1991年に787Bで日本車唯一の「ル・マン24時間レース総合優勝」を成し遂げたマツダ。長年苦労しても届かないメーカーもある中で、WRC制覇に並ぶ「日本車の最高到達点」であり、マツダロータリーファンの誇りともなっています。今回は、そこに至るまで決して平坦では無かった道のりを走った数々のマシンをご紹介します。

Photo by Riceburner75
マツダスピードの苦い初参戦・マツダ 252i(1979年)

出展:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1979.html
マツダのロータリーエンジンがル・マンを初めて走ったのは1970年。
ベルギーのチームがシェブロンB16に10Aロータリーを搭載して参戦したのが最初でした。
それ以降、シグマ・オートモーティブのシグマMC73(1973年)、MC75(1974年)が12Aを搭載して参戦し、1975年にはマツダ RX-3が地元ディーラーから参戦しましたが、ここまでは全てリタイアまたは規定周回数に及ばずでした。
そして1979年、ついにマツダスピードの手によりル・マン参戦を開始。
その時参戦したのがSA22C初代サバンナRX-7に海外仕様の13Bを搭載、シルエットフォーミュラ仕様へモディファイしたマツダ 252iだったのです。
1978年にデビューしたばかりのRX-7は、かつての「未来を担うエンジン」から「ガス食いの極悪燃費車」として評価が地に落ちていたロータリーの復権を賭けた1台で、耐久レースへの参戦は失敗のリスクを恐れたマツダ本社も乗り気ではありませんでした。
そこを押し切って参戦にこぎつけたものの、結果は予選での不調やドライバーの体調不良、そして天候にすら恵まれなかったのです。
しかし、予選落ちの屈辱を味わったものの、この時の悔しさが後のマツダロータリーマシンの執念を生むことになりました。
ル・マンの壁はまだまだ高い、マツダ RX-7 253(1981年)

出展:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1981.html
残念な結果に終わったマツダスピードが初参戦した翌年、プライベートチームの「Z&Wエンタープライズ」からエントリーした12A仕様のSA22CサバンナRX-7はIMSAクラスで完走。
マツダ車としても、ロータリーエンジン車としても初のル・マン完走を成し遂げました。
マツダスピードが再びル・マンに還ってきたのはその翌年、1981年のことです。

出典:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1981.html
今度も13B仕様のSA22CをベースにしたマツダRX-7 253でIMSA-GTOクラスに2台、前年完走したZ&WエンタープライズからもIMSA-GTUクラスに1台が参戦しました。
しかし結果はZ&Wエンタープライズ車は予選落ち、RX-7 253はギアボックスやデフのトラブルで、2台とも決勝をリタイアし、それぞれ2時間、10時間しか走れませんでした。
TWR(トム・ウォーキンショーレーシング)との共同チームでマツダ本社からも支援を受けた磐石の態勢のはずでしたが、ル・マンの壁はまだまだ高かったのです。
初受賞は「ベストメカニック賞」・マツダ RX-7 254(1982年)

出典:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1982.html
この年から従来のグループ6などに代わり、新しいカテゴリーであるグループCが登場。
名車ポルシェ956などグループCマシンが過半数を占めたル・マンで、マツダは引き続きIMSA GTXクラスに2台のRX-7 254を参戦させます。
254は前年の253に空力的リファインを加えたマイナーチェンジ版と言えるモデルで、事前に4,000kmにも及ぶテストを行い、253からの熟成で信頼性は高まっているはずでした。
しかしル・マンの魔物はその程度で簡単に完走を許すはずもなく、2台のうち1台は燃料系トラブルでリタイヤ。
残る1台を何とかゴールさせたいと願うも叶わず、ギアボックスのトラブルを起こします。

出典:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1982.html
規定でアッセンブリー交換は認められないため、1時間24分に及ぶギアボックス内部の部品交換作業によるピットインを余儀なくされました。
その後もパンクや燃料フィルターの目詰まりなどマイナートラブルに悩まされますが、どうにか完走。
マツダスピードとして初の完走に、奮闘したピットクルーへの「ベストメカニック賞」が贈られています。
激走「そらまめ君」!・マツダ 717C(1983年)

