かつて、初代オデッセイでミニバンが大ブームになった時、既に同種の車を販売していた日産や三菱、マツダはもとより、意外にも後発だったトヨタもコロナプレミオベースで初代イプサムを開発し、トヨペット店やトヨタビスタ店で発売して追撃。さらに車体をやや拡大して質感を高めたトヨタ店向け派生車、「ガイア」を開発します。しかし、いかにトヨタと言えども、慣れない分野の急増車には手を焼いたようで、ガイアはその試行錯誤を象徴するようなミニバンでした。

トヨタ ガイア / 出典:https://www.favcars.com/toyota-gaia-m10-1998-2004-images-190883.htm

打倒オデッセイの旗のもと、立ち上がったトヨタのロールーフミニバン

トヨタ ガイア / 出典:https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/vehicle_lineage/car/id60002006/index.html

現在のミニバンに相当する3列シート乗用車(ステーションワゴンの荷室に補助席を設けたものは除く)は、1960年代から1BOX商用車ベースで既に登場しており、需要はまだそう多くなかったもののレジャー向けにも使われていましたが、本格的に主力ジャンルの座へ浮上したのは1994年。

初代ホンダ オデッセイの登場が、キッカケでした。

1BOX車、あるいはそれまで既に日産(プレーリー)や三菱(シャリオ)から登場していたFF乗用車ベース、マツダ(MPV)のFR乗用車ベースがまだまだ「商用車チック」な野暮ったさを残す中、格段にスタイリッシュで質感も快適性も高かったオデッセイは、まさに革命です。

トヨタは初代エスティマ(1990年)および5ナンバー版エスティマルシーダ/エミーナ(1992年)でスタイリッシュなミニバンについては先行していたとはいえ、床下エンジンゆえに快適性の難を抱えており、しかもそれまで需要を感じていなかったのか、当時のトヨタの保守的体質ゆえか、意外にもFF乗用車ベースのミニバンを販売していませんでした。

ライバル他社から完全に出遅れていたトヨタは1996年、コロナプレミオをベースに開発した初代「イプサム」をトヨペット店とトヨタビスタ店から発売し、オリジナルキャラ「イプー」などが登場するCMによる宣伝戦略と、日本最大級の販売網を駆使して猛追します。

さらに初代エスティマとエスティマエミーナを販売していたトヨタ店でも、イプサムの派生車「ガイア」を発売。

同じくエスティマおよびエスティマルシーダ、タウンエースノアを販売していたトヨタカローラ店、ライトエースノアを販売していたネッツ店(ほかにトヨタビスタ店からレジアス)とともに、濃密なオデッセイ包囲網を敷きました。

意外にも?イプサムからの改良点が少なかったガイア

トヨタ ガイア(6人乗り2列めキャプテンシート仕様) / 出典:https://www.en.japanclassic.ru/booklets/394-toyota-gaia-1998-sxm10-cxm10.html

初代イプサムからちょうど2年遅れの1998年5月に発売されたガイアは、よく「イプサムをベースに全長を伸ばし、問題点だった3列目の居住性を改善した」と解説されますが、それだけではやや正確さを欠いています。

コロナプレミオベースなのは変わらないため、5ナンバーに収まる全幅やホイールベースは同じですが、確かに全長は90mm、全高は55mm拡大されており、初代イプサムではややガラス面の傾斜がキツく、3列目シートへの圧迫感や日差しといった快適性に影響を与えていたテールゲートも、垂直に近く立てられました。

ただし、「スペック上の室内空間」に目を転じると、室内長2,565mm、室内幅1,175mmは初代イプサムと同じで、全高を上げた余裕でツインムーンルーフ装着車なら15mm、非装着車でも5mmと、わずかながらヘッドスペースに余裕を生んだのみです。

