現在でもBMW版ミニには『セブン』というモデルが設定されることがありますが、元ネタは先代ミニ初期型のひとつ『オースチン・セブン』です。しかし歴史の長いイギリスではさらにその元ネタが第2次世界大戦前にもあり、中でも1920年代から10年以上ベストセラーとなり、軽便な自動車であるサイクルカーを駆逐した傑作が、1922年に登場したオースチン・セブンです。

 

オースチン セブン / Photo by Rob Russell

 

社長と若い機械工の2人で反対を押し切り開発された新型車、セブン

 

最初期のオースチン セブン1923年型 / Photo by Sicnag

 

1905年に創業したイギリスの自動車メーカー『オースチン』は、第1次世界大戦以降の不景気で車が売れずに破産寸前となり、とにかくインパクトがあって売れる車の開発を迫られていました。

一方、不景気や燃料の高騰、排ガスが厳しすぎるなど自動車に逆風の環境では小さくて安い車がヒットするのは古今東西変わらぬもので、初期にはボワチュレット、後に『サイクルカー』と呼ばれる安価で軽便、税金も安い超小型車がイギリスでも人気となります。

もちろんオースチンでも、創業者にしてエンジニアのハーバート・オースチンが、「不景気な御時勢に、大きくて高い車など売れるものか。」とばかりにサイクルカーに対抗可能な安い車を作ろうとしますが、失敗を恐れる経営陣は首を縦に振りません。

ならばとばかり、「どうしてもダメなら自分が会長を務めるウーズレー社に作らせる!それが嫌なら私に開発させたまえ!費用は私費で賄うから文句はありませんな?」と自宅に引きこもリ、18歳の若い機械工と2人でわずか1年弱という短期間で、新型車を開発してしまったのが1922年に発売されたオースチン・セブン。

当時の課税馬力数値『7.h.p』相当なことから命名されましたが、1909年にも同名の車を販売していたのでこれは2代目。

発売されるや、確かに安い上に小さく簡便ながらもちゃんと自動車としてのメカニズムを持っていたため人気となり、17年間で29万台も生産されるロングセラー&大ヒットを記録。

イギリスからサイクルカーを駆逐してしまいました。

また、イギリス国内ではなくアメリカやドイツでもライセンス生産型が登場。

日本にも輸入されて、ダットサン(日産)など戦前の750ccクラス小型乗用車にも大きな影響を与えています。

 

小さく安くとも決して貧相ではない『小さな大型車』

 

オースチン セブン / Photo by Loco Steve

 

セブンの特徴は、まさに『安いながらもれっきとした自動車である』ことに尽きます。

当時セブンがターゲットとしたサイクルカーは、少量生産でも安く作れるようメカニズムは単純にして簡素、その名の通り3輪または4輪の自転車にエンジンなどの部品を寄せ集めただけの代物でした。

サイクルカーは日本でも、黎明期の軽自動車や1980年代にまだ原付免許で乗れた時代のミニカー(50ccエンジンの原付自動車)でよく見られた構成で、特に後者はペラペラのFRPボディにスクーターをバラしてそのまま取り付けたような、貧弱な代物さえありました。

もちろん昔のヨーロッパで流行ったサイクルカーも同様で、デフもプロペラシャフトも無く貧弱なエンジンからチェーン駆動で走らせるような簡易的構造でしたから、『そりゃ同じような値段で自動車があればそっちを買う』というユーザーは確実にいたのです。

登場したセブンは、ごく初期に696cc、すぐ747ccに拡大したマトモな水冷直列4気筒サイドバルブエンジンをフロントに搭載し、プロペラシャフトとデファレンシャルギアを通して後輪を駆動。

4輪にブレーキもサスペンションもある、ちゃんとした自動車でした。

いわばサイクルカーが『3~4輪のオートバイ』的な乗り物だったのに対し、セブンは『スケールダウンした大型車』だったのが最大の違いで、小さくても自動車に違いないセブンはユーザーから歓迎されたのです。

そして、メーカーがつけた愛称のある乗り物やエンジンに、さらに独自の名前をつけたがるイギリス人らしく『チャミー(仲良し)』というニックネームをいただいて、1939年に生産を終了するまでサルーンやカブリオレ、クーペ、バンなど数多くのモデルが作られました。

 

かのロータスもはじまりはセブンから。セブン改造車はレースで大活躍!

 

ナンバーはついているが、オースチン セブンが走るには今やサーキットの方が安全かも?これは1930年式  / Photo by Dave_S.

 

日本で言えば安価な軽ボンネット・バン改造レーサーが多数存在するように、セブンも多数の改造レーサーがサーキットを走り回りました。

何しろ安いので簡単に手に入る上に、シャシーに載せられたボディは別体なので自作レーシングカウルの取り付けも容易。

カスタマイズが容易でありながら自動車としての基本構成はしっかりとしており、小型軽量なのでチューンしたエンジンを載せると、なかなか痛快な走りをしたようです。

 

こちらは1929年式のオースチン セブン / Photo by Dave_S.

 

おかげで現在でも走行可能なセブン改造レーサーが多数あり、バックヤード・ビルダーが多く小規模多品種生産で部品入手も容易。

しかも自分でイジれる人も多い(ここが大事!)イギリスらしく、イベントではノーマルから改造車まで多数のセブンが走っています。

また、ライトウェイト・スポーツで著名なロータスも、創業者のコーリン・チャップマンが戦後に中古車販売をしていた時、古すぎて売れ残ったセブンの改造レーシングカーで活躍したのがロータスの始まりなので、セブンの自動車文化への貢献度はかなり大きいものでした。

 

主なスペックと中古車相場

 

トヨタ博物館所蔵のオースチン セブン”チャミー(仲良し)” 1924年型  / COPYRIGHT©TOYOTA AUTOMOBILE MUSEUM

 

オースチン セブン 1924年式

全長×全幅×全高(mm):2,702×1,173×1,592

ホイールベース(mm):1,905

車両重量(kg):419

エンジン仕様・型式:水冷直列4気筒SV8バルブ

総排気量(cc):747.5

最高出力:8kw(11ps)/2,400rpm

トランスミッション:3MT

駆動方式:FR

中古車相場:皆無

 

まとめ

 

「Don’t Panic!」第2次世界大戦前に数多く作られたオースチン セブンは、もちろん英本土で戦争にも使われたはずですが、このバンは戦争ものコメディ『ダッズ・アーミー』由来の模様 / Photo by Les Chatfield

 

今回は駆け足で歴史的名車オースチン・セブンを紹介しましたが、他にも多数のエピソードが残されています。

例えば、戦後ミニを開発、バブルカーやキャビンスクーターを駆逐した名設計者、アレック・イシゴニスも戦前にはセブン改造レーシングカーで活躍していましたし、戦前にセブンに影響を受けて、自動車文化に大きな足跡を残した人物も多数いることでしょう。

自動車文化が花開くには、誰もが手軽に入手できて、基本性能もさることながら『いろいろな楽しみ方』ができる名車の存在が不可欠。

なお、セブン開発時に私財を投じた創業者にしてエンジニアのハーバート・オースチンですが、自腹を切っただけにセブンに関する特許は自らのものとなり、セブンが売れると特許料が入るので、セブンの大ヒットは会社を救うだけでなく個人的にも大儲けになりました。

 

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