出典:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1983.html
ここまでSA22C型サバンナRX-7のモディファイ版で戦っていたマツダスピードでしたが、新設されたグループCジュニアのマツダ 717Cを開発。
254と同じ300馬力にチューンした13Bを搭載していましたが、車重は200kg近く軽くなり、空力的にも大きくリファイン。
ストレートスピードを稼ぐための丸くコロンとしたボディは「そらまめ号」と呼ばれました。

出典:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1983.html
しかし、かわいいニックネームとは裏腹にその効果は絶大で、出場した717Cは予選を問題無く突破し、決勝でも2台揃っての完走を初めて記録。
グループCジュニア優勝(総合12位)と立派に誇れる成績を収めるとともに、燃料使用限度の厳しいグループCジュニアで燃料消費量に問題無く「速くて燃費の良くなったロータリー」を証明したのです。
なお、グループCジュニアにはもう1台、マンズレーシングから290馬力仕様の13Bを搭載したハリアーRX83C・マツダが出走しましたが、こちらは予選落ちで終わっています。
安定のアメリカン・ローラT616マツダ(1984年)

出典:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1984.html
717Cが成功を収めた翌1984年、ル・マンには717Cをリファインしてスラントノーズ化、リアタイヤの覆いも外されコーナリング性能やピットでの作業性を改善した727Cを投入。
しかし主役となったのは米国のBFグッドリッチがエントリーさせたローラT616・マツダで、トラブルに泣き、完走がやっとだった727に代わって大きなトラブルも無く2台とも上位完走、C2(Cジュニア)クラス優勝を獲得しました。
マツダスピードは翌1985年も737Cを投入しますが、参加台数が増え、ライバルが台頭する一方、2ローターの13Bでは戦闘力に限界があり、ホイールベース延長など改良しても焼け石に水でトラブルにも見舞われ、737Cを最後に13Bでのル・マン挑戦は終わりを迎えます。
粘りの熟成・マツダ 757(1986~1987年)

出典:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1986.html
トップカテゴリーのC1クラスで使っていたエンジンを使うプライベーターの増加で、戦闘力不足が顕著になっていたC2クラスから、IMSA-GTPクラスに変更。
エンジンも後にユーノス コスモに搭載される20Bの原型、3ローターの13Gに変更され、450馬力を発揮するようになりました。

出典:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1986.html
マシンのボディメイクも717Cの発展型と言えた737Cまでとは大きく変わり、事前テストや試験的に参戦したレースでも好成績を収め、いよいよ総合でも上位進出が期待されます。
しかし1985年はエンジンとギアボックスの間の「インプットシャフト」が破断するという、なぜかル・マンに限って…というトラブルで2台ともリタイア。
まさに「魔のル・マン」本領発揮と言えましたが、この757を徹底的に熟成改良し、翌年のル・マンに今一度チャレンジさせたのが今までのマツダスピードと違うところです。

出典:http://archive-2013.mzracing.jp/history/1987.html
その甲斐あって1987年には2台のうち1台が完走、IMSA GTPクラス優勝はもちろん、総合でも7位と日本車での史上最高位でゴール。
この完走したマツダ 757 #202に関してもワイパーアーム破損やリアサスペンションアームのトラブルによる修理で50分ものタイムロスを受けたにも関わらずの好結果でした。
1979年の初参戦から8年。
マツダは、ただ速いだけではなく信頼性も無ければ、余裕のある走りをできずさらにトラブルを招く悪循環から多くを学んできたのです。
まとめ
3ローターの13Gを積んだ757での参戦は1987年で終わり、1988年からはいよいよ4ローターの13Jを積んだ767へ、そして26Bを積んだ787へと進化していきます。
その最終的な結果が、1992年の787Bによる総合優勝であることは、皆さんがご存知の通りです。
787Bの栄光やその前日譚と言える767 / 767B / 787の活躍は広く知られていますが、それも757以前のマシンで苦労した歴史があってのもの。
「ル・マンの勝利は一夜にしてならず」というわけで、マツダの粘りの歴史をみなさんも見習って頑張りましょう!
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