先代の5代目で和製ゴルフとも言えるFFハッチバック化に成功、当時のカローラを上回る超大ヒットで苦境のマツダを救ったファミリアは、1985年に6代目へとモデルチェンジ。WRCでも活躍した4WDターボが有名ですが、他にも歴代唯一のカブリオレや最後の独自生産となったワゴン / バンが設定され、ファミリアとしては1つの節目になったモデルとなりました。
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新エンジン搭載と高剛性ボディを売りにした、和製ゴルフの次世代
当時のカローラを上回る超・大ヒット作であり、時代のトレンドとしてサーフボードを載せた『赤いファミリア』が社会現象にすらなった5代目BD系に続く6代目BF系ファミリア(※)は、1985年1月に発売されました。
前端までつなぎ目無くスラリと伸びたボンネット、横長のヘッドライトや上下に厚みの増したテールランプユニットごと大きく開く3 / 5ドアハッチバックのテールゲートなど、細かい部分を除けば先代からの超キープコンセプトデザインです。
そのため、普段から精通していない人にとっては一瞬で「これが6代目ファミリアだ!」とは気づきにくいデザイン(特にハッチバック車)でしたが、もちろん似ているのは姿形のみ。
車体表面を滑らかにするフラッシュサーフェス化でCd値(空気抵抗係数)は小型車クラスでは世界最高水準の0.35まで低減されると共に、しっかりとした操作フィーリングや、振動や騒音が少ない乗り心地の良さを狙った高剛性ボディを採用しています。
また、新型のDOHCエンジン(後にロードスターにも搭載したB6)や、それをターボ化して搭載したフルタイム4WDターボのGT系も登場し、『いいエンジンといいシャシーが出会ったとき、初めて、いいクルマが完成します。』とアピールしました。
4WDターボだけじゃない!ライフスタイルの多様化に対応してバリエーション増加
6代目BF系ファミリアといえば『国産初の量産乗用フルタイム4WD車』というキーワードで紹介されることが多いのですが、同時に激しい日米貿易摩擦やユーザーのライフスタイル多様化という課題に対応していったモデルでもありました。
1981年5月には日米貿易摩擦回避のため米国政府 / 議会からの圧力により日本製乗用車の対米輸出が168万台(前年実績は182万台)へと自主規制を開始(1993年度まで継続)。
そして、カナダやEC(現在のEU)からも圧力が加わり、さらには1985年9月のプラザ合意で円高ドル安が既定路線となったことで、日本の主要輸出産業だった自動車はもはや『多少品質に難があっても、燃費がいい車を安くバンバン売る』程度ではいられなくなったのです。
つまり高くても品質や性能で勝負できる車を売っていかなければいけなくなったわけで、急激な質的転換を迫られた他の国産車同様、ファミリア(当時の海外名はマツダ323)も見た目はともかく、中身は大幅な進化が迫られていました。
さらには、後にバブル景気と呼ばれる狂乱的な経済成長が始まったこともあり、ユーザーもまた『ただよく走る車』程度では無い、『一芸』を求めていきます。
その流れで、まずフルタイム4WDやDOHCターボを追加、国産車初のフルタイム4WDターボ車も設定されますが、他にも歴代初のディーゼルエンジン車、歴代唯一のカブリオレ、歴代最後の独自生産ワゴン / バンを販売し、歴代最多バリエーションを誇ったのです。
1986年3月に追加されたカブリオレは、『和製ゴルフ』らしくロールバーを残した手動式ソフトトップ(幌)の4座席オープンで、クローズ時の耐候性や快適性を確保する3層構造の幌や、オープン時に風の巻き込みを抑える樹脂シートのエアロカーテン(オプション)が売り。
そして、カブリオレが追加された際のエンジンは1.5リッターSOHCターボでしたが、後に『スポルト16』グレードと同じ1.6リッターDOHC自然吸気エンジンに変更されました。
また、先々代(最後のFRファミリア)が継続生産されていた乗用ステーションワゴン / 商用ライトバンもモデルチェンジされて新型となり、後にはフルタイム4WDが追加されています。
なお、ファミリアのワゴン / バンは1994年に日産からのOEM供給(ADワゴン / バン)に変更されるまでこの6代目が販売されており、ファミリアとしては最後のマツダ独自生産ワゴン / バンになりました。
