1990年代に入り、世界のレースシーンは大きな岐路に立たされていました。それまでトップカテゴリーだったグループCがレギュレーション改訂の失敗により消滅、下位カテゴリーだったGTが主役の座へと躍り出たのです。こうした変化の中で、夏の風物詩・鈴鹿1000kmレースは着実にGTイベントとしての地位を築き、更なる発展を遂げていきました。今回は、そんな近代GTレースの創世記を彩った優勝マシンたちを振り返っていきましょう。

 

©鈴鹿サーキット

 

1990年 日産・R90CP

 

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1982年に始まった、グループCマシンによる全日本スポーツプロトタイプ選手権(JSPC)。

日産勢は開幕初年から参戦していたものの、最強の敵・ポルシェにタイトルは全て奪われ、ライバル・トヨタと共に厳しい戦いを続けていました。

こうした中、1990年シーズンに日産は初めて自社開発のシャシーを採用したR90CPを投入。

エンジンとシャシーを1から煮詰め直したことで、パフォーマンスを飛躍的に向上させることに成功したのです。

レース専用エンジンである「VRH-35Z型」ターボユニットは、パワーの面では世界選手権で覇を争うジャガー、メルセデスと互角の域に達していました。

そして迎えた鈴鹿1000km。

日産はノバ・エンジニアリングのポルシェ962cとトヨタ 90C-Vを抑え、見事な勝利を手にしたのです。

優勝ドライバーは、同年グループA・スカイラインGT-Rでも大暴れしていた星野一義/鈴木利男のゴールデンコンビでした。

この年以降、日産はJSPCで3連覇を達成。

1960年代以来久しぶりに、スポーツカーレース最速の座を奪還することに成功するのです。

 

1991年 トヨタ・91C-V

 

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翌年から、グループCレギュレーションの大幅な変更が囁かれていた1991年。

この年の鈴鹿1000kmを制したのは、トヨタのセミワークスであるチーム・サードが走らせるトヨタ・91C-Vでした。

ローランド・ラッツェンバーガー、ピエール=アンリ・ラファネル、長坂尚樹というトリオが猛威を振るう日産勢を抑え、優勝を飾ったのです。

このマシンをドライブした3人のうち、F1を目指していたラッツェンバーガーは、1989年からトヨタのワークスドライバーとしてJSPCで活躍。

その速さだけではなく、ファンの会話に自分から割り込んでみたり、ピットロードで突然ラジコンを走らせたりと、茶目っ気のあるキャラクターでも愛されたドライバーでした。

 

1992年 プジョー・905

 

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この年の鈴鹿1000kmは、同年新たに発足したスポーツカー世界選手権(SWC)の1戦として開催されました。
しかし、新たに採用された3.5L NAのエンジンの規程が災いし、開発コスト高騰を避けるようにエントラントは急減少。

その結果、選手権は2大ワークスのみの対決となり、プジョー・905とトヨタ・TS010がシーズン開始当初から火花を散らしていたのです。

また、トヨタにとって鈴鹿は日本凱旋となる負けられない戦いでしたが、結果は2ラップもの大差を付けたプジョー(デレック・ワーウィック/ヤニック・ダルマス 組)の勝利に終わっています。

そんな、まるで2000年代のマシンの様に前衛的なフォルムを持つ905を手がけたのは、のちにトヨタTS020を手がけることになるレーシングデザイナー、アンドレ・デ・コルタンツ。

車体下部とウイングで空力を生み出すそれまでのCカーとは異なり、車両全体を最適な形状にシェイプすることでエアロ・ダイナミクスを追求するという、まさにカウルを被ったF1ともいえるマシンとなっていました。

 

1993年 日産・R92CP

 

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参戦台数が集まらず、わずか1年で終焉となったSWC。

それにより、世界選手権という看板を失った鈴鹿1000kmは大きな岐路に立たされていました。

こういった中迎えた1993年シーズンに、日本ではGTマシンとグループCカー混走の全日本選手権が企画され、鈴鹿1000kmもそのカレンダーに加えられます。

しかし、この選手権はエントラント不足で成立せず、結果的に夏の鈴鹿で単独イベントとして開催されたのみでした。

また、グループCカーの出走は僅かに2台のみとなり、和田 孝夫/鈴木 利男が駆る伊太利屋カラーの日産・R92CPがぶっちぎりの優勝。

プロトタイプカーによる世界選手権も全日本選手権も終了という状況の中、このレースでグループCマシンはほぼ見納めとなったのでした。

 

1994年 ポルシェ・911ターボLM

 

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グループCマシンのエントリーは完全消滅し、GTマシンをメインとする単独イベントとして開催された”新生”鈴鹿1000kmは、GTマシンであれば市販車の改造でプライベーターも参戦可能な為、エントラントの増加が期待されました。

加えて、海外招致に奔走した主催者の努力が実り、ヨーロッパで始まったGT選手権「BPRエンデュランスシリーズ」から多くのマシンを呼び寄せることに成功し、グリッドは一挙に賑やかに!

