名車のモデルチェンジ時は、開発も販売もユーザーもハラハラしながらの結果待ち、ということになりますが、傑作510ブルーバード(3代目)の後継、610型ブルーバードUは少々車格がアップした割にまずまず受け入れられたモデルかもしれません。エンジンについては少々どころではなく何と直6エンジンを搭載、鼻が伸びアクが強いデザインへ様変わりした通称『サメブル』が、今では中古ブルで最高値となっているので、世の中わからないものです。
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お客様(USER)のための『U』。ブルUの愛称で親しまれた4代目ブルーバードU
3代目にしてライバルのトヨペット・コロナを再び蹴落とし大ヒットとなった510ブルーバードですが、後継の610型『ブルーバードU』は4気筒車でも全長で120mm、ホイールベースで80mmも大きくなり、だいぶゆったりとした車格の大きな車になりました。
それだけにこれまでのコロナとの販売合戦、特に610型には引き継がれない1.4~1.6リッターの廉価グレード(1.6リッター車は610にもあるが、当然510より重い)が心配になった日産は、510直系の後継に710型『バイオレット(初代)』を別に準備していたほどです。
しかし結果的には、後述するサファリラリーなどでS30フェアレディZともども奮闘したおかげで人気後退は杞憂に終わり、バイオレットと2台でコロナと戦う形に!!
ちなみに、この代のブルーバードにだけ『U』が加えられた理由は、まずもって併売していた先代510ブルとの区別に必要だったからと想像できますが、『USER(お客様)』の略ですと説明されたこともあり、素直に『ブルU』と略され親しまれます。
そしてお客様のためには、サイズアップして大きくなったボディで約束される快適性がまず第1で、さらにピンと面の張った直線的な先代の『スーパーソニックライン』に対して、柔らかい曲線的なフォルムを採用していたのも、イメージアップに一役買ったかもしれません。
また、直列4気筒SOHCエンジンは1.6リッター(L16)と1.8リッター(L18)の2種類が用意され、L18にはさらにシングルキャブ、SUツインキャブ、EGI(電子制御燃料噴射装置)と、3種類の燃料供給方式を準備。
ボディタイプは4ドアセダンと2ドアハードトップ、およびバン / ワゴンが設定されていました。
ブルGと呼ぶかサメブルと呼ぶか、あなたならどっち?
ブルーバードUが大型化すると、気になるのは『トヨペット・コロナマークIIの存在』です。
もっとも、コロナマークIIの対抗馬はローレルやスカイラインなのですが、1973年8月にブルーバードUが最初のマイナーチェンジを受けると、何と4ドアセダン / 2ドアハードトップ双方のフロントを延長。
直6エンジンを搭載した『2000GT』シリーズを登場させました。
それはまるでスカイライン1500にグロリアの直6エンジンを搭載したS54スカイラインGTのようで、早速スカGならぬ『ブルG』と呼ばれ始めます。
また、見ての通りの迫力満点マスクから『サメブル』という別なアダ名も定着。
2018年8月現在ブルーバードの旧車価格ランキングを出そうとするならば、最高価格698万円の『サメブル』がNo.1となっており、もちろん510も程度良好なら500万円以上はするのですが、同価格帯に『サメブル』が何台かニラミを利かせています。
サファリで優勝争いの末に同着の大激闘!相手は何と?!
『サファリラリーのブル』と言えば、代表的なのはもちろん1970年に総合優勝&1-2フィニッシュを決めた510ブルですが、ブルUも510の後継主力マシン、S30フェアレディZとサファリラリーに参戦しています。
そして、オベ・アンダーソンがドライブした1972年は総合12位で終わりましたが(この時はZも不調で最高は総合5位)、ドラマは翌1973年に待っていました。
日産ヘリテージコレクション『【ラリー】サファリラリーにおける日産チームの成績』を見てもわかる通り、1972年の日産ワークス参戦はZが3台に対しブルUは1台のみで、明らかにサポート的な何かで参戦している雰囲気があります。
そして1973年もZが3台に対しブルUは2台で、サポートが増えただけなのか少しは本気なのか迷うところ。
しかしゼッケンNo.9、ブルU 1800SSSのステアリングを握るスウェーデン出身ドライバー、ハリー・カールストロームは本気も本気。
猛烈アタックでトップとつばぜり合いを繰り広げるのならば、もう文句はありません。
何しろトップ争いをしている相手は、同じ日産ワークスのゼッケンNo.1、フェアレディ240Zを駆る地元ケニア国籍、後の『サファリの仕事人』シェカー・メッタです。
一歩も引かない大激闘は何と最後まで続きましたが、あと少しのところで2位という結果に。
そう、実はブルUもちゃんと『ラリーのブル』だったのです。
結局、オープニングステージでメッタの方が速かったため、という僅差でカールストロームは総合2位に甘んじるのですが、それにしても総合1、2位が同チームで違う車ですから、この時の日産の強さは神がかっていました。
当時の写真を見ると、クルーとそれを囲むチームメンバーのちょっと困ったような『やりきった感』をヒシヒシと感じます。
主なスペックと中古車相場
日産 610 ブルーバードU 1600GL 1975年式
全長×全幅×全高(mm):4,215×1,600×1,415
ホイールベース(mm):2,500
車両重量(kg):1,055
エンジン仕様・型式:L16 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
総排気量(cc):1,595
最高出力:74kw(100ps)/6,000rpm
最大トルク:132N・m(13.5kgm)/4,000rpm
トランスミッション:4MT
駆動方式:FR
中古車相場:168万~698万円(各型含む)
まとめ
510ブルーバード、240Z、PA10バイオレット(2代目)といった猛者に囲まれ、スポーツシーンでの印象はどうしても薄くなりがちの4代目、610型ブルーバードU。
それに加えて直6積んでノーズを伸ばせば顔が怖い、サメブルだと言われ、排ガス規制でエンジンの吹けも悪くなっていき、と踏んだり蹴ったりな印象すらあります。
しかし実際に悲劇的だったのはこの後の5代目810型ブルの方で、610ブルUには中古車市場での圧倒的なサメブルのプレミア価格や、サファリでの歴史に残る大活躍というドラマもありました。
PA10バイオレットも日本では『通好み』になりがちですが、1973年サファリにおけるブルUの活躍は、もっと知れ渡り褒め称えられるべきだと思います。
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