ようやく厳しい排ガス規制や省燃費対策にメドがついた1980年前後は、かろうじてDOHCエンジンを生き残らせた陣営と1970年末からSOHCターボ車を登場させた陣営に分かれ、「真に優れたスポーツエンジンはターボかDOHCか。」と論争を巻き起こすまでとなっていました。今なら「DOHCターボでいいんじゃない?」と言えますが、それを初めて実現した中の1台が、ボクシーなスタイルで人気を呼んだ3代目カリーナです。
3代目トヨタ カリーナとは
初代の『足がいいやつ』というキャッチコピーからスポーツイメージの強かったカリーナですが、排ガス規制対策に苦しんだ初代後期、そしてそれをどうにか乗り越えEFI化されたDOHCエンジンを引っさげた2代目を経て、1981年9月にモデルチェンジされたのが3代目カリーナです。
一足早くモデルチェンジしていた3代目セリカ(1981年7月発売)と同じA60系のFR車で、型式こそT140系とは異なるものの7代目コロナ(1982年1月発売)ともプラットフォームを共有しており、事実上はカリーナ / コロナ / セリカ3兄弟となりました。
ただし、この代ではまだカリーナがコロナより一回り小さいことには変わりはなく、コロナと完全に兄弟車になるのはこの次の代からとなります。
そしてこの頃はトヨタがコロナクラスまでの全車種をFR(フロントエンジン・後輪駆動)からFF(同・前輪駆動)に切り替えようとしていた時期でもあり、4代目T150系カリーナがわずか2年半後の1984年5月に発売。
では3代目が短命に終わったかと言うとそうではなく4代目との併売期間が続き、カリーナEDの登場で3ドアクーペが廃止(1985年8月)されて以降も1988年5月までセダンとサーフ(ステーションワゴン)、バンの販売が続いたので、結果的には逆にロングライフモデルとなりました。
実に4年もの間『FRカリーナ(3代目A60系)』と『FFカリーナ(4代目T150系)』が併存したことになりますが、このような例はあまりなく、他には いすゞ ジェミニ(FRの初代とFFの2代目を3年ほど併売)などでも見られました。
3代目カリーナの特徴
デビュー当時は2リッター(18R-GEU)の『2000GT』、1.6リッター(2T-GEU)の『1600GT』と2種のDOHCエンジンをラインナップ。
ボディも灯火類も全てがカクカクしたボクシーなデザインとコロナよりやや短く取り回しの良いスポーツセダンとして人気でした。
しかし、1980年代ともなると18R-Gも2T-Gもかなり古いエンジンとなってしまい、1982年10月には18RーGEUに代わり、1.8リッターDOHCターボエンジンの3T-GTEUが搭載されます。
ちなみにコロナ / セリカとほぼ同時に切り替えられたこの3T-GTEUは日本初の市販車用DOHCターボエンジンで、1983年2月に初のDOHC4バルブターボ、FJ20ETを搭載したスカイライン2000ターボRSに先んじたものです。
1979年10月に日産 セドリック / グロリア(430系)へ日本初のターボエンジンが搭載された頃から「スポーツエンジンとして優れているのはターボかDOHCか。」という論争があった事からも、両者を組み合わせたDOHCターボの登場は必然でした。
また、1983年5月にAE86がデビューすると同時に2T-GEUもAE86と同じ4A-GEUに変更され、カリーナとコロナは『4A-G搭載のFRスポーツセダン』としても名を馳せるようになります。
ただし、1985年8月で4代目のGT系は廃止されたため、この痛快なFRスポーツセダンが販売されていた期間は3T-GTEU搭載型が2年3ヶ月、4A-GEU搭載型に至ってはわずか1年と短命で、希少であると言えます。
しかし販売当時は『TWINCAM TURBO』の純正デカールがサイドに貼られたカリーナ / コロナ / セリカをよく見かけたもので、短期間の販売ながらかなりのヒット作でした。
モータースポーツでの実績
『足がイイ』だけでなくターボパワーまで手に入れたカリーナは、コロナやセリカよりやや全長が短かったこともあり、ダートトライアルやラリーなどでも活躍し、FR車ということもあってドリフトでも多用されました。
その中でももっとも派手な活躍が、チームACPによる1981年のパリダカ(パリ=ダカールラリー)参戦です。
この時期のカリーナにはまだ3T~GTEU搭載車は存在せず、それでは2リッターか1.6リッターのDOHCエンジンが出たのかといえば、さにあらず。
2WD市販車無改造クラスにエントリーしたのは意外にも、1.5リッターSOHCで機械式キャブレターの3A-Uを搭載したベーシックなモデルでした。
つまり「AE86で出たかと思えば実はAE85でした。」というような挑戦でしたが、とにかく耐久性が求められるパリダカではこれが大正解で、同チームの60系ランドクルーザー(もちろん4WD)を差し置き砂漠を疾走し、総合34位で完走してしまいます。
それも市販車無改造クラス、2WDクラス、バギークラス、マラソンクラスと4階級制覇のオマケつきで、結果的に『エンジンは何であれ、足が良くて走りがいい奴カリーナ』を証明する結果となりました。
主要スペックと中古車相場
トヨタ RA63 カリーナセダン2000GT 1981年式
全長×全幅×全高(mm):4,390×1,650×1,400
ホイールベース(mm):2,500
車両重量(kg):1,135
エンジン仕様・型式:18R-GEU 水冷直列4気筒DOHC8バルブ
総排気量(cc):1,968
最高出力:135ps/5,800rpm
最大トルク:17.5kgm/4,800rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FR
中古車相場:100万円(ほぼ流通無し)
まとめ
最後のFR車であり、初のツインカムターボ・スポーツセダンとして人気を呼んだ3代目カリーナですが、当時は『TWINCAM』や『TURBO』という純正デカールやエンブレムがサイドや前後に貼り付けられるのが当たり前だった時代でした。
また、トヨタ車ではマークII3兄弟などの『TWINCAM24』(DOHC24バルブ)が派手な方でしたが、そこにカリーナなどの『TWINCAM TURBO』が加わると、当時まだ小学校低学年だった筆者など「ツインカムは24とターボどっちがエライのか?」など真剣に考えたものです。
もっとも、カリーナがそうした個性輝く1台だったのはこの3代目までで、現在のように『企業イメージを高める特別な1台』を作らなくとも、普通に走っている車に弾けたスポーツグレードが1台は設定されているような面白い時代の終わりはもう目の前でした。
4代目以降はコロナとの完全兄弟車化により、急速に『無難なFF大衆車化』していき、現在のアリオンに至っていますが、そうなる以前の3代目カリーナはそのカクカクしたデザインも含め、現代の車から失われた個性に溢れています。
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