WRCで活躍した『雪の女王』
国産量産乗用車としては初めて、プラネタリーギアを用いたセンターデフ式(デフロック付き)フルタイム4WDを設定し、1.6リッターDOHCターボに4WDを組み合わせたGT-Xや、その競技ベース仕様GT-Aがトップグレードだった6代目ファミリア。
先代から4WDモデルをWRC(世界ラリー選手権)のグループAに参戦させていましたが、それまでWRCの主力だったグループBが立て続けに重大事故を起こして廃止、1987年からグループA主力に変更されたことで、一躍スポットライトを浴びる形になります。
もちろんグループA時代初期の最強マシンは2リッターターボのランチア・デルタHF4WDで、1.6リッターターボのファミリア(海外名マツダ323)は不利でしたが、当時のトヨタ スープラ(A70系)や日産の200SX(S12シルビア)がFRなのに対し、4WDの強みがありました。
そして、絶対的な動力性能ではかなわないものの、小型軽量ハイパワーを活かして1987年シーズン第2戦スウェディッシュラリーで初の総合優勝、1988年にはニュージーランドとRACで総合2位、1989年にはスウェディッシュラリーとニュージーランドで総合優勝するなど活躍。
マツダワークス自体が雪上イベントへのエントリーが多かったのですが、実際そこで実績を上げたこともあり『雪の女王』と呼ばれています。
その勢いは国内の全日本ラリーでも衰えず、1987年10月の『第16回MCSCラリーハイランドマスターズ’87』でセリカGT-FOUR(ST165)やデルタHFを破り、Cクラス1-2フィニッシュを決めるなど活躍。
まだ1989年にシリーズ化される前の年1回開催されるオールスター戦だった時代の全日本ダートトライアルなどでは、ナンバーつきもナンバー無し改造車も含め、大排気量4WD車のほとんどが6代目ファミリアという時期すらあったほどでした。
当時は4WDターボなどほとんど無く、4WD乗用車の老舗スバルがレオーネをフルタイム4WD化したのが1986年、その頃にトヨタから2リッターセリカGT-FOURが登場したので、6代目ファミリアのGT-XやGT-Aはライバル不在の本当にいい時期に発売されました。
主なスペックと中古車相場
マツダ BFMR ファミリア GT-A 1987年式
全長×全幅×全高(mm):3,990×1,645×1,405
ホイールベース(mm):2,400
車両重量(kg):1,100
エンジン仕様・型式:B6 水冷直列4気筒DOHC16バルブ ICターボ
総排気量(cc):1,597
最高出力:103kw(140ps)/6,000rpm
最大トルク:186N・m(19.0kgm)/5,000rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:4WD
中古車相場:120万円(2018年7月時点で流通はカブリオレ1台のみ)
まとめ
1980年代から1990年代にかけ、市販車ベースで小型軽量安価な最高のスポーツカーを作ってしまうという国産スポーツ黄金期が存在しました。
中でも『極上』だったのがターボチャージャー、DOHCエンジン、フルタイム4WDを3種の神器のように掛け合わせた4WDターボスポーツで、その第1弾として初期に圧倒的人気を誇ったのが、この6代目ファミリアです。
もちろん、闇雲にそれらを組み込んだだけでは名車たりえないのですが、6代目ファミリアには『それが登場した時、たまたまライバルが不在だった』という時の運や、DOHCターボ以前に車としての作りこみが優れていたことが、人気の理由だったといえます。
その根本には、先代ファミリアの超大ヒットによる『マツダの余裕』が、カブリオレやワゴン / バンも同時期に作れたことからも推測できますが、こうしたヒット作の積み重ねで新型車の開発費をひねり出すのは、まさに自動車メーカーとしての王道。
この後のマツダはまたもや『ちょっとした試練』に見舞われることになりますが、その前の『もっとも何もかもうまく回っていた時期』におけるマツダの代表車種が、この6代目BF系ファミリアかもしれません。
※この代のファミリアは5代目として紹介されている場合もありますが、この記事ではマツダ公式の『ファミリア物語』に従い、6代目として紹介しています。
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