あくまで「5ナンバー車にこだわった結果」と言われていますが、1990年に初代エスティマを発売した際、2020年代の今ならさしたる問題ではない「全長4,750mm、全幅1,800mm」というボディサイズが、当時の日本では大きすぎると不評だった事が影響していたと思われます。

実際、当時のトヨタではエスティマルシーダ/エミーナ、レジアスといった「エスティマやグランビアの5ナンバー版」を必ず用意しており、3ナンバーミニバンに対してかなり懐疑的な見方をしていたのも事実ですが、オデッセイがヒットしてからの対応としては、どうも慎重過ぎました。

ガイアは、イプサムと寸法上はほぼ同じ室内でも有効スペースを拡大し、2列シートが独立キャプテンシート仕様で、1~3列目ウォークスルーが可能な6人乗り仕様を設定。

初代イプサムよりメッキパーツを増やすなど、内外装の質感を高める努力はしています。

それでも、ヨーロピアンテイストでフォーマルな場にも通用する雰囲気を持ち、室内スペースは比べものにならないほど広く、5ナンバーにこだわる必要がないため直4でも2.2~2.3リッター、そしてV6なら3リッターエンジンすら設定し、圧倒的な動力性能を誇るオデッセイに対し、ガイアは全く勝負にならない車でした。

結局は初代イプサムの上級派生車といっても中途半端な存在で、単にイプサムの内外装違い程度の扱いとなり、振るわないまま2004年に販売を終了。

以降のトヨタ店ではFF化で車内も広くなり好評な2代目以降のエスティマが、オデッセイ対抗馬となり、5ナンバーサイズでも後席スライドドアで実用性の高いアイシスへ移行していきました。

主要スペックと中古車価格

トヨタ ガイア / 出典:https://www.en.japanclassic.ru/booklets/395-toyota-gaia-2000-sxm10-cxm10.html

トヨタ SXN10G ガイア Gパッケージ(7人乗り) 1998年式
全長×全幅×全高(mm):4,620×1,695×1,675
ホイールベース(mm):2,735
車重(kg):1,450
エンジン:3S-FE 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,998cc
最高出力:99kw(135ps)/6,000rpm
最大トルク:181N・m(18.5kgm)/4,400rpm
10・15モード燃費:11.6km/L
乗車定員:7人
駆動方式:FF
ミッション:4AT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)トーションビーム

(中古車相場とタマ数)
※2021年4月現在
15万~35万円・4台

慣れない急造車種はトヨタでも難しい、という教訓を残した車

トヨタ ガイア / Photo by RL GNZLZ

ガイアはその販売当初から、「5ナンバーのままでイプサムとさして違わない車」と認識された目立たない車で、発売2年後の2000年にはカムリベースでFF化。

3ナンバー車なので大排気量エンジンも積まれ、2001年にはハイブリッドさえ追加された打倒オデッセイの本命でしたが、2代目エスティマがトヨタ店で発売されてしまい、早々に存在意義が問われるハメになります。

ならば5ナンバーミニバンにこだわったガイアが完全に失敗作だと断じるのは早計で、後にホンダがスポーティなロールーフミニバン「ストリーム」をヒットさせた時、「トヨタでも同じような車が作れるじゃないか」と、すぐ腰を上げてウィッシュやアイシスを作り、今度こそ完璧にホンダを打倒できたのは、初代イプサムやガイアの経験があればこそとも言えます。

その意味では拡大して3ナンバー化したものの、スポーツ性でオデッセイには劣り、スペース効率では新進気鋭のFF乗用車ベースハイルーフミニバンに及ばず、またもや中途半端な存在で終わった2代目イプサムより、よほど有意義な車だったかもしれません。

ただしガイア自体は、ミニバンブームの初期にコンセプトが迷走したトヨタを象徴するような車だった事に違いはないため、「突然わき起こったブームで勢いのついた人気車へ、急造車種で対応するのはトヨタをもってしても簡単にはいかない」という重要な教訓をもたらしたのが、最大の功績だったと言えるでしょう。