1970年代を通してスポーティなDOHCエンジン搭載車の販売を続け、1980年代には数少なくなっていた小型FRスポーツとしてラリーやレースで活躍した車は?と聞かれれば、まず挙がるのはトヨタのカローラレビンやスプリンタートレノといった名前だと思います。しかし、その影に隠れて頑張っていた他の小型FRスポーツがあったのを皆さんはご存知ですか?1974年登場のTE37レビンと同期ながら、AE86とほぼ同じく1987年まで末長く生産された初代いすゞ ジェミニも同様に、貴重な小型FRスポーツだったのです。
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陳腐化したベレットを置き換えるため、GM『Tカー』から開発されたジェミニ
1971年にアメリカのGM(ゼネラル・モーターズ社)と提携したいすゞですが、その当時生産していた小型車のベレットは1963年発売で既にかなりロングライフなモデルにも関わらず、GMからは「そのままベレットでもうちょっと頑張って。」と声をかけられていました。
とはいえ、さすがに陳腐化が激しいのでモデルチェンジしたいものの、新車開発余力に乏しかったいすゞとしては、何とかGMの世界戦略車をベースとして新型車開発をさせてもらえないかと頼みこみます。
そこでようやく、当時のGMの世界戦略車『Tカー』として開発されたオペル・カデットをベースとした車両の開発許可が下ります。
堅実ながら実用性の高い設計とヨーロピアンデザインのボディに、いすゞのパワーユニットを搭載した初代ジェミニを開発し、同車は1974年11月に発売されました。
これは、先代にあたるベレットを11年間販売した末のモデルチェンジでしたが、初代ジェミニは結果的にそれより長く1987年までの13年以上も販売を続けられるロングライフモデルとなり、しかも2度のビッグマイナーチェンジを経ていくうちにパワーユニットも進化。
モデル末期には、トヨタのAE86と並び『いすゞ最後のDOHCエンジン搭載小型FRスポーツ』となっていたのです。
また、この頃にはFFとなった2代目ジェミニも併売されましたが、これはFRからFFへの移行期には時々あった話で、他にはトヨタのコロナやカリーナの例もありました。
なお、長く作られる間に2度のビッグマイナーチェンジを含むデザイン変更で、特にデビュー初期と販売末期では別モデルかと思うほどフロントマスクが大きく代わっています。
【初代いすゞ ジェミニ・フロントマスクの変貌】
初期型(1974.11~1977.6):逆スラントノーズと丸目2灯ヘッドライト
中期型(1977.6~1979.6):逆スラントノーズと角目2灯ヘッドライト
後期型(1979.6~1981.10):スラントノーズと通常版角目2灯 / スポーツ版丸目2灯ヘッドライト
最終型(1981.10~1988.2):スラントノーズと異型2灯ヘッドライト
DOHCエンジンやディーゼルエンジンを追加した、スポーティかつ先進的な大衆車
その当初、1.6リッターSOHCガソリンエンジンのみでスタートした初代ジェミニ。
排ガス規制が厳しくなった時代でも電子制御インジェクション化で乗り切ったDOHCエンジン、G180は1.8リッターだったのでジェミニより1クラス上のセダン、フローリアンの販売も考えて、最初は搭載されませんでした。
しかし、ベレットより4年遅れで登場したフローリアンも1967年のデビューから10年が経過して販売が鈍ってきた1977年、ジェミニにも1.8リッター車が追加されます。
さらに117クーペのガソリン車がDOHCエンジンも含め1978年11月に2リッター化された後、1979年11月にジェミニ初の1.8リッターDOHCエンジン車、『ジェミニZZ』が追加されました。
このジェミニZZにハードなスポーツサスペンションなどを組み込んだスポーツ仕様『ジェミニZZ/R』が4ドアセダンと2ドアクーペ双方に設定され、1981年4月から1988年2月まで販売。
トヨタAE86と共に、最後のDOHCエンジン搭載小型FRスポーツとなっています。
また、1.8リッターDOHCガソリンエンジンと同時に1.8リッターディーゼルも追加。
いすゞが得意とする乗用車用ディーゼルエンジンは、後に『世界初の電子制御燃料噴射装置を搭載したディーゼルターボ』に発展し、オイルショック後のガソリンが高い時代に安い燃料代で十分な動力性能を持つ事で人気となりました。
ちなみに、当時はDOHCというより『いすゞ=ディーゼルエンジン』というイメージが非常に強く、現在で言えばSKYACTIV-Dクリーンディーゼルを売りにしているマツダのような存在だったのです。
国内ラリーやレース、そしてオーストラリアでは『ホールデン』ブランドで活躍
小型軽量ハイパワーのFR車で1,600~1,800ccクラスと言えば、日本国内ではトヨタのカローラレビン / スプリンタートレノや三菱のランサー1600GSR、ダイハツのシャルマン、それにいすゞのジェミニといったところが定番です。
特に国内ラリーではこれらがしのぎを削っていた時代で、やがてランサーはターボ化されランタボとして上のクラスへ。
レビン / トレノはAE86の時代になるとワンメイク化に近い人気を誇りますが、それでも頑固にジェミニで頑張るドライバーも存在しました。
また、国外ではオーストラリアに輸出されたモデルが同じGMグループのホールデンブランドで販売され、ホールデン ジェミニはセダンもクーペもレースやラリーで大いに活躍し、今も元気に走っている姿が時々見かけられます。
主なスペックと中古車相場
いすゞ PF60 ジェミニ クーペ ZZ/R 1981年式
全長×全幅×全高(mm):4,235×1,570×1,340
ホイールベース(mm):2,405
車両重量(kg):975
エンジン仕様・型式:G180 水冷直列4気筒DOHC8バルブ
総排気量(cc):1,817
最高出力:96kw(130ps)/6,400rpm
最大トルク:162N・m(16.5kgm)/5,000rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FR
中古車相場:98.9万円
まとめ
初代ジェミニはかなり息の長いモデルで、特にスラントノーズ化された後期型や最終型は1993年のいすゞ小型車独自生産撤退後も、21世紀になる頃までは街でもそこそこ見られました。
さすがにいすゞが商用1BOXおよび、その乗用登録版を除く乗用車(SUVやミニバン)から完全撤退した2002年以降は全くと言って良いほど見かけなくなりましたが、時々見かけると懐かしさに思わず振り返ってしまいます。
DOHCエンジン搭載車の活躍や、ディーゼルエンジンで時代の最先端を行っていたような黄金時代も今は昔、今のいすゞにはその名残もありませんが、いすゞ車をこよなく愛するユーザーにとっての宝物として、まだまだ元気に走る姿を見せてほしいものです。
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