日本がバブル景気に湧いていた1980年代末、乗用車メーカーとしてのいすゞ自動車は既に末期的症状を迎えていました。単独での新型車開発は不可能、生産規模の拡大も難しく、1983年に発売したアスカの後継車は開発も生産もままない状態だったのです。しかし全国にまだいすゞの販売網とユーザーが存在し、乗用車の販売を続けている以上は、2代目アスカは必要でした。こうして提携関係にあったスバルから初代レガシィのOEM供給を受け、アスカCXが誕生します。
GMからの要望無し!アスカ後継車開発の道を閉ざされたいすゞの取った道
ミドルクラスセダンのアスカの生産が終了した1989年、バスやトラックを除くいすゞ乗用車 / 商用車の国内ラインナップは以下の通りでした。
ミドルクラスセダン:アスカ(初代)
小型セダン / ハッチバック:ジェミニ(2代目)
スポーツクーペ:ピアッツァ(初代)
大型SUV:ビッグホーン(初代)
小型SUV:ミュー(初代)
4WDピックアップ:ロデオ(2代目)
2WDピックアップ:ファスター(3代目)
ライトバン:ジェミネットII(スバル レオーネOEM)
1BOXバン / ワゴン:ファーゴ(初代)
このうち、国内がRVブームに湧いていた上に、海外での需要もあるSUVやピックアップ、いすゞ製バス / トラックを使う法人や官公庁ユーザー向けの商用車は根強い需要がありました。
しかし、ライトバンは既にフローリアンバン(1983年販売終了)以降新規開発の目処が立たずにスズキ・カルタスバン(ジェミネット)やスバル・レオーネバン(ジェミネットII)のOEM供給が頼りになっています。
乗用車の方も、ピアッツァはデザインこそ新しいもののメカニズム面では初代ジェミニや117クーペ以来の旧態依然たるもので、2代目はモデルチェンジを控えた3代目ジェミニ派生車として後に登場することに。
その3代目ジェミニにしても開発はさておき生産余力に乏しい同社は、既に『詰んでいる』と言って良い状況にあり、後の日産やマツダの経営危機がボヤ騒ぎ程度に思えるほどの状況でした。
それに拍車をかけたのが、GMからの「Tカー(初代ジェミニ)やJカー(初代アスカ)のようなグローバルカーはもう作らない。」という通告で、GMからジオ・ストームとして北米での販売を求められた3代目ジェミニ(というよりPAネロ)はともかく、アスカ後継車の単独新規開発など思いもよらない状況です。
しかし、未だ乗用車販売から撤退はしておらず、販売店も存続している上にユーザーもいる状況では、そう簡単に「アスカはこれでおしまいです!」とはいかないので、ライトバン同様、他社からの供給に頼ることとなりました。
輸入したオペル車を買いますか?スバル製のアスカCXを買いますか?
初代アスカの自社生産終了が決まった時点で、いすゞにとっての選択肢は2つありました。
・同じGMグループの海外メーカーから輸入販売を行う。
・メーカー問わずOEM供給を受けいすゞブランドで販売する。
要はいすゞ販売店にバスやトラック、その他ユーザーがアスカ級の車種を求めた時に応えられれば良かったので、両方の施策が行われることになります。
そして、前者が1989年から1992年までドイツのオペルから輸入販売されたベクトラやオメガ、セネターで、オメガなどはアスカ同様にイルムシャー仕様までいすゞで販売されました。
また、後者が、北米で生産合弁会社SIA(スバル・イスズ・オートモーディブ。現在のスバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ)を共同運営し、日本国内でも既にOEM相互供給関係にあったスバルです。
1988年、既にスバルからいすゞへライトバンのレオーネバン(いすゞ ジェミネットII)を、いすゞからスバルへSUVのビッグホーン(スバル ビッグホーン)を相互供給しており、それに加えて1989年に発売した新型車レガシィ(初代)の供給を受けることになります。
これを1990年6月にアスカ後継車としてCXのサブネームをつけた『アスカCX』の名で発売しますが、ボディタイプはセダンのみでEJ20ターボ搭載の『RS』に相当するグレードは無し。
エンジンは1.8リッターSOHCか2リッターDOHC、途中追加された2リッターSOHCと、3種類の水平対向4気筒自然吸気エンジンで、2リッターDOHC車のみ4WDの設定がありました。
メーカーや車名エンブレム以外は初代レガシィセダンそのもので、スバル独特とも言える水平対向エンジンのメンテナンスも、いすゞ販売店ではジェミネットIIで経験済の為、問題はありません。
ただ、スバルにとっては北米のSIA工場以外で提携しているメリットはそれほど無かったようで、ビッグホーンに至ってはOEM車にしては珍しく車名すら変えないほどだったため、関係は長続きしませんでした。
そして1993年のOEM供給契約終了に伴い、ビッグホーン、ジェミネットIIとともに相互OEM供給を終了。
アスカも3代目からはいすゞの新たなOEMパートナーで、以前からいすゞSUVを販売したがっていたホンダからのアコードのOEM供給に切り替わっていきます。
主なスペックと中古車相場
いすゞ BCM アスカCX 4WD 1990年式
全長×全幅×全高(mm):4,510×1,690×1,395
ホイールベース(mm):2,580
車両重量(kg):1,280
エンジン仕様・型式:EJ20 水冷水平対向4気筒DOHC16バルブ
総排気量(cc):1,994
最高出力:110kw(150ps)/6,800rpm
最大トルク:172N・m(17.5kgm)/5,200rpm
トランスミッション:5速MT
駆動方式:4WD
中古車相場:皆無
まとめ
結局このスバル製いすゞ車『アスカCX』は、3代目アスカ(5代目ホンダ アコード)の販売が始まるまでの在庫販売期間も含め、4年足らずの短命で終わりました。
しかしアスカCXを発売し、オペル車も売っていた頃のいすゞディーラーは、アスカCXや3代目ジェミニ、モデルチェンジしたばかりの2代目ピアッツァにオペル ベクトラ / オメガ / セネターに各種SUVやピックアップトラックと、なかなかの賑わいを見せていたのです。
ただ、それは1992年のオペル車販売撤退、ジェミニとピアッツァの自社生産打ち切り&撤退表明、そして1993年のSUVやピックアップトラックを除く自社生産撤退、スバルとのOEM供給契約終了と悲報が続く中での『枯れ木も山の賑わい』だったかもしれません。
その後のいすゞは自社SUVとピックアップ、ホンダの乗用車、日産の1BOXバン&ワゴンといった感じで取り扱い車種がコロコロ変わっていきますが、その後も意外と長く乗用車のOEM販売を続けています。
なお、現在アスカCXは中古車市場でOEM元の初代レガシィ以上にタマ数が少なく、レア車マニアを狙ったものか、数少ないタマの価格欄には『ASK(応相談)』の文字が踊っています。
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