2020年まで販売されていたトヨタのコンパクト トールワゴン「ポルテ」は、左右非対称ボディで助手席側は1枚の大型スライドドアという、特徴ある車でした。地味でしたがそれなりに使い勝手の良さが評価されるなど、需要はあったようで、2012年7月に2代目へモデルチェンジされた際、カローラ店/ネッツ店向けにちょっとクールなデザインの姉妹車として追加されたのが、「スペイド」です。

トヨタ スペイド F “Jack” / 出典:https://global.toyota/jp/newsroom/toyota/21780299.html

カローラ店とネッツ店へ投入された小さなスライドドア車、「スペイド」

トヨタ スペイド / Photo by Rutger van der Maar

1993年に登場したスズキ ワゴンRで軽トールワゴンがブームになると、軽自動車を好まないユーザー向けにコンパクトカーでもトールワゴンが急増。

各社ともそれぞれベーシッククラスのコンパクトカーをベースにトールワゴンを仕立て上げてよく売れ、トヨタもヴィッツベースでファンカーゴや初代bBなどを作って販売しましたが、それら初期のトールワゴンは全て後席ドアが通常のヒンジドアでした。

というのも、当時のスライドドアは1BOX車や大型ミニバンの専売特許だったため当然ですが、トヨタは小型車にも関わらず後席両側スライドドアを持つ「ラウム」を1997年に発売。

当初は奇異な目で見られたものの、子供や高齢者など、乗降に難のあるユーザーを中心に評価を受けるようになり、やがて後席スライドドア車は小型車や軽自動車でも一般化されていきます。

そして2004年に発売された初代「ポルテ」も、ボディサイズが小さい車へスライドドアが普及していく時代の過渡期に試行錯誤された車のひとつで、ジャンルとしてはコンパクト トールワゴンに属するものの、当時まだ売れ筋だった通常ヒンジドアの5ドアハッチバック形式ではなく3ドア、ただし助手席側ドアは1枚の大型スライドドアだったのが特徴です。

小さいながらも助手席側の開口部は広く、低床フロアで乗降性は良好。

助手席に回転シートや専用車椅子を配置しやすいなど福祉車両向きで、ラゲッジも案外広くてファミリーカーとしても実用性の高いポルテは一定の支持を受け、2012年には2代目へモデルチェンジされました。

この時までポルテを販売していたのはトヨタ店とトヨペット店のみでしたが、ラクティスやカローラルミオンといったトールワゴンは販売していたものの小型スライドア車がないカローラ店と、ラウムが2代目で販売を終了し、トールワゴンは2代目bBのみで、やはり小型スライドドア車がなくなっていたネッツ店でも販売が決まります。

ただしポルテをそのまま売るのではなく、ユーザー層に合わせてややデザインを変えた姉妹車「スペイド」として、2012年7月に2代目ポルテと同時発売されました。

若いユーザー層向けのクール仕様が受け、実はポルテよりも売れたスペイド

トヨタ スペイド サイドアクセス車(福祉車両) / 出典:https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/25507771.html

初代ポルテは丸みを帯びた無害なものとはいえ、保守層ユーザーの多いトヨタ店とトヨペット向けにちょっと堅く、2代目もブラックアウト化で開口部を広く見せたフロントグリルや、やや丸みを帯びた大型ヘッドライトで親しみやすさを感じさせつつ、あくまで「堅実さ」を感じさせるデザインです。

対して後発の「スペイド」は、カローラ店やネッツ店の若いユーザー層向けにヘッドライトもフロントグリルも薄目のものが採用され、メッキパーツやクリアレンズを増やし、ダークバイオレットマイカメタリックなど、濃色系の専用ボディカラーも設定した外装で、クールなイメージを持たせます。

いわば「ポルテカスタム」的なスペイドですが、当時のトヨタはまだノアとヴォクシー(後にエスクァイアも)、アルファードとヴェルファイアのように、同車種でもイメージの異なる車は複数の販売チャンネルごとの別車種扱いで販売しており、スペイドはミニバンでいえばヴォクシーやヴェルファイアに相当するポジションでした。

ただし、ヴォクシーやヴェルファイア、あるいは他社の「○○カスタム」的な車種とは異なり、メッキパーツを多用した大型フロントグリルやクリアテールなど徹底的なアグレッシブ化にまでは手をつけず、ポルテ同様に福祉車両として使っても違和感のない範囲です。

初代ポルテに比べ、追加された運転席側後席ドアによる後席アクセスの向上や、2WD車にはクッションチップアップ機構が追加され、座面を跳ね上げればベビーカーもそのまま積める積載性や、手が届く範囲の随所に設けられたドリンクホルダー、小物入れ(ステアリングの奥にすらある)といった長所はそのまま受け継がれ、グレード構成も変わりません。

しかし、クールさも可愛さも中途半端で物足りない、せめて外装にメッキパーツを増やしたり、独自にローダウン仕様やエアロ仕様を設けるべきだったという声は強く、特に乗ってしまえばポルテとさして代わり映えがないため、スペイドならではの特徴を望む声は強くありました。

そこでトヨタとしても両車の差別化には気を使い、売れ筋の特別仕様車はポルテの「F アラモード」シリーズが明るい内装を使ったのに対し、スペイドではブラック基調の内装とした「F クイーン」シリーズとしたのが良かったようで、発売から2016年までの販売台数はポルテを上回っています。

主要スペックと中古車価格

トヨタ スペイド F “Noble collection” / 出典:https://global.toyota/jp/album/images/25158391/

トヨタ NCP141 スペイド G 2012年式
全長×全幅×全高(mm):3,995×1,695×1,690
ホイールベース(mm):2,600
車重(kg):1,150
エンジン:1NZ-FE 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,496cc
最高出力:80kw(109ps)/6,000rpm
最大トルク:136N・m(13.9kgm)/4,800rpm
JC08モード燃費:19.0km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FR
ミッション:CVT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)トーションビーム

(中古車相場とタマ数)
※2021年4月現在
9.5万~176.1万円・1,212台
(参考・2代目ポルテ:23万~169万円・804台)

評論家受けより実際のユーザー受け狙いで大成功した好例

トヨタ スペイド(ウェルキャブ 助手席開店チルトシート車) / 出典:https://www.favcars.com/images-toyota-spade-welcab-2012-187633.htm

ピーク時の2013年には4万8千台以上を販売し、登録車の年間販売台数13位。

同3万1千台以上で23位だったポルテより売れたので、若者向けクール仕様はキチンと効果を発揮したスペイドですが、知名度という意味では何となく及ばないように思えます。

2016年に発売された後席両側スライドドアつきコンパクト スーパーハイトワゴン、「タンク」(トヨペット店/ネッツ店向け)および「ルーミー」(トヨタ店/カローラ店向け)が大ヒットして以降は、ポルテ/スペイドともに販売台数が激減。

特にスペイドはポルテ以上の勢いで落ち込んだため、その時期のイメージが強いのかもしれません。

実際の販売台数はスペイドの方が多いため、中古車市場でのタマ数はポルテより豊富で、かつ末期の知名度が低いため、価格はポルテよりやや低くなっており、実用性に差がなく若者向けなのを考えると、スペイドの中古車はお買い得です。

発売当初は「ポルテとフロントマスク以外あまり変わりばえしない車」と外野から酷評されつつ、よく調べればしっかりとユーザー受けし、結果は出しているあたり、いかにもトヨタらしい車と言えます。