各コーナーでの攻めが少し控えめになってしまったりとかはしていましたね」

「ここで、そのセッティングを試してなかったら鈴鹿は全然無理となりますが、ここで一回試して走り切れたことで、『次の鈴鹿はどうしよう?』と悩めるところにこれたので、良かったです」

実際に第9戦のレースペースを見ても、特に後半は4番手を走る高星をはじめ、トップ集団との差が大きく離れなかった。もし、スタートで大津を攻略でき、序盤から1分23秒台を出せていれば…表彰台という可能性もあったかもしれない。

 

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あと残った課題は、一発の速さや純粋なレースペースだけではなく、対ライバルとの駆け引きや、タイヤマネジメント、さらに周回遅れの処理といった部分。そこについて三浦は、レース後にも関わらず、このように分析してくれた。

「何か極端に変えるのではなく、今の走りとか組み立ての精度を上げていくこと、コンマ1秒、コンマ5秒との積み重ねが…というところまでは来た気がします」

「いまのベストを尽くすだけ。結果・成績は後から付いてくると思っています」

次回は6月24・25日の鈴鹿ラウンド。今年はプライベートテストなどの機会がなく、ライバルと比べると決して良い状況でレースを迎えられているわけではないが、鈴鹿は彼女にとってはホームコース。F3Nクラスでの初優勝も、Cクラスでの初ポイントも、全て鈴鹿で成し遂げている。

次回の鈴鹿は、どんな結果が待ち受けているのか?今から楽しみだ。

 

まとめ

 

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思えば、4月の第4戦で初ポイントを獲得し、満面の笑みを見せ喜んでいたレースから早1ヶ月。気づくと、1ポイントを取れるポジションでのフィニッシュでは満足できないという心境にまでなり始めている三浦。

プライベートテストで走り込む機会がほとんどないにも関わらず、この短期間で、ここまでレベルが上がり方は、本当に眼を見張るものがある。

もしかすると、今季F3に参戦しているドライバーの中で、影で一番努力しステップアップしようと、自分と戦っているのは彼女なのかもしれない。と思えるほどの成長ぶりだ。

 

©︎Tomohiro Yoshita

 

普段、ピットウォークやパドックでは、ファンとの交流時間を大切にし、いつも優しい笑顔で振舞っているのが印象的だが、その内に秘めている闘志は、並並ならぬものあるなと…改めてこの週末の取材で感じることができた。

次回の鈴鹿では、そういった勝負に対する思いや、彼女の一面も紹介できればと思う。

 

次のページでは、三浦愛選手の2日間を振り返ったフォトギャラリーをお送りまします!