そして、決勝ではポルシェとNSX-GT2の熱いバトルが繰り広げられる中、ジャン=ピエール・ジャリエ/ボブ・ウォレク/ジーザス・パレハ 組がドライブするGT1クラスの911 ターボLMが勝利する結果となりました。

 

1995年 マクラーレン・F1-GTR

 

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この年から鈴鹿1000kmが新たにBPRのシリーズ戦に加えられたことにより、海外組エントラントは一挙に24台にまで増加します。

そして、ポルシェ勢に加えフェラーリ・F40LM、ベンチュリー・600LM、ブガッティ・EB110SC、マクラーレンF1 GTRなど、多彩なマシンが鈴鹿のグリッドを埋め尽くしました。

対する日本のGT勢はニスモGT-R LM、サードMC8R、ホンダ・NSXなどが勢ぞろいし、この年の鈴鹿1000kmはまさに「日欧GT頂上決戦」として大いに盛り上がりを見せたのです。

ポールポジションはフェラーリが奪いましたが、決勝ではレイ・ベルム/マウリツィオ・サンドロ=サーラ/関谷正徳 組のマクラーレンが優勝。

「究極のロードゴーイングカー」と言われたその驚異のポテンシャルを、日本のレースファンに見せつけたのです。

 

1996年 マクラーレン・F1-GTR

 

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前年に続き、BPRの1戦として開催された1996年のウィニングマシンは前年と同じく、マクラーレンでした。

ガルフカラーに彩られたこのマシンを駆ったのはレイ・ベルム/ジェームス・ウィーバー/J.J.レートの3名。

このうちJ.Jは、F1でのキャリアを終えた後、1995年のル・マンで関谷正徳とともに総合優勝も果たしています。

BPR勢の競技レベルは高く、この年は日本のGT勢が入り込む隙もなく上位をマクラーレンが独占。

一方で各メーカーは打倒・マクラーレンを掲げ、新たなマシン開発をする必要に迫られていきました。

 

1997年 メルセデスベンツ・CLK‐GTR

 

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1997年、FIAは空前の盛り上がりを見せるBPRを吸収する形で「FIA GT選手権」を発足させます。

これに伴い鈴鹿1000kmもそのシリーズ第7戦に組み込まれ、再び世界選手権の1戦として新たなスタートを切ったのです。

そしてシーズン開始当初から、草レース感の漂っていたBPRから打って変わり、早くもメーカー同士の熾烈な開発競争が勃発していました。

マクラーレンF1 GTRを追い落とすべく新たに姿を現した「メルセデス CLK-GTR」、そして「ポルシェ 911 GT1」といったマシンは、もはやプロトタイプカーと言っても良いほど過激に進化。

特にCLK-GTRの速さは圧倒的で、ポールタイムは前年のマクラーレンより、なんと6秒も速い1:56.023を記録しています。

また、本戦でも終始レースをリードし、メルセデスが見事な1-2フィニッシュを達成。

その後、最強を誇ったマクラーレンは塵を排する結果となり、時代が変わったことを強く印象付けたレースとなりました。

ドライバーを務めたのはアレッサンドロ・ナニーニ/マルセル・ティーマン/ベルント・シュナイダーの3名です。

 

1998年 メルセデスベンツ・CLK‐LM

 

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前年に引き続き、FIA GT選手権のシリーズ戦として開催された1998年。

新たにエンジンを5.5L V8へと変更した「メルセデスベンツ・CLK‐LM」は予選ラップで1:52.580 という驚異のコースレコードを刻み、GTマシンが途方もない次元に到達したことを見せつけました。

スタイリングこそ前年型と良く似ていますが、サイドラジエター化によってボンネットが更に低くなっている他、全体に渡ってより低く、フォルムが絞り込まれています。

決勝レースでは2台のワークスマシンが2年連続となる1-2フィニッシュを達成し、ベルント・シュナイダー/マーク・ウェバーの2名がポディウムの頂点に登りました。

 

まとめ

 

©鈴鹿サーキット

 

グループCの時代が終わり、年々恐るべきスピードで進化を果たしたGTマシンの数々。いかがでしたか?

GT頂上決戦の舞台として、新たに活路を見出した鈴鹿1000kmは、翌1999年から新たなスタートを切ることになるのです。

次回は、懐かしの2000年代JGTCマシンが登場。

トヨタ・日産・ホンダ、3大ワークスの栄枯盛衰が楽しめる優勝マシンまとめ、ご期待ください!

 

鈴鹿サーキット公式ホームページ